海外試乗記|ソフトスポーツの新機軸。ハスクバーナ「Vitpilen 801」

ハスクバーナの新型車「ヴィットピレン801」。先に発売された「スヴァルトピレン801」がスクランブラーテイストを纏うのに対し、スポーツ指向を強めたロードスタースタイルを採用している。ここでは、その詳細を紹介する。

REPORT:河野正士(Tadashi Kono)
PHOTO: Sebas Romero、Marco Campelli
協力:KTMジャパン https://www.husqvarna-motorcycles.com/
衣装協力:クシタニ、アルパインスターズ

排気量1000cc以下のスポーツバイクカテゴリーを牽引

ソフトスポーツバイクというカテゴリーをご存じだろうか。これは欧州や北米のバイクシーンで広く知られている新しいカテゴリーであり、多くのメーカーが個性豊かなモデルを多数ラインナップしている注目のカテゴリー。具体的には、排気量1000cc以下で、スーパースポーツモデルに起源を持たないスポーツモデルだ。このクラスは出力制限による欧州の限定免許制度A2ライセンス・カテゴリーを内包することから、欧州では古くから中型排気量のコアカテゴリーであった。しかしバイクを取り巻く環境は目まぐるしいスピードで変化し、また二輪車が採用する新しいテクノロジーなどによって、二輪車の排気量は拡大。それにともない最高出力は天井知らずで上昇し、安全性や快適性の領域においてライダー操作をサポートする電子制御デバイスを次々と開発/搭載し、車両価格も上昇していった。

そんななか適度な排気量と電子制御デバイスの搭載によって、再び注目を集めてきたのが排気量1000cc以下モデル。プラットフォーム戦略と呼ばれる、ひとつのエンジン&フレームという車両基本パッケージで、キャラクターの異なる複数のモデルをラインナップするバリエーション展開によって価格も抑えられているのもの人気の秘訣だ。

それらは専用設計でないが故の、突き詰めた性能追求には不向きではある。しかし許容量の広いエンジンやフレームを造り込み、走行モードにくわえ、トラクションコントロールやABSといったライダー操作をサポートする電子制御技術を駆使して、パフォーマンスと扱いやすさを際立たせることで、各モデルの個性が凜と立っていることも、このソフトスポーツバイク・カテゴリーの面白いところである。

ハスクバーナがラインナップした新型車「ヴィットピレン801」は、まさにそのソフトスポーツバイク・カテゴリのド真ん中に投げ込まれたモデルである。そしてハスクバーナらしいデザインとパフォーマンスへのアプローチで、カテゴリーを牽引するほどのポテシャルを持っている。

未来的なデザインと共有プラットフォーム

新しいソフトスポーツカテゴリーを牽引する存在となった鍵は、やはりエンジンだろう。75度の位相クランクを持つ排気量799cc水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブエンジンは、クランクシャフト前方、およびシリンダーヘッドにある2本のカムシャフトの間にバランサーをセットし振動を低減。またアクセル操作を電子信号としてエンジンマネージメントシステムに送り、FIのスロットルバルブ開閉や燃料の噴射量をコントロールするスロットル・バイ・ワイヤー・システムを採用。異なる出力特性に合わせて、トラクションコントロールやABS、スリップアジャスターなどライダー操作を支援する電子制御デバイスをセットアップした複数の走行モードもセット。パワーアシスト・スリッパークラッチにくわえ、オプションでクイックシフターもラインナップしている。

そのエンジンをストレスメンバーとするフレームは、クローム・モリブデン鋼のチューブラー構造。それにアルミスイングアームを組み合わせる。このエンジンとフレームを組みわせたプラットフォームは、兄弟ブランドKTMの「790デューク」や「790アドベンチャー」と同じ。KTM傘下の中国ブランドであるCF MOTO社とKTMのジョイントベンチャーがエンジンの開発と製造を担当している。

またハスクバーナが先に発売した「スヴァルトピレン801」とは、プラットフォームにくわえ、前後サスペンションユニットまでも共有している。しかしハンドルバー形状を変更したことでライディングポジションが変更したこと。さらにはロードスポーツ指向の強いタイヤを新たに装着したことに合わせて、前後サスペンションのセッティングも変更されている。

外装類の特徴は、未来的なデザインのヘットライトユニットにあるだろう。レンズやケースで一体化する一般的なヘッドライトユニットとは異なり、リング状のデイタイムランニングライトとヘッドライトユニットが単独で配置されている。その他の外装類は、カバー類を中心としたわずかなパーツを専用デザインとしたほかは、この「ヴィットピレン801」と先に発売された「スヴァルトピレン801」は共通である。

クラスをリードする扱いやすさと走りのパフォーマンス

こう説明すると、ハスクバーナが新たにラインナップにくわえた「ヴィットピレン801」は、プラットフォームとともに前後サスペンションユニットまでも共有する「スヴァルトピレン801」と、走りのキャラクターに変化が無いのではないかと考えてしまう。しかしそれは違う。

801シリーズは、レイン/スタンダード/スポーツの3つの走行モードを標準装備。オプションのダイナミックパックを選択すると、4つ目のライディングモード/ダイナミックが追加される。それらはエンジンの出力特性そのものは、両車で共通している。

しかし、ハンドルバー形状の変更で少しだけ前傾が強くなったライディングポジションと、タイヤ&前後サスペンション・セッティングの変更によって、それぞれの走行モードで走ると、アクセル操作に対する車体の反応が違う。具体的には、よりダイレクト感が増すとか、車体の反応がビビッドになった、という表現だろうか。その反応違いに、私は最初、各モードの出力特性も変更させたのではないかと感じたほどだ。しかし開発車から話を聞くと、各モードの出力特性は両車で変更無しとのこと。ただしライポジやサスセッティング、タイヤの変更に合わせて、スリップアジャスターやトラクションコントロールなど電子制御デバイスのセッティングは変更しているとのこと。もしその反応が気に入らなければ、各モードを選択中でも個別に調整できるからトライしてみてくれ、という答えが返ってきた。またユニークだったのは、シート高もシート形状も同じなのに、「ヴィットピレン801」はシートフォーム(シート内のクッション)を固い素材に変更したという。これもライポジやサスセッティング変更に合わせたもので、車体の反応をダイレクトに感じることはもちろん、より積極的に車体をコントロールしやすくするためだという。

高回転域までストレス無く回るエンジンはとてもパワフルで、フレームや足周りはそのエンジンをしっかりと支える。積極的なハンドル操作に車体は素早く反応するし、車体の向きを変えてからの安定感もあり、そこからの加速が楽しい。ソフトスポーツバイクと表現すると、スポーティさもソフトなのかとイメージしてしまうが、そのポテンシャルは高く、ワインディングでスポーツするのが本当に楽しい。

また開発陣がとても重要だと語っていた低中回転域での扱いやすさにも驚いた。スポーツマインドからツーリングマインドに頭を切り替えてワンディングを流すと、高いギアをキープしたままエンジン回転がドロップしたあとに、コーナー出口でアクセルを開けてもギクシャク感は少ない。この低回転域からの粘りは、街中など混雑した道路状況下でもクラッチやアクセルを神経質に操作する必要もない。

このあたりの幅広い走りのバリエーションには、メカニカルにしっかりと造り込まれたエンジンやフレーム、さらにはさまざまな電子制御デバイスの絶妙な味付けによるところだろう。その総合点の高さが、「ヴィットピレン801」が、ソフトスポーツバイクカテゴリーを牽引する理由である。

ライディングポジション&足つき(170cm/65kg)

シート高は820mm。タンク後端やシート先端が美しくシェイプされていて、800ccモデルとしては非常に足着き性が良い。幅広のバーハンドルはグリップ位置がやや低く、そして前方にある。ステップ位置は「スヴァルトピレン801」と同じ

ディテール解説

排気量799ccの並列2気筒DOHC4バルブエンジン。ラジエターカバーやエンジン底部のスキットガード、ステップ周りのヒールガードもヴィットピレン801の専用デザインとなる
燃料タンクカバーの両サイドが左右に張り出した特徴的なボディデザイン。かなりモダンなデザインだが人間工学に基づいて設計されている
フロントフォークはφ43mmのWP製APEX。左右フォークトップのダイヤルによって伸側/圧側ともに5段階で減衰力調整が可能。スペインのブランド/J.Juan製のブレーキシステムを採用する
リアショックユニットはWP製APEX。リンク機構を持たない直押しタイプ。スイングアームは補強をデザインとして見せるアルミ製オープンラティス構造を採用する
シートレールとリアフレームを兼ねるシートカウル、それに跳ね上がったサイレンサーは兄弟モデル/スヴァルトピレン801と共通。ブラックアウトしてヴィットピレン801のスポーティなキャラクターにフィットさせる
60個のLEDをシームレスに繋げたリング状のデイライトランニングライトと、Bi-LEDプロジェクターを組み合わせた新ヘッドライトシステム
5インチTFTディスプレイは801シリーズ共通。専用アプリを使用すればスマートフォンを接続可能で各種機能を拡張できる。USB-Cコネクターも装備する
シートは、シート高やシート形状に変化はないが、シートフォームを変更。やや固い素材として変更した足周りやポジションに対応している

「ヴィットピレン801」主要諸元

■ホイールベース 1,475mm(+/-15mm)
■シート高 820 mm
■車両重量 約180kg(燃料除く)
■エンジン形式 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒
■総排気量 799㏄
■ボア×ストローク 88.0×65.7 mm
■圧縮比 12.5:1
■最高出力 77kW(105hp)/9,250rpm
■最大トルク 87Nm/8,000rpm
■燃料供給方式 FI
■燃料タンク容量 14L
■レイク角 65.5度
■フォークオフセット量 32mm
■トレール 97.9mm
■フレーム クロームモリブデン鋼チューブラーフレーム
■サスペンション(前・後)WP製APEX43mm倒立タイプ/伸側圧側減衰力調整/140mmトラベル・WP製APEX/伸側減衰力およびプリロード調整&150mmトラベル
■変速機形式 6速リターン
■ブレーキ形式(前・後)300mmダブルディスク×ラジアルマウント4ピストンキャリパー・240mmシングルディスク×ワンピストンキャリパー
■ホイールサイズ(前・後)3.50×17・5.50×17
■タイヤブランド ミシュラン製ロード6
■価格 未定

キーワードで検索する

著者プロフィール

河野 正士 近影

河野 正士

河野 正士/コウノ タダシ
二輪専門誌の編集スタッフとして従事した後フリーランスに。その後は様々な二…