400ccクラスを操っているような軽やかさが好印象。見た目はユニークでも中身はとてもフレンドリー

ドゥカティ・フルスロットル……1,538,000円

ユニークなボディデザインはまさに唯一無二の存在

イタリアの名門バイクメーカー❝ドゥカティ❞は、世界最高峰のレースカテゴリーであるMotoGPにおいても目覚しい活躍を見せています。一方で、伝統的ともいえるLツインというレイアウトのエンジンも健在で、多彩なカテゴリーの市販モデルを製造販売しています。そして2015年、第3世代となるスクランブラーシリーズを発表しました。1960~70年代にかけて単気筒エンジンのスクランブラーモデルを市販していた歴史はありましたが、スクランブラーというジャンル自体がほとんど存在しなくなっていただけに、あえてスクランブラーを復活させたことに驚いた人は多かったのではないでしょうか。しかも、従来のスクランブラーとは趣を異にした独創的なスタイリングも大きな特徴でした。
僕がイメージするスクランブラーは、ロードモデルがベースながらもアップマフラーやブロックタイヤなどでダート走行性を高めたバイクのことです。バイクに乗り始めた70年代には、国産車の中にもスクランブラーというカテゴリーがありましたし、もちろん外国車もそうでした。しかしドゥカティが2014年に発表したスクランブラーは、記憶に残るスクランブラーとはスタイルも方向性も異なるものでした。なので当初は戸惑いもありました。しかし昔のスクランブラーモデルとは異なるアプローチがされた結果、個性あふれるモデルになったのです。

体が開く独特のポジションだけど親しみやすさがある

スクランブラーの現行ラインナップを見てみると、10周年アニバーサリーモデルを含めて800が5タイプ、そして1100が1タイプの計6モデルとなっています。かつては400モデルもラインナップしていましたが、現在はかなり絞られています。その中から今回は800のフルスロットルというモデルを試乗しました。
800という排気量からすると、かなりコンパクトなボディだと感じます。単純な僕はこれだけでも親近感を抱いてしまうのですが、実際にシートに跨るとさらに親しみやすさが倍増します。シート高は795㎜に設定されていて、とにかく足つきがいいのです。しかも車重も170㎏なので、サイドスタンドを払う際に車体を引き起こすのもラクです。ちなみにこの数値は、ホンダのスクランブラーモデルCL250とほぼ同じです。まあ250とはいいませんけど、感覚的には400クラスのバイクを扱っているようです。フラットトラッカー風のワイドなローポジションハンドルは、上体を開かせる独特の乗車姿勢になりますが、軽く前傾するポジションはけっこうリラックスできますし、違和感もありません。
800とは思えないコンパクトなボディは、体格の大小にかかわらず親しみやすいポジションを実現してくれる
シート高は795㎜と低く抑えられているので、足つきへの不安はまったくない
コンパクトボディに加え、車重も170㎏と軽くなっているので、取り回しはラクチンだ
両足がベッタリと路面をとらえ、なおかつヒザにはゆとりが生まれるほど足つき性がいい(ライダー身長:178㎝)

豊かな低中速トルクが市街地を含めた一般道でメリハリある走りを披露

伝統の空冷90度Lツインを採用しているが、ライドバイワイヤの導入で大きく進化。トラクションコントロール、コーナリングABSに連動するライディングモードはスポーツとストリートの2種に切り替えできる。排気量803㏄で最高出力73ps (53.6 kW) /8,250rpm、最大トルク65.2Nm (6.7 kgm) /7,000 rpmのスペックからもわかるように、低中速型のエンジン特性としている
フルスロットルにはテルミニョーニ製ショートマフラーが装着されている。だが音量はかなり抑えられている
こちらもフルスロットル標準装備のクイックシフター。市街地走行ではあまり恩恵を実感しないが、ワインディングでは大活躍してくれる
スクランブラー・フルスロットルの心臓部には、ドゥカティの伝統的エンジンとも呼べるデスモドロミックの空冷Lツインが採用されています。しかしこのエンジン、従来とは異なりライドバイワイヤを導入。それによってスポーツとストリートの2種類のライディングモード切り替えを可能にしています。もちろんライディングモードは、エンジン特性を変えるだけじゃなく、トラクションコントロール、コーナリングABSに連動させています。さらにこのフルスロットルにはオートシフターおよびテルミニョーニ製エキゾーストシステムも採用されています。現在では珍しくはない電子制御システムの数々ですが、新たに導入したという点は大いに評価できるところだと思います。
始動すると、テルミニョーニマフラーからは迫力あるサウンドが放たれる、と思いきや、なんとも静かなエキゾーストノートが発せられ、拍子抜けしてしまいました。さまざまな規制に対応した結果なのでしょうが、もう少し音量があったほうがドゥカティらしいと感じます。ただし現実的には、早朝の住宅地でもエンジンをかけることができるのはありがたいですね。
穏やかなサウンド同様、パワーフィーリングもいたってまろやかです。今回は市街地と郊外の道を走行したのですが、豊かな低中速トルクが功を奏して、発進時から軽やかなレスポンスでスムーズな加速性を見せてくれました。ドゥカティのLツインというと、かつてはもっとバリバリとした荒々しさが特徴的だったのですが、スクランブラーシリーズの中でもスポーティなこのフルスロットルでさえ、マイルドなパワーフィーリングとしていたのが印象的でした。それはストリートモードでもスポーツモードでも基本的に変わりはありません。しかしそうしたマイルドさの中にもしっかりとツインらしい躍動感が感じられるので、走らせていて楽しいし飽きませんでした。
オートシフターに関しては、基本的に2500rpm以上での作動が推奨されているので、低回転を多用する市街地では普通にクラッチ操作をしたほうが自然でスムーズです。試しにクラッチ操作なしでチェンジしてみたところ、やはりショックが大きめで車体に不安定な挙動を与えてしまいます。ある程度回転を上げた場合にはオートシフターでのギヤチェンジが素早く、たとえばワインディング走行する際にはメリハリのあるスポーツ性を楽しめると思います。いずれにしても、個性的なフラットトラッカースタイルから想像するようなアグレッシブさはなく、扱いやすくてフレンドリーな走りを満喫できるのが特徴です。

しっとり感と軽快性が見ごとにマッチしたハンドリング

とにかく軽快なハンドリングが印象的でした。善し悪しは別にして、たとえばワインディングを振り回すようにして走ることができるスポーツ性があります。スクランブラーというよりネイキッドスポーツで走っている感覚に近いかもしれません。そういう意味でも、だれにでもなじみやすいハンドリング特性だといえます。
スタイリングの基本に差異がないのでわかりにくいかもしれませんが、最新のスクランブラー・フルスロットルではフレームもサスペンションも変更されています。実は従来から軽快でクセのないハンドリングを実現していたのですが、このモデルではそれがさらに磨きがかけられた印象です。市街地では横断歩道の白線や路肩の段差など細かなギャップを通過することが多いのですが、それらの衝撃を前後サスペンションがしっかり吸収してくれ、つねに快適な乗り心地を提供してくれると同時に、車体に不安な姿勢変化を及ぼしません。
フレームも剛性としなやかさをうまくバランスさせているので、操作に対してしなやかに対応してくれます。フロント18、リア17インチタイヤを採用しているのですが、この組み合わせも軽薄な軽快性を生まなかった要因だと思います。だから軽快なのにしっとり感があるのです。
落ち着きのある操安性は街乗りはもちろん、ツーリングでも高い快適性を実現してくれ、旅を充実させてくれるはずです。
高品質で高価格、ドゥカティにはそんなイメージがありますけど、スクランブラーはシンプルな装備で価格設定も低くしてあります。そしてシンプルなボディはカスタムベースにも最適で、自分のスタイルにマッチしたモデルへ仕上げることもできます。第3世代登場から10年を経たスクランブラーは、着実に進化していることを実感しました。

ディテール解説

トラッカースタイルにマッチしたセミアップパイプハンドル。幅が広めなので操舵がダイナミックだ
メーターはスクエア形状のTFTカラーディスプレイを採用。昼夜を問わず非常に視認性が良く、情報量も豊富だ。ドゥカティマルチメディアシステムにも対応している
デイタイムランニングライトを採用した丸型LEDヘッドライト。前方に配されたXデザインが特徴的だ
シート下部にビルトインされたテールランプが個性的。ウインカーランプは前後とも小型のLED採用で、カスタムテイストにあふれている
スリムな形状でニーグリップ性に優れる燃料タンクは13.5L容量。ロングツーリングではちょっと物足りない容量だ
フラットでワイドな形状のダブルシートは、自由度が大きく快適性も高い。またタンデムもしやすい
フロントサスペンションはΦ41㎜のKYB製倒立フォーク。タイヤは18インチでショートフェンダーがストリートトラッカーらしさを強調する
フレームは軽量化が図られ、スイングアームも変更された。タイヤは17インチで、前後ともにセミブロックパターンのピレリMT60RSを装着
フロントブレーキにはΦ330㎜ローターにブレンボ製4ピストンラジアルマウントキャリーを装備。シングルながら高い制動力を発揮する
スイングアームの変更でセンター寄りにマウントされたKYB製モノショック。プリロード調整機構付きだ
リアブレーキはΦ245㎜ローターに1ピストンフローティングキャリパーを装備。前後ともボッシュ製コーナリングABSが標準装備される

主要諸元

型式:L型2気筒、デスモドロミック・バルブ駆動システム、気筒あたり2バルブ、空冷
排気量:803cc
ボアXストローク:88 x 66 mm
圧縮比:11:1
最高出力:73 ps (53.6 kW) @ 8,250 rpm
最大トルク:65.2 Nm (6.7 kgm) @ 7,000 rpm
燃料供給装置:電子燃料噴射、50mm径スロットルボディ、ライド・バイ・ワイヤ・システム
エグゾースト:
 テルミニョーニ製ステンレス・スチール・サイレンサー(触媒コンバーターおよびO2センサー付き)、アルミニウム製テールパイプ
ギアボックス:6速、ドゥカティ・クイック・シフト・アップ/ダウン
1次減速比:1速:2.462、2速:1.667、3速:1.333、4速:1.130、5速:1.000、6速:0.923
ギアレシオ:ストレートカットギア 1.85:1
最終減速:チェーン フロントスプロケット 15T、リアスプロケット 46T
クラッチ:油圧制御式、スリッパー/セルフサーボ機能付き湿式多板クラッチ
フレーム:スチール製トレリスフレーム
フロントサスペンション:KYB製41mm径 倒立フォーク
フロントホイール:軽合金 3.00″ x 18″
フロントタイヤ:ピレリ製MT 60 RS、110/80 R18
リアサスペンション:KYB製プリロード調整機構付モノショック
リアホイール:軽合金 5.50″ x 17″
リアタイヤ:ピレリ製MT 60 RS、180/55 R17
ホイールトラベル(フロント/リア):150 mm / 150 mm
フロントブレーキ:330mm径ディスク、4ピストン・ラジアルマウントキャリパー、 ボッシュ製コーナリングABS 
リアブレーキ:245mm径ディスク、1ピストン・フローティングキャリパー、 ボッシュ製コーナリングABS
メーターパネル:4.3インチTFTカラー・ディスプレイ
シート高:
 795 mm 
 810 mm:ハイシート(アクセサリー) 
 780 mm:ローシート(アクセサリー)
ホイールベース:1,449 mm
キャスター角:24°
トレール:108 mm
燃料タンク容量:14.5 リットル
乗車定員数:2
安全装備:
 ライディングモード、パワーモード、コーナリングABS、ドゥカティ・トラクション・コントロール、デイタイム・ランニング・ライト
標準装備:
 4.3インチTFTカラー・ディスプレイ、ライド・バイ・ワイヤ、フルLEDライティング・システム、LEDターン・インジケーター、シート下USBソケット、バリアブルセクション・ロー・ハンドルバー、テルミニョーニ製サイレンサー、ドゥカティ・クリック・シフト、ドゥカティ・パフォーマンス製LEDターン・インジケーター、スポーツスタイル・フロントフェンダー、オイルサンプ・ガード、サイド・ゼッケンプレート、スポーツスタイル・テール、専用シート、専用カラー
オプション対応:ドゥカティ・マルチメディア・システム

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…