2025年型ホンダPCX160と125を乗り込んで、兄貴分と弟分の違いを改めて実感

維持費が安い原付二種の125か、パワフルな軽二輪の160か。PCXに興味があるライダーなら、誰もが一度はそんなことを考えた覚えがあるだろう。かく言う筆者もその1人で、これまでは兄貴派だったものの、2025年型の125と160を同条件で比較した現在は、その気持ちが微妙に揺らいでいる。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダPCX160……462,000円

ボディカラーは125と同じ4色を設定。試乗車のパールジュピターグレーは、2025年型が初採用となるニューカラーだ。

軽二輪クラスで販売台数トップ3圏内の常連

日本市場における2025年型PCXの販売予定台数は、125:1万8500台、160:6500台である。言うまでもなく、弟分が圧倒的に多いのだけれど(ただしPCX160と先代の150は、近年の日本の軽二輪クラスで年間販売台数トップ3圏内の常連)、これまでにPCX125/150・160の比較試乗を何度か体験した僕は、自分が所有するなら兄貴のほうだな……と考えていた。ところが2025年型は、必ずしもそうとは言えなくなったのだ。

本題の前に大前提の話をしておくと、弟分の125と歩調を合わせる形で、2025年型PCX160は仕様変更を受け、5代目に進化している。そして先代以前とは異なる5代目の特徴と言ったら、多くの人が筆頭に挙げるのはカバー付きのハンドルだろう(先代以前はムキ出し&メッキ仕上げ)。とはいえ、逆スラントノーズを採用したフロントマスク、シャープで軽快なラインを描くサイドパネル+リアまわり、存在感が増したシグネチャーライトなども、5代目を語るうえでは欠かせない要素である。

なお5代目のエンジンとシャシーの基本設計は4代目と同様なのだが、実際に2025年型PCX125/160を走らせた僕は、フロントサイドカバーのスリム化による足元のスペース拡大、新作スクリーン(高さは先代+約15mm)&フロントカウルで実現した防風性能の向上、空力の改善やハンドルウェイトの配置変更によってわずかに軽快になったハンドリングを認識。いずれにしても“プレミアム&パワフルPCX”をキーワードとする5代目は、2010年登場の初代から継承してきた“パーソナルコンフォートサルーン”としての資質を維持しながら、先代以前とは異なる魅力を獲得しているのだ。

ここぞという場面で32ccの排気量差を実感

さて、ここからは同条件で2台のPCXを比較しての話で、まずは125、続いて160を乗った僕は、改めて兄貴はイイ‼と思った。もちろん、その理由はパワフルさ。最高出力の差は3.3ps、最大トルクの差は3Nmしか無いものの(125:12.5ps・12Nm、160:15.8ps・15Nm)、信号待ちからのスタートダッシュやコーナーの立ち上がり、幹線道路で前走車を追い抜くときなど、ここぞという場面では32ccの排気量差をしみじみ感じる。

ちなみにPCX125は、一般的な原付二種スクーターと比較すると車格が大きいものの(車重は133kgで、軸間距離は1315mm。参考としてリード125の数値を記すと、118kg、1275mm)、パワフルな160ならそういった問題はほとんど気にならない。また、最高速は試せなかったけれど、クローズドコースで全開加速を行ってみたところ、125が100km/hになかなか到達しないのに対して、160の100km/hはあっという間だった。

ただし、実は今回の試乗で最初に125を走らせた僕は、“アレ、今乗っているのはどっちだっけ?”と感じたのである。その事実は裏を返せば、125もまったく遅くないということだろう。そして以後の僕は2台を交互に走らせる中で、右手の操作に対するパワーユニットの反応がダイレクトな160は魅力的だけれど、往年の負圧式キャブレターを思わせる125の穏やかで従順なフィーリングも、これはこれで大いにアリだと思った。でもどちらかを選ぶとなったら、個人的には兄貴分に惹かれる。

125と160の維持費に大差はない?

というわけで基本的には兄貴派の僕だが、このモデルに関しては、4輪車の保険に付帯できる原付ならではの特典、ファミリーバイク特約(費用は年間1~2万円前後)を考慮して、125を選択する人が少なくないと思う。何と言ってもこの特約を利用すれば、一般的な任意保険より維持費が安く抑えられるのだから。

任意保険は、新規、30歳以上という条件で、チューリッヒのWEBサイトで算出。条件や補償内容によって金額は変わってくる。

ただし上の表を見ていただければわかるように、原付二種と軽二輪の維持費の差はそんなに大きくなく(燃費も同様。WMTCモード値は、125:47.7km/ℓ、160:44.9km/ℓ)、125でファミリーバイク特約を使っても最大で2万円前後なのだ。そして世の中には、ファミリーバイク特約の補償に物足りなさを感じ、125でも一般的な任意保険に加入するライダーが少なからず存在し、そうすると160との維持費の差はさらに小さくなる。

そのあたりの事情も考慮して、僕は以前から兄貴派だったのだが、4代目の価格差が4万5000円だったのに対して(125:36万3000円、160:41万2500円)、5代目は8万2500円である(125:37万9500円、160:46万2000円)。さすがにここまで大きな差になると、安易に兄貴派とは言いづらくなってくるものの……。

現住所が東京都西部で、常日頃から高速・有料道路を利用することが多い身としては、価格差が大きくても、やっぱり160に軍配を挙げたくなるのだ。とはいえ、例えば自分の実家がある岩手県盛岡市(普段の移動やツーリングで高速・有料道路を使う機会は稀)に住んでいることを想像してみると、125を選びそうな気はする。

外観から判別できる125と160の差異は、サイドパネル後部に備わるエンブレムくらい。前後ショックやタイヤも含めて、車体関連部品はすべてが共通。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

運動性と快適性を程よい塩梅で両立したライディングポジションは、弟分の125とまったく同じ。764mmのシート高は、他メーカーの150~180ccスクーターと比較すると低めの部類。ちなみにライバル勢の数値は、ヤマハNMAX155:770mm、同Xフォース:815mm、キムコ・ターセリーS150:790mm、同 KRV180TCS:795mm、SYM DRG BT160:803mm。

ディティール解説

フロントカウルはシリーズ初の逆スラントノーズを導入。ヘッドライト下部にタメを作ることで、見た目の重心を少し上げ、スポーティさを演出。
高級感に貢献するハンドルカバーもシリーズ初の装備。デジタルメーターの表示内容や配置は4代目を踏襲するが、シルバーの外枠はデザインを変更。
フロントインナーカバー左側のボックスには、500mlのペットボトルを収納することが可能。上部にはUSB Type-Cソケットを設置。
メインスイッチはダイヤル式で(イグニッションキーはスマート式)、その右にはシートと燃料タンクリッドのオープンスイッチが備わる。
近年のホンダはほとんどのモデルで、左スイッチボックスのウインカーレバーを最下段に設置。他メーカーで一般的な中段と比較すると、親指の移動量が少なくて済む。
右スイッチボックスは、左との統一感を意識したデザイン。初代から継承してきたアイドリングストップ機構は、上部のシーソースイッチでオン・オフが選択できる。
シートの座り心地はなかなか良好。その下部に備わるトランクスペースは、フルフェイスヘルメットの収納を念頭に置いて、30ℓの容量を確保している。
水冷単気筒エンジンの基本設計は弟分と共通だが、125がロングストローク(53.5×55.5mm)であるのに対して、160はショートストローク(60×55.5mm)。
フロントフォークはφ31mm正立式で、セッティングは125と共通。フットスペースへの走行風や雨の巻き込みを防止するため、フロントパネル内には負圧を軽減するスリットを設置。
ツインショック式のリアサスペンションも125と共通。ブレーキディスクは前後ともφ220mmで、ブレーキキャリパーは、フロント:片押し式2ピストン、リア、片押し式1ピストン。

主要諸元

車名:PCX160
型式:8BK-KF47
全長×全幅×全高:1935mm×740mm×1125mm
軸間距離:1315mm
最低地上高:135mm
シート高:764mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:156cc
内径×行程:60.0mm×55.5mm
圧縮比:12
最高出力:12kW(15.8ps)/8750rpm
最大トルク:15N・m(1.5kgf・m)/6500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:無段変速(Vマチック)
フレーム形式:アンダーボーン
懸架方式前:テレスコピック正立式φ31mm
懸架方式後:ユニットスイング式 ツインショック
タイヤサイズ前:110/70-14
タイヤサイズ後:130/70-13
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:134kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:8.1L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:53.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス1:44.9km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…