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BMW・R 1300 GS…….2,850,000円(消費税10%含む)〜





バリエーション

800ccから始まったボクサーツインのR-GSはモデルチェンジを重ねた進化と共に、今や1300ccエンジンを搭載するビッグモデルに成長している。その価格は300万円に迫り機種によってはそれを大きく超える。車両重量は250kg。ボリュームたっぷりな堂々たるフォルムは圧巻である。
冒険心をくすぐられるそのバイクは、ツアラーとしての確かな快適性を誇る最上級モデルとして定評があり、プレミアムな存在として揺るぎない人気を獲得しているのは良く知られている。
今回のモデルは同アドベンチャーよりも先行して2023年11月に国内導入されたR1300GS。新設計された水平対向2気筒エンジンを搭載し、新機能サスペンションを採用。前モデル比較(欧州仕様)で12kgの軽量化を果たした「新世代GSモデル」と謳われた。そして何よりも特筆すべきトピックは、ツーリングモデルにASA(オートメイテッド・シフト・アシスタント)仕様が投入されたことである。
ASAとはAUTMATED SHIFT ASSISTANTの略称でクラッチ操作とギア・シフトを自動化する新機構の採用を示している。つまり通常の一般的なバイクの扱いで欠かせない、左手による“クラッチレバー操作”と左足ペダルによる“シフト操作”から開放される。
まるでスクーターを扱う様に、右手のスロットル操作だけで発進から加減速、巡航と停止までの各操作が自動制御される。もちろん右手右足によるブレーキ操作は従来通りである。
次のイラストはASAの新メカニズムをクローズアップしたもの。最新エンジンは1250ccから1300ccへの排気量upだけでなく、クランクシャフトの下にギアボックスをレイアウトするボトムマウント式とすることでコンパクト設計が徹底された。同時にASAシステムを追加するための搭載スペースを考慮してデザインされているのである。
イラストはエンジン前方の右上方から見下ろす様にクランクケースを透視したところ。ご存じの通りRシリーズはクランク軸を縦に置くボクサーツイン(水平対向2気筒)で左側後部のシャフトで後輪を駆動するのが特徴。
下図面は右下の角がバイクの前方、左上の角が後方を示す。つまり図面内左下にハーフトーンで描かれたシリンダーヘッドは車体右側の物であり、図面右下のギアが付いた回転する筒状のものは湿式多板クラッチでクランクケースの前端に内蔵されている。
イラスト表現はASAが直接関与するメカニズムに限定されているため、クランクや6速ミッション各ギアの図は省略されているが、左足部のシフトペダルからシフトドラムに至るリンク機構はシッカリ描かれている。エンジンから後輪に至る駆動系のメカニズムは基本的に従来通りであり、クラッチとトランスミッションの基本構造に変更は無いのである。
異なっているのは、手動操作用のクラッチレバー及びその入力(油圧)を受ける従来のクラッチレリーズ機構は撤廃。その代わりにアクチュエーター(作動機)が内蔵されているのがわかるだろう。モーターの回転力を利用する電動式で、図面中の赤い矢印で示すAとBがそれだ。
Aはクラッチ操作を、Bはシフト操作を担う。それぞれアクチュエーターの回転運動がギアを介してAはクラッチレリーズを動かし、クラッチプレッシャープレートに通じるプッシュロッドを押すことでクラッチを切る。逆に戻せば動力が伝わる(クラッチを繋ぐ)仕組み。
一方Bはシフトリンケージ機構の途中に介入する。シフトドラムの直前に位置し、やはりギアを介した動きがシフトドラムを回転させて、6速トランスミッションの変速、つまりギアチェンジをこなすわけだ。
もちろんこれらは電子スロットルを始め燃料噴射や点火系を統合制御するエンジンマネージメントと協調して自動制御されるので、ライダーは右手のスロットル操作だけで簡単かつ快適な走りが楽しめるのである。

Rシリーズ最新のボクサーツイン(水平対向2気筒)は板金シェル構造のスチール製フレームにリジッドマウントされることで、車体の剛性メンバーにも加えられている。ボルトオンされたリアフレームはアルミ製。
同エンジンは次代を担う最新鋭のもので、排気量が50cc拡大されたことはネーミングから推察できる通りだが、全てが一新されたコンパクトな仕上がりを誇っている。先代のR1250と比較するとエンジン単体で6.5kgの軽量化を実現。
さらに驚異的なのは、エンジンの前後長が大幅に短縮されていた。下のイラストはエンジン左側面を描いた新旧2枚の絵を重ね合わせたもの。R1250の上に後端部を揃えて青枠で囲ったR1300を乗せると、ご覧の通りその大幅な小型化ぶりが理解できるだろう。
前述の通りギアボックス(トランスミッション)をボトムマウント。クランク軸と二階建て構造に設計された点が新しいのである。
もうひとつ見逃せなのは、左右のシリンダーヘッドでDOHCを駆動するカムチェーンの位置が工夫された。カムチェーンは左シリンダーが後ろ側、右シリンダーは前側にレイアウトされている。
ご存じの通り水平対向エンジンを上から見下ろすとクランク軸上に締結されるビッグエンド(大端部)の位置が異なる関係で、左右シリンダー位置は前後方向にズレが生じる。Rエンジンの場合左が前寄り、右が後ろ寄りにオフセットされている。
この点に違和感を覚える人が居るのは古くから承知の上だが、それは長年BMWブランドを象徴するRエンジンらしい当然の個性としても捉えられてきたわけだ。
しかし今回はその“ずれ”をゼロに近づけるよう、エンジン前後長の短縮化と共に細部にわたり設計変更されたのである。
従来のR1250では左右気筒の後方にカムチェーンがあり、一旦軸の短いプライマリーシャフトを回し、そこからギアを介して吸排気側それぞれのカムシャフトを駆動する方式だった。
一方R1300は前方寄りの左気筒は後ろ側に、後方寄りの右気筒は前側にカムチェーンを通し、直接的にそれぞれ2本(吸排)のカムシャフトを駆動する方式に変更された。
つまり内部シリンダーのずれは残っているが、その脇を通るカムチェーン分のスペースを、シリンダーブロックのズレ補正に活用する賢い設計が施された。その結果外観上は、左右気筒に見られた前後の“ずれ”が減少され、ほぼ対称に見える様に改善されたのである。
既に10cmを超えていた大きなシリンダーボアはさらに4mmプラスの106.5mmに拡大。逆にストロークは3mm短縮された73mmに。つまりショートストローク化が強調されたのも新しい。もっともよりレベルの高い燃焼効率を追求するため、シリンダーヘッドにより大きな吸排気バルブを投入することが本来の狙いだろう。
実際気筒当たり4バルブの吸気側は1250のφ40mmから1300はφ44mmに、排気側は同じくφ34mmから35.6mmに拡大されている。当然燃焼室デザインも変更されて、13.3対1と言う極めて高い圧縮比を得ている。参考のため記しておくと1250の圧縮比は12.5対1であった。
ちなみに吸気側のカムシャフトには従来からシフトカムと呼ばれる可変カム機構が採用されている。ひとつの吸気バルブに対して隣り合わせで二つのカムプロフィールを持つ。それは高速(全開)用とパーシャル(半開け保持)用それぞれに対応した適切なバルブ開閉タイングをもたらす。コンピュータ制御によるアクチュエーターの作動によって、カムシャフトその物の位置をずらす(前後方向に動かす)ことで使用するカムが切り換わるというシステムである。
結果的に107kW(145PS)/7,750rpmの最高出力と149Nm/6,500rpmの最大トルクを発揮。最高回転はビッグな2気筒エンジンながら、レッドゾーンの9,000rpmまで許容している。
サスペンションはフロントにEVOテレレバーを、リアにはアルミ製シングルスイングアームのEVOパラレバーを装備。電子制御式ダイナミックサスペンションが奢られ、試乗車のツーリング仕様にはアダプティブ車高制御も搭載。
その他グリップヒーターはもちろん、シートヒーターも標準装備。ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)を始め、最新鋭の安全運転支援システムなど豊富な装備が奢られているのである。
極められた雄大な乗り味が心地よい。

試乗車を目の当たりにすると、流石に大柄な堂々のフォルムが印象的。特に車体前寄りのタンクとエンジン周辺に凝縮されたボリューム感は立派である。ただ、30Lのアルミタンクを装備する同アドベンチャーと比較するとシェイプされた雰囲気が親しみやすく感じられてくるから不思議なものだ。
実際シートに跨がり車体を起こしてみると、“手強い”と考えていた大きさと重さに対して、これなら許容範囲ではないかと思えて来た。足つき性も問題ないレベル。少なくともビッグなツアラーとして平坦な舗装路で乗るなら、小柄で非力な記者でも普通に扱えると安心できたのである。
とは言え試乗車はASA装備、プレミアムな最上級仕様のOption 719 Tramuntana で、350 万円を超える高価格には驚かされる。おのずとその扱いは慎重になってしまった。
細部をじっくり観察すると、確かにエンジンがコンパクト。初見で車体の大きさと重さに圧倒されなかったのは、やはりこのエンジンの進化による所が大きいと思う。左右シリンダーの張り出し(幅)が狭くなって見えたのも直感的な親しみやすさに貢献している。
両シリンダーブロックの前後オフセットも、確かに気がつかないレベル。伝統的フラットツインの最新鋭版に披露された革新的な変貌(進化)を目にすると、記者の勝手な印象論ではあるが、どこか国産車に見られる手法やこだわりの熟成改善を見ている様な感覚。
ドイツ車は自らの信念を貫き通す頑固なところがあったものだが、大きくかつ繊細な部分に及ぶ大胆な革新ぶりには、自分の古い感覚(記憶)を覆すほどの驚きを覚えたのである。
さて今回はASAに興味津々。簡単に言うとクラッチとシフト操作が自動化されたもの。エンジンを始動しブレーキを掛けながら左手スイッチでD(ドライブ)モードを選べばあとは右手のスロットルをひねるだけであらゆるシーンでバイクを走らせる操作の全てが賄えてしまう。
一方M(マニュアル)モードがお好みなら、シフトアップ/ ダウンが好きなように左足チェンジで自由自在な操作を楽しむことができるのだ。
こんな時のシフトタッチはクイックシフターを扱うそれと同じで、左足のタッチにはやや硬さが感じられた。また自動制御にお任せのDモードでも左足のシフトペダルを操作すれば、いつでもシフトアップ/ダウンへ任意介入できる。
走り始めると、のっけからASAの出来の良さには感心させられてしまった。実際発進から加速そして減速から停止に至るまで、さらに通常なら半クラッチ操作が求められる様なノロノロ運転でも全く違和感なく的確なクラッチ操作が賢く自動制御されているのが素晴らしい。
発進時のスムーズさ、停止時のクラッチの切れ具合はとても自然。エンジンの低速トルクも不足ない。バイク本来の操作性がスポイルされる要素は皆無で、その扱いやすい乗り味には大きな安心感を覚えた。
クラッチとシフトワーク(タイミング)の出来映えが絶妙なのである。渋滞路や市街地と西湘バイパスを試乗したが、これなら常にDモードで走ることになるであろうことは請け合いである。
従来のバイクとの相違点を探ると走行中に任意にクラッチを切ることはできない。その点はホンダE-Clutchの仕組みと異なっている。しかしエコランなどの特殊なケースを除けば一般的に通常それが必要となる場面はないので、実用上は何も問題ないだろう。
どの回転域でも余裕綽々な頼れるビッグトルクを背景に、常に早め早めのタイミングで小気味よくシフトアップされていく。そのエンジンフィールは太くおおらか。発揮されるパフォーマンスは実に豊かで快適である。
ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)を使うと前方車の速度に追従するオートクルージグが可能。また例えば右車線の後方から車が接近するとそれがバックミラーに映らない死角に入ると同時にその存在を知らせる警告灯がつくから、並走車を見逃すうっかりミスを未然に防いでくれる安心感も大きい。
安全支援装備は他にもある。高価なバイクだからこその充実ぶりだが、安全面や快適性に貢献する各種揃えられた最新設備には大きな価値がある。
ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは50km/h。6速トップで100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,300rpm強だった。どんな場面でもトルクに大きな余裕を感じさせてくれるスロットルレスポンスは優しさと強さを併せ持っている。
操縦性も同様に優しさと素直さが好印象。左右への切り返しやタイトなUターンまで思い通りにかつスムーズに扱える上、常に落ち着きのある乗り味は大きな安心感を伴い、疲れ知らずの快適性が好印象。
左右に張り出すシリンダー位置は高く、サ-キットを攻め込む様なシーンでもバンク角は十分な深さがある。コーナリング中でも効果を発揮するフル・ インテグラルABS Proの装備にも安心感を覚えるのである。
ストロークをフルに活用する前後サスペンションも、動きのスムーズさとストローク位置に関わらず安定した減衰を発揮するフットワークは秀逸だった。
専用試乗コースの直線を占有できるタイミングを見計らって一度だけゼロ発進加速にトライしてみた。停車状態から事務的に右手を全開にしただけだが、出だしから強烈なGを感じさせてくれ、それが持続する豊かなトルク特性は圧巻。
キチンと計測したわけではないが、0~100km/h加速に4秒とかからない。記者の経験上の感覚で言うと、それはおそらく3秒台前半ではないかと思えるポテンシャルだった。
もちろん速さを示すデータでこれを凌ぐ、走りの鋭いバイクは他にもあるだろう。しかしスクーターの如く簡単に扱えてスーパーカー並の実力を平然と発揮。しかも安心快適な乗り味を楽しませてくれる点では他にライバルなき魅力があると思えた。