スポーツバイクにエコは必要か? Z7 ハイブリッドに試乗してモーターサイクルの未来像を考える

ニンジャ 7 ハイブリッドに続き、ネイキッドの「Z7 ハイブリッド」にも試乗した。両モデルの違いはフロントカウルおよびハンドルの形状で、車重はZ7の方が2kg軽い。世界初の量産型ストロングハイブリッドモーターサイクルは、我々ライダーにどんな未来をもたらしてくれるのだろうか。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●カワサキモータースジャパン

カワサキ Z7 ハイブリッド……184万8000円(2025年2月15日発売)

ニンジャ 7 ハイブリッド(試乗記はこちら)からおよそ1か月遅れて、2023年11月に発表されたZ7 ハイブリッド。カワサキのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みの一環であり、ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせた自社開発のパワーユニットを搭載する。
近年のZシリーズを象徴する“Sugomi”デザインを踏襲。車体色は写真のメタリックブライトシルバー×メタリックマットライムグリーンのみだ。3年間のアフターケアが付帯する「カワサキケアモデル」で、価格はニンジャ 7 ハイブリッドと同じ184万8000円。
Z7 ハイブリッド
エリミネーター プラザエディション

ホイールベースはエリミネーターよりも15mm長い1535mmを公称。車重は226kgだ。秀逸なハンドリングを有するZ650がそれぞれ1410mm、189kgなので、Z7ハイブリッドをスポーツバイクとして成立させるにはなかなかに困難であったことが予想される。

クラッチレバー&シフトペダルのないイージーライディングを実現

メインスイッチをオンにする。この時点でギヤが入っていると、エンジンからかすかにカチャッという音が聞こえ、自動的にニュートラルに切り替わる。続いてスタートボタンを押すとエンジンが「ブルルンッ」と始動するのだが、セルモーターならではの「キュルルルッ」という音がしないのは、スターターを兼ねるISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を採用しているからだろう。スクーターなどのコミューターでは15年ほど前から使われているシステムであり、これをモーターサイクルに導入したのは画期的と言えるだろう。

カワサキのパーツカタログより引用。線で囲われているのがシフトチェンジモーターだ。

ライディングモードはスポーツHV/エコHV/EVの3種類。さらにシフトモードがATとMTの2種類あり、スポーツHVはMTのみ、エコHVはATとMTが選べ、EVはATのみ(4速まで)となっている。

カワサキ独自の電子制御トランスミッションを採用しており、クラッチレバーとシフトペダルは存在しない。
ライディングモードやAT/MTモードの切り替えは左側に集約されている。車両が停止すると自動的に1速に戻すALPF(オートマチック・ローンチ・ポジション・ファインダー)も採用。

サイドスタンドを上げる。続いて人差し指で左スイッチボックスにあるシフトセレクター(+)を引くと、エンジンからカチャッという音が聞こえ、シフトインジケーターの表示が「N」から「1」に切り替わる。その上にはスポーツHVモードであることを表す「SPORT」の文字が表示されている。さぁ、これで発進の準備は完了だ。スロットルを徐々に上げると2000rpm付近で車両がスルスルと動き出し、機械任せのクラッチの接続が極めてスムーズなことに感心する。

スポーツHVはMTモードのみなので、何も操作しなければギヤは1速のままだ。シフトセレクター(+)を引いて2速、そして3速へとシフトアップする。クイックシフター採用車の中には、特にローからセカンドに変速する際、大きな衝撃を伴うモデルが少なくないが、Z7 ハイブリッドの場合は非常にショックが小さく、これが初の電子制御トランスミッションとは思えないほどに完成度が高い。なお、シフトアップはスロットルを開けている時のみ、ダウンは閉じている時のみ受け付けるので、ギヤが思い通りに切り替わらない場合は右手の動きも確認してほしい。

エンジンは180度位相クランクの451cc水冷パラツインで、体に伝わる振動や排気音はZ400よりも少し大きいかなという程度だ。しかし、スポーツHVモードでの加速感は600ccクラスに近いことから、振動から想像する力量感との差異から駆動モーターのアシスト力を実感する。スロットルを戻した時には回生システムが働き、減速エネルギーがバッテリーに充電されるが、エンブレというか減速具合は実に自然であり、総じて右手の動きに対するレスポンスは良好だ。

シリンダー背面に9kW(12.2PS)を発生する駆動モーターを、シート下に48Vのリチウムイオンバッテリーを配置する。システムとしての最高出力は69PS、最大トルクは60Nmであり、これはZ650(68PS、63Nm)と同等のスペックだ。

そして、このスポーツHVモード時のみ使えるのが「eブースト」だ。車速が10km/h以上、かつスロットル開度が20%以上の時にeブーストボタンを押すと、約5秒間だけ駆動モーターの出力がアップする。これを使用した時の加速力は、エンジン単体のそれとは明らかに異なり、蹴飛ばされるとか突進などと表現できるものだ。eブーストの残量はバーグラフで表示され、一度使うと回復するまでに少々時間を要する。現状、スロットルを20%以上開けながらeブーストボタンを押すのはコツがいるので、峠道でコーナーの立ち上がりのたびにこれを使うのは難しい。だが、ストロングハイブリッドのパフォーマンスを知らしめるギミックとしては非常にユニークであり、カワサキの遊び心が感じられる。

市街地など、通常の移動で多用するのがエコHVモードだ。このモードのみATとMTのどちらかを選択でき、前者は一般道の走行においてはなかなかに賢かった。赤信号で停車するとアイドリングが自動的に止まり、その瞬間バイク周辺に静寂が訪れる。信号が青に変わってスロットルを開けると、まずは駆動モーターのみで「ミューン」と発進し、20km/hを過ぎるとエンジンが自動的に「ブルルンッ」と始動。その後は30km/hで3速、40km/hで4速と順次シフトアップしていく。スロットル開度25%以下で事足りるようなシーンでは、このATによる自動変速は極めてスムーズであり、速度の低下に応じてシフトダウンも適切に行われる。ただし、スロットル開度50%以上を多用して元気良く走ろうとすると、油圧クラッチの切断時間が長く、変速のたびに車体がピッチングするほどのショックが発生する。また、勾配などで負荷が大きく変化すると、最適なギヤが選ばれないこともあった。

そういう場面では、ATモードであってもシフトセレクターで任意にギヤを変更できるので、それさえ知っていれば困ることはない。現状、ハードとしてはほぼ完成の域にあるという印象なので、あとはソフトの煮詰め次第で大きく改善されるだろう。

駆動モーターのみで走行するEVモードについては、スロットルを開けて発進すると4速まで自動的に変速し、最高速は60km/hに制限される。パワー感としてはZ250の低~中回転域に匹敵し、勾配が10%を超えるような上り坂もグングン進む。「ミューン」というモーター音だけで進むのはなかなかに新鮮であり、静かに移動できることのメリットは非常に大きい。なお、走行可能距離である約10km分のバッテリー残量を使い切ると、回復するまでにけっこうな時間を要するが、それでも十分に実用的なモードであるのは間違いない。

カウリングの有無におけるニンジャ 7とZ7の走りの違いとは

ニンジャ 7 ハイブリッドとZ7 ハイブリッドは一卵性双生児であり、両車の違いはフロントカウルの有無とハンドル形状ぐらいだ。しかし、それだけとはいえハンドリングには少なからず差がある。ニンジャ 7の方はフロント周りに落ち着きがあり、防風効果もあることからZ7と比べるとツアラーのような印象だ。これに対してZ7は、ネイキッドらしく操縦に対する反応がキビキビとしており、街乗りがメインならこちらを選びたい。

両モデルともハンドリングについては、長いホイールベースによる旋回力の低さを補うためだろうか。フロントの舵角の付き方が早く、イン側に切れようとするハンドルの動きを妨げないように心掛ければ、大小のコーナーをスムーズに旋回できる。主に226kgという車重によって、スポーツバイクの操安性としてはやや苦戦している感が否めない。だが、ハイブリッドの先駆者であるトヨタのプリウスが長年かけてハンドリングを熟成させていったように、ニンジャ650やZ650といった傑作を生み出したカワサキならば、この問題はいずれ解決してくれると信じている。

ニンジャ 7、Z7ともハンドリングの熟成に期待する。

Z7 ハイブリッドのライバルとなりそうなのは、エンジンのスペックが近いこと、また電子制御トランスミッションを採用していることなどの理由から、今年2月に発売されたヤマハの「MT-07 Y-AMT」が該当しそうだ。

ヤマハ・MT-07 Y-AMT ABS。価格は105万6000円。クルーズコントロールやトラコン、ナビ表示機能などを備える。足周りもラジアルマウントキャリパーにスピンフォージドホイールと非常に豪華だ。

この2台、自動変速機構によるイージーライディングが可能という点は共通だが、車両価格が79万2000円と大きく離れているため、どちらかで迷う人はほとんどいないかもしれない。Z7 ハイブリッドは、取り回しの際に重宝するウォークモードや、静かに移動できるEVモードの存在が個人的に気に入っており、これは内燃機関のみでは不可能な芸当だ。名車Z1に端を発する偉大な「Z」の歴史の1ページに、このストロングハイブリッド車を加えたカワサキの意気込みに大きな拍手を送りたい。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

バーハンドルを採用している分だけニンジャ 7よりも上半身がアップライトに。
シート高は795mm。Z650より5mm高いが、足着き性はご覧の通り良好だ。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…