クセ強な直線番長であることに存在意義あり ハーレーのスポーツスターSは個性のカタマリだ

2021年の秋から日本でもデリバリーがスタートしたハーレーダビッドソンのスポーツスターS。その2025年モデルは、エンジンのカバー類をブラウンからブラックに変更するとともに、リヤサスのホイールトラベル量を51mmから82mmへと増やした。122.7PSを公称する水冷スポーツスターの魅力にあらためて迫ろう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ハーレーダビッドソンジャパン

ハーレーダビッドソン・スポーツスターS……199万8800円~(2025年3月21日予約開始)

1957年に誕生したスポーツスターシリーズ。60年以上もの長きにわたって空冷45度V型2気筒というレイアウトを貫いてきたが、ついに別れを告げて新世代へ。現行モデルが搭載しているのは、パンアメリカシリーズとベースを共有する1252cc水冷60度V型2気筒“レボリューション・マックスT”で、最高出力は121HP(122.7PS)を公称する。
写真は2024年モデル。2025年モデルはエンジンをオールブラックとしたほか、リヤサスのホイールトラベル量を2インチ(50.8mm)から82mmへと61%も増やしている。それでいてシート高が765mmのままで、価格据え置きというのも見逃せない。
標準装着タイヤはダンロップのGT503で、ハーレーダビッドソンのロゴ入りだ。サイズはフロントが160/70R17、リヤが180/70R16となっており、フロントはファットボーイの160/60R18と同じ太さだ。あえてサイドスタンドを短くしているのか、車体の傾きが大きいのが気になるところ。

蹴飛ばされるかの如く強烈な加速感はまさにスレッジハンマーだ

かつて空冷時代のXL883(パパサン)を本気で購入しようと検討していた筆者だが、その熱が冷めてずいぶん経ったころに発表された水冷エンジンのスポーツスターSは、好意的に受け止めることができた。全体的にモダンな作りではあるものの、かつてのフラットトラックレーサーXR750をオマージュしたであろうスタイリングに一切の隙がなく、さらに圧倒的な凝縮感も他の追随を許さないほどだ。伝統の“スポーツスター”という名を冠しているからこその賛否両論はあるが、もし空冷時代のスタイリングを求めるなら975ccの“ナイトスタースペシャル”を選ぶという手もあろう。

スポーツスターSと同じスポーツファミリーに属するナイトスタースペシャル(188万8800円~)。エンジンは975ccの水冷60度V型2気筒で、89HP(90.2PS)を発揮する。タイヤサイズは空冷時代と共通のフロント19/リヤ16インチで、リヤサスはツインショックだ。

スポーツスターSに搭載されているエンジンは、パンアメリカシリーズのレボリューション・マックスをベースとしたもので、低中回転域のトルクを増強していることから“レボリューション・マックスT”と名付けられている。ライディングモードはスポーツ/ロード/レイン/カスタムA/カスタムBの5種類で、トランスミッションは現代的な6速とされる。

エンジンはパンアメリカシリーズの1252cc水冷60度V型2気筒をベースに、バルブおよびポートの小径化や燃焼室形状の変更などにより、3000~6000rpmでのトルクを10%増やした“レボリューション・マックスT”を搭載。鍛造ピストンの形状や吸気側の管長、可変バルブタイミング機構VVTのプロファイルなども専用となっている。最高出力はパンアメリカの150HP(152.1PS)に対し、121HP(122.7PS)を公称する。

かつてのV-RODシリーズも水冷60度V型2気筒だったが、実際に走り始めると雰囲気がやや異なることに気付く。それもそのはず、このエンジンはクランクピンを30度位相させることで、90度Vツインと同じ爆発間隔になっているのだ。これを聞いたとき、「同じ手法でハーレー伝統の45度Vツインを仮想的に作ることも可能なんだろうな」と思ったが、それをしなかったのは90度Vツイン(もしくは270度位相クランクのパラツイン)の爆発間隔に何らかのメリットがあるからだろう。

さて、このスポーツスターS、ロードモードにしろスポーツモードにしろ、クラッチをつないだ瞬間から怒濤の加速祭りが幕を開ける。パンアメリカよりも30PS少ないが、2000rpm付近からの加速感は明らかに上回っており、油断しているとお尻がシートカウルへと滑り落ちてしまうほどに強烈だ。スロットル開け始めのマナーが良いなど、全体的に扱いやすいのはロードモードの方だ。これに対してスポーツモードは、ドラッグレーサー的なドッカンパワーをどの回転域からも引き出すことができ、その骨太な加速フィールには麻薬的な快感も伴う。

レインモードは、スロットルレスポンスが全域で穏やかになるものの、1252ccVツインのトルクはそうそう簡単に減らせるものではなく、C-TCS(コーナリング強化トラクションコントロールシステム)やDSCS(ドラッグトルクスリップコントロールシステム)、エンハンストリフト抑制機能などがライダーを優しくフォローしてくれる。サイレンサーがライダーに近いこともあり、耳に届くエキゾーストノートは図太くも洗練されており、この独特なサウンドもスポーツスターSをモダンに感じさせる要因の一つになっている。

個性的なハンドリングでベテランライダーに挑戦状を叩き付ける

スポーツスターSの車重は228kgで、ハーレーとしてはかなり軽量な部類に入る。ホンダのレブル1100(STDモデル)が226kgなので、ほとんど同じと言っていい。ただし、駐輪時の車体の傾きが大きいため直立させるのに力が必要なのと、前後タイヤの太さが生む転がり抵抗の大きさ、さらにバーエンドミラーによるハンドルの握りにくさなどもあり、ちょっとした取り回しで苦労するのは事実だ。

しかし、それは個性的なハンドリングに比べれば些細な問題である。人が歩くような微速域ではハンドルが切れ込みやすく、操縦に慣れていないビギナーならヒヤリとしてすぐに足を出してしまうだろう。そこから上の60km/hまで、つまり一般道での法定速度内では、スムーズに舵が入るときもあれば、車体がうまく倒し込めない時があるなど、ハンドリングに一貫性がない。おそらくフロントタイヤが操舵に与える作用が大きいのだろう。160mmと非常にワイドながらラウンド形状はやや尖っているため、路面の傾斜や轍の影響を受けやすいのではないだろうか。

ショーワ製のφ43mm倒立式フロントフォークはフルアジャスタブル。ホイールトラベル量は92mmだ。フロントブレーキはシングルディスクで、ブレンボ製のラジアルマウント式4ピストンキャリパーを採用する。標準装着タイヤはダンロップ・GT503だ。
フロントフォークのアジャスターはトップキャップに集約。左右にプリロード、右が圧側減衰力、左が伸び側減衰力だ。

高速道路で多用する100km/h付近では、鉄壁の直進性を発揮する。そこからの高速コーナーは、ハンドルの押し引きに多少なりとも腕力を必要とするが、倒し込んでさえしまえばそれなりに旋回する。ただし、車体が起きようとする力が強いため、旋回中はライダーがそのバンク角を意識的に維持しなければならない。

以上のことから、総じてハンドリングは「クセが強い」という評価になるが、決して一般ライダーが御せないレベルではない。これは唯一無二のスタイリングや直進性とのトレードオフであり、「最近のバイクは乗りやすくなりすぎて歯応えがない」と嘆いている人にこそ、ぜひ試乗してほしい1台だ。

なお、乗り心地については、加速中に大きめのギャップを通過するとそれなりに突き上げを喰らうが、巡航中はまずまずといったところ。これは2025年モデルで改良されたリヤサスが功を奏したように思う。

リヤサスペンションはボトムリンク式のモノショックで、ショックユニットはショーワ製のフルアジャスタブルだ。2025年モデルではホイールトラベル量を51mmから82mmへと増やしている。
リヤショックは油圧プリロードコントローラー付きだ。

一通りの試乗を終え、スポーツスターSのライバルになりそうな機種を考えてみた。スペックや価格的に最も近いのがインディアンのスカウト・ボバーで、おそらくこちらの方がスタイリングの面において万人向けだろう。

インディアンのスカウト・ボバー。エンジンは1250ccの水冷60度V型2気筒で、最高出力は105HP(106.5PS)を公称。車重は246kgなのでスポーツスターSより18kg重いが、シート高はレブル250より低い665mmとなっている。価格は196万円~だ。

ただ、スポーツスターSのスタイリングに惚れてしまった人は、他にどんなバイクを勧めたとしても見向きもしないだろう。発せられるオーラは唯一無二であり、これほど承認欲求を満たしてくれるバイクは他にない。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

シート高は765mm。レブル250の690mmほどではないにせよ、視界は明らかに路面に近く、足着き性も抜群に良い。潔いほど前方にあるステップと、低めのハンドル位置で構成されるライポジは非常に個性的で、腰痛持ちにはややつらいかも。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…