誕生から6年のスズキKATANA。見た目からは想像できない、スーパーモタード的なハンドリングが堪能できる|1000kmガチ試乗【1/3】

外装には往年の名車を思わせる雰囲気が盛り込まれているけれど、現代のカタナの乗り味はネオクラシック系ではない。このバイクはスーパースポーツのDNAを継承するスポーツネイキッドで、峠道ではスーパーモタード的な軽快さが味わえるのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキKATANA……1,661,000円

往年のGSX1100Sカタナと同様にシルバーをメインカラーとする現代のカタナだが、その一方でブラックやマットブルー、グレーなどを設定し、2021年には100台限定でレッドカラー車を販売。試乗車のパールビガーブルーは、2025年型が初採用となる新色だ。

誕生から約6年が経過して、意識が変化

2019年に新世代のカタナを初めて体験したとき、これは評価がなかなか難しい……と、僕は思った。乗り味は面白いけれど、往年のGSX1100Sカタナとは似て非なるルックスが個人的にはいまひとつピンと来なかったし、開発ベースにして基本設計を共有するGSX-S1000(初代の登場は2016年)より価格が40万円ほど高かったことも、僕としては違和感を覚える要素だった。

ところが2025年の今、久しぶりにカタナとじっくり付き合ってみたら、意識がガラリと変化。その背景には、誕生から約6年が経過して往年の名車と比較という意識が消失、直近のモデルチェンジでGSX-S1000との価格差が15万4000円に縮小、という事情がなくはないものの、今現在の僕の中にはそういった要素に囚われることなく、ニュートラルな気持ちでこのバイクの魅力を改めて記してみたい、という意識が芽生えているのだ。

ルーツはスーパースポーツのGSX-R1000

特徴的なフロントカウルとタンクカバーは往年のGSX1100Sカタナを彷彿とさせるデザイン。LEDヘッドライトは上下2灯式で、その左右下部にはポジションランプを設置。

本題に入る前に大前提の話をしておくと、兄弟車であるカタナとGSX-S1000のルーツとなったのはスーパースポーツのGSX-R1000シリーズで、並列4気筒エンジンのベースはK5~8(2005~2008年型)、トラス構造のアルミスイングアームはK9~L6(2009~2016年型)から転用している。なおツインスパータイプのアルミフレームもK9~L6によく似た構成だが、フロントエンジンハンガー周辺のあえて剛性は少々落としているようだ。

エンジンはGSX-R1000のK5~8用がベース。2000年以降の大排気量4気筒の基準で考えると、73.4×59mmという数値はロングストローク指向。

そんな素性の2台を2019年に乗り比べた際の僕は、カタナ:やや従順でフレンドリー、GSX-S1000:ややアグレッシブという印象を抱いたものの、2021/2022年に行われたモデルチェンジで各車の立場は逆転したようで、現行モデルはカタナのほうがややアグレッシブ。と言っても、GSX-R1000がルーツの2台はいずれも万能車的な資質を備えているのだが、例えば大型2輪のビギナーがカタナとGSX-S1000の新車でどちらを購入するかで迷っていたら、僕は後者を推しそうである。

ではカタナがどんなライダーに向いているのかと言うと、それはやっぱりスポーツライディング好きだろう。もちろんスポーツライディングに対する考え方は人それぞれだし、GSX-S1000もスポーツライディングは十分に楽しめるのだけれど、カタナでワイディングロードを走っていると、他に類似車両が存在しない、唯一無二の資質を備えている……ような気がしてくるのだ。

兄弟車やライバル勢とは異なるライポジ

カタナでいろいろなワインディングロードを走って、僕が最も感心したのは軽快なハンドリング。ただし、215kgという車重はホンダCB1000ホーネットやヤマハMT-10などと同等で、ヨーロッパ生まれの4気筒スポーツネイキッドの中にはさらに車重が軽い車両が存在するのだが、スーパーモタードを思わせるフィーリングで、大小のコーナーをヒョイヒョイッと軽やかにこなして行けるのは、カタナならではの美点だと思う。

そういった走りを生み出す主な原因は、ライディングポジションだ。この点は兄弟車のGSX-S1000と比較するとわかりやすいのだが、今どきのスポーツネイキッドの基準で考えると、カタナは着座位置が前方で、ハンドルグリップ位置が高い。だから久々の試乗だと最初は何となく違和感を抱くし、超高速域では居心地の悪さを感じることがあるものの、日本の至るところに存在する県道や舗装林道、見通しが悪くて舗装も良好とは言えないチマチマした道が、このバイクはものすごく楽しい。

もちろんそのフィーリングには、快適性より運動性重視の前後サスペンション、剛性が十二分でも硬さを感じないフレーム、どんな回転域でも忠実な反応を示すエンジンなども貢献しているはずだ。とはいえ、兄弟車やライバル勢とは異なるライディングポジションを抜きにして、カタナの軽快なハンドリングは語れないのだ。

ネオクラシック系ではない?

さて、何だかライディングポジションを強調する展開になってしまったけれど、今回の試乗で僕は改めて、このモデルがスーパースポーツの技術を転用した現代的なスポーツネイキッドであることを認識。などと書くと、何を今さら当然のことを言っているんだと異論を述べる人がいそうだが、往年の名車の名を冠し、外装の一部にGSX1100Sカタナ的な雰囲気を取り入れていても、カタナの乗り味はネオクラシック系ではないのである。

ちなみに、普段の僕はカタナと同様の生い立ちのバイク、スーパースポーツの技術を転用して生まれたスポーツネイキッドに乗ると、各部にデチューンの気配を感じ、開発ベースのほうが魅力的?と感じることが少なくないものの、カタナの試乗中はそんな気分にならなかった。

その理由は、兄弟車のGSX-S1000とは異なるスタンスで、ストリートをメインとするスポーツライディングの楽しさがしっかり作り込まれているからだ。と言ってもルーツになったGSX-R1000シリーズと比較すれば、最高出力は少なく、車重は重く、足まわりにはコトダウンの気配を少々感じるのだが、だからと言ってカタナの操る楽しさがGSX-R1000に劣るわけではまったくない。

もっとも、実際にカタナを実際に購入するとなったら、悩ましいのが兄弟車である。前述したように、大型2輪のビギナーには乗り味がオーソドックスでシートが低い(カタナ-15mmの810mm)GSX-S1000が向いているだろうし、ロングランに使用するならフルカウルバージョンのGSX-S1000GTや、セミアクティブ式サスを装備するGSX-S1000GXのほうが快適なのだから。とはいえ、今回の試乗で約1000kmを走って好感触を得た僕は、カタナならではの魅力を世間にアピールしたい気分なのだ。というわけで近日中に公開予定の第2回目では、さらに突っ込んだ内容をお届けしたい。

操安性を決定する重要な要素、キャスター角:25度、トレール:100mm、軸間距離:1460mmという数字は、兄弟車のGSX-S1000と同じ。ただしシート高は、カタナ:825mm、GSX-S1000:810mmで、ハンドル形状を表す全幅・全高は、カタナ:820・1100mm、GSX-S1000:810・1080mm。

主要諸元

車名:KATANA
型式:8BL-EK1AA
全長×全幅×全高:2130mm×820mm×1100mm
軸間距離:1460mm
最低地上高:140mm
シート高:825mm
キャスター/トレール:25°/100mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:998cc
内径×行程:73.4mm×59.0mm
圧縮比:12.2
最高出力:110kW(150ps)/11000rpm
最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/9250rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.562
 2速:2.052
 3速:1.714
 4速:1.500
 5速:1.360
 6速:1.269
1・2次減速比:1.533・2.588
フレーム形式:ダイヤモンド(アルミ製ツインスパー)
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:ボトムリンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:190/50ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:215kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:21.2km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:16.2km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…