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ハーレーダビッドソン・ストリートグライドウルトラ……440万8800円~(2025年3月21日予約開始)




パワフルさの中に柔らかな脈動感と扱いやすさあり

セグメントの統廃合により、かつてシンプルに“ツーリング”と呼ばれていたファミリーは、今では“グランドアメリカンツーリング”と名称を変更している。ハーレーのメインストリームであり、筆者が最後に試乗したのは2019年モデルのエレクトラグライドスタンダードだ。エンジンは空油冷のミルウォーキーエイト107(1745cc)で、従前のツインカムからの進化ぶりに驚いたのを今でも覚えている。

さて、今回試乗したのは2025年のニューモデルとして登場した“ストリートグライドウルトラ”だ。昨年デビューしたストリートグライドの上位モデルであり、また2024年モデルを最後にディスコンとなったウルトラリミテッドの後継と見ることもできる。
エンジンはミルウォーキーエイト117と呼ばれる1923ccの空水冷45度V型2気筒で、175Nmという強大なトルクを3500rpmで発生する。2リッターのVツインと聞いて思わず尻込みしてしまうが、ハーレーは加速/減速/旋回のあらゆるシーンにおいてトラクションを制御できるよう、さまざまな安全性強化機能を盛り込んでいる。

試乗時間が限られていたことから、ロードモードをメインにテストを実施した。このミルウォーキーエイト117、400kgに迫る車体を軽々と発進させられるほど低回転域から力強いが、何より感心したのはFIの調教ぶりだ。半クラッチを使いながら人が歩くような速度を維持していても、ストンとエンストしてしまうようなそぶりが一切ない。スロットル開け始めの反応が緻密だからこそ安心してコントロールでき、これならタンデムライドにおいてパッセンジャーを慌てさせることはないだろう。
一般道を流してみる。ビッグツインらしい図太い排気音を響かせながらも回転上昇はスムーズで、不快だと感じる振動はほとんど体に伝わってこない。これは1次バランサーやラバーマウントのおかげだろう。右手を大きく動かせばどこからでもズドンッと加速するものの、そこには柔らかな脈動感も混じり合い、ジェントルな雰囲気すら漂う。ライディングモードをスポーツにすると、スロットルレスポンスは明確にアップし、巨体をよりキビキビと扱えるようになる。一方、レインモードは全域で反応が穏やかになり、かつてのCVキャブを彷彿させる優しい性格に。一つのエンジンでここまでキャラクターを作り分けるとは、さすがと言っていいだろう。
なお、個人的にやや残念に感じた点が二つある。一つはクラッチレバーの重さだ。昨今はスリッパークラッチ採用車が増え、リッタークラスでも250cc並みにレバー操作が軽いモデルが珍しくないので、相対的に重く感じてしまうのだ。そしてもう一つは、シフトペダルがシーソータイプではないことだ。試乗した個体がまだ新車で、ミッションの動きが固かったということもあるが、かかとで踏んでシフトアップできたらどんなに楽だろうと思った。なお、どちらもアフターマーケットパーツや純正アクセサリーで改善できるので、同様の悩みが発生したらディーラーに相談してみてほしい。

動き出せば驚くほど軽快、乗り心地の良さは極上レベル

グランドアメリカンツーリングファミリーは、ステム軸よりも後方にフォークがあるという特殊な足周りとなっており、このストリートグライドウルトラは170mmというトレール量を稼ぎ出している。ホンダのゴールドウイングが109mm、レブル1100が110mmなので、いかに長いかが分かるだろう。そんな特殊なディメンションが功を奏してか、これほどの巨体ながら10km/hぐらいの微速域でもふらつかずに走ることができ、さらに驚くほど軽い操縦で交差点を曲がることができるのだ。
S字コーナーなどで素早く切り返そうとすると、ツアーパックが装着されている分だけ高重心な雰囲気が伝わる上に、ハンドルクランプのラバーマウントの柔らかさも露呈する。だが、そんなことが気になってしまうほど、ストリートグライドウルトラは軽快かつ運動性の高いハンドリングを有しているのだ。フロントタイヤは60%扁平という特殊なサイズだが、それがまったくネガになっていないのも驚きである。


サスペンションは電子制御のないオーソドックスなものだが、乗り心地が抜群に良いのはもちろん、一人乗りでもタンデムでも印象が大きく変化しないのは不思議だ。オーナーズマニュアルには細かく推奨セッティングが記載されているので、オーナーになられた方はぜひご自身でいろいろ試してみてほしい。
ロアフェアリングのベントドアやフォークマウントのエアディフレクターによるエアフロー効果までは試せなかったが、調整次第でおそらく快適性は高められるはずだ。グランドアメリカンツーリングファミリーの中で最も王道的なモデルであり、価格に見合うだけの価値は間違いなくあろう。
ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)
