スズキKATANA 1000kmガチ試乗【2/3】 兄弟車とは異なる、メーカーメイドのカスタムバイクの魅力を実感‼ 

カスタムバイクの世界では、得るモノがあれば失うモノがあるのが通説である。その事実を認識しているかどうかで、GSX-S1000の基本設計を転用して生まれたカタナに対する評価は変わってくるだろう。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキKATANA……1,661,000円

パッと見は2019年に登場した初代と同様だが、2022年以降のカタナは電子制御式スロットルや双方向型クイックシフターを新規導入。エンジン特性が3種類から選択できるライディングモードはA/B/Cの差異が明確になり、トラクションコントロールの感度は3→5段階に変更。また、カムシャフトやクラッチ、吸排気系などの見直しも行われている。

ロングストローク型エンジンの美点

現在のスズキのラインアップには、アルミツインスパーフレーム+並列4気筒エンジンを共有する兄弟車として、GSX-S1000、GSX-S1000GT、GSX-S1000GX、カタナ(モデルコードはGSX-S1000S)が並んでいる。それらの中でツーリングでの快適性や利便性を重視したモデルはGTとGXで、他の3車より7ℓ少ない12ℓのガソリンタンク容量を考えると、カタナは最も長旅向きではない。とはいえ、今回の試乗でノルマの1000km達成がツラかったかと言うと、そんなことはなかった。

一番の理由は、GSX-R1000のK5~8用をベースとするエンジンだ。レースでの勝利を前提としていたにも関わらず、K5~8のエンジンは低中回転域のトルクが充実していて、カタナを含めたGSX-S1000シリーズはその資質に磨きがかかっているから、高回転域を使えない状況が苦にならない。もちろん、最高出力:150ps/11000rpm、最大トルク:10.7kgf-m/9250rpmという数値が示すように、カタナのエンジンが本領を発揮するのは高回転域なのだが、5000rpm以下でも右手の操作に対して明確な手応えが得られるし、その領域では重厚な排気音や穏やかな振動が心地よく感じる。

そういった特性が実現できた最大の理由は、おそらく、ロングストローク型のボア×ストロークだろう。もっとも他社のライバル勢と比較すると、GSX-R1000シリーズは一貫してロングストローク型だったのだが、中でもK5~8はその傾向が顕著なのである(73.4×59mm。同時代のライバル勢は、CBR1000RR:76×55.1mm、YZF-R1:78×52.2mm、ZX-10R:76×55mm、S1000RR:80×49.7mm)。なおロングストローク型のエンジンには、低中回転域の充填効率が良好、安定感に寄与するクランクシャフトのウェイトが大きく重くなりやすいという特徴があって、カタナの場合はK5~8以上に、その2つが美点として感じやすいようだ。

他の兄弟車とは異なる軽快感

さて、まずはエンジンの印象を記してみたものの、ここまでに述べた内容は他の兄弟車も同様である。ではカタナならではの美点は何かと言うと、GTとGXを比較対象にするなら車重の軽さ。何と言っても、226kgのGT、232kgのGXと比較すると、215kgのカタナは道中の乗り降りが気楽だし、押し引きもイージー。もちろん、防風性や乗り心地ではGTとGXに軍配が上がるものの、チマチマした峠道がメインのツーリングが大好きな僕にとって、カタナの軽さは大きな魅力なのである。

そしてほぼ同じ車重(214kg)のGSX-S1000と比較するなら、カタナの魅力は第1回目で述べたスーパーモタード的なハンドリング。現代のスポーツネイキッドの王道と言いたくなる特性のGSX-S1000に対して、着座位置が前方のシートと高めのハンドルを採用するカタナは、コーナーへの進入でスパッと車体の向きが変わる、軽快で刺激的な乗り味を実現しているのだ。

ちなみに、カタナの前後ショックユニットの標準設定はやや硬めで、路面の凹凸を通過した際の衝撃吸収性がいまひとつなため、最初のツーリングでは腕や足腰にジンワリとした痛みを感じた。ただし、後に各アジャスターを徐々に弱めの方向に調整したところ、フロントのプリロードは1回転戻し、リアの伸び側ダンパーは標準設定のまま、フロントの伸圧ダンパーとリアのプリロードはオーナーズマニュアルに記載されている最弱で問題は解消。2度目のツーリングは至って快適に過ごせた。

得るモノがあれば失うモノがある

そんなわけで、カタナに好感を抱いた僕ではあるけれど、世の中には冒頭で述べたガソリンタンク容量の少なさや積載性能の低さに不満を感じる人もいるだろう。実は僕もデビューイヤーの2019年に試乗した際は、その2点が気になったのだが、今回の試乗で峠道の駐車場で休憩して車両を眺めている最中に、ふと思ったのである。デザインを最優先して生まれたカスタムバイクに実用的な面で異論を述べるのは、ちょっと野暮ではないかと。

そう、改めて考えると、カタナはGSX-S1000をベースとするメーカーメイドのカスタムバイクなのだ。そしてカスタムバイクの世界では得るモノがあれば失うモノがあるのが通説だから(例えば、エンジンのパワーを上げれば寿命は短くなる傾向だし、車体各部に快適装備を追加すると本来の姿は維持しづらくなる)、独創的なルックスとハンドリングを実現したカタナが、実用性の何割かを失ったのは自然な流れ……と言えなくはない?

もっとも、ガソリン問題は早めの給油を心がければいい話だし、積載問題はアフターマーケット市場で販売されているシート/サイドバッグを導入すれば解決できるので(残念ながら、純正アクセサリーの設定はナシ)、個人的には大きなマイナス要素ではなかった。それどころか、今回の試乗では他の兄弟車とは異なる方向性、誤解を恐れずに表現するなら“潔さ”が明確に伝わってきて、僕は今まで以上にカタナが好きになったのである。

※近日中に掲載予定の第3回目では、筆者独自の視点で行う各部の解説に加えて、約1000kmを走っての実測燃費を紹介します。

純正指定タイヤはダンロップ・ロードスポーツ2。決して悪いタイヤではないものの、現状の乗り心地を考えると、最新のスポーツツーリングタイヤに交換したら(ダンロップの場合はロードスマートⅣ)、好結果が得られそうな気がする。

主要諸元

車名:KATANA
型式:8BL-EK1AA
全長×全幅×全高:2130mm×820mm×1100mm
軸間距離:1460mm
最低地上高:140mm
シート高:825mm
キャスター/トレール:25°/100mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:998cc
内径×行程:73.4mm×59.0mm
圧縮比:12.2
最高出力:110kW(150ps)/11000rpm
最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/9250rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.562
 2速:2.052
 3速:1.714
 4速:1.500
 5速:1.360
 6速:1.269
1・2次減速比:1.533・2.588
フレーム形式:ダイヤモンド(アルミ製ツインスパー)
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:ボトムリンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:190/50ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:215kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:21.2km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:16.2km/L(1名乗車時)



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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…