甲州裏街道と呼ばれた陣馬街道はいまも裏道だった。|ゆるカブツーリング第9弾 都県境・和田峠

街道と呼ばれる道は数多くあります。東京近郊であれば甲州街道、川越街道、水戸街道、日光街道などが広く知られています。陣馬街道も古くからある道で、東京都八王子市と神奈川県相模原市、さらには山梨県上野原市とをつないでいる街道です。そのため甲州脇往還、甲州裏街道とも呼ばれています。ただし、この陣馬街道はとにかく道幅が狭く、頂上の和田峠前後の険しさはまさにドライバー泣かせ。交通量は非常に少ないのです。だからスーパーカブにとってはちょうどいいツーリングルートなのです。

国道20号線の抜け道というにはあまりにも過酷な道

都内から国道20号線甲州街道を西に進み、八王子市内の追分町交差点を右に進路をとると都道521号線陣馬街道に入ります。住宅地の生活道路といった感じで交通量は多く、走っていてまったく楽しくありません。まあそういってしまうと身も蓋もありませんが、都道61号線美山通りとの交差点である川原宿交差点を過ぎると、めっきり交通量が減ります。というか、ほとんど車が走っていません。なによりです。
道は少しばかり狭くなりますが、それでも片側1車線でセンターラインもしっかりあります。この辺りは八王子市の西端になる恩方地区というエリアで、多摩川の支流のひとつ北浅川沿いに民家が点在する里山風情が展開します。そんな風景の中を走ると、ようやくツーリング気分が盛り上がってきます。

長閑な道をしばらく走ると、八王子の観光ポイントにもなっている『夕やけ小やけふれあいの里』があります。童謡「夕焼小焼」の作詞者である中村雨紅がここ上恩方町の出身だったことから命名された自然体験施設で、年間を通じてさまざまなイベントが開催されていて、宿泊施設やキャンプ場、レストランなどもあります。
八王子市内の追分町で甲州街道から分かれて陣馬街道が始まる
沿道に都道標識はなく、陣馬街道の道標が建てられている
夕やけ小やけふれあいの里は自然体験ができる施設
レストランや土産物屋など、観光施設としての設備も揃っている
バイク用駐車スペースも完備
夕やけ小やけふれあいの里を過ぎて醍醐林道方面への分岐からは、陣馬街道は一段と狭隘になる。山間の狭い道は深い森に囲まれているので昼でも薄暗く、なかなか心地よい。しばらく行くと視界が開け、陣馬高原下へと到着しました。なんとここまで路線バスが走っているのです。この日も平日でしたが、何人かのハイカーがバス停にいました。
陣馬高原下のバス停横には『陣馬そば山下屋』という人気そば屋が店を構えています。実は今回のカブツーリングの目的のひとつが、ここの陣馬そばを食べることでした。創業80年の山下屋の陣馬そばは、国産そば粉を使用した十割そば。僕はスタンダードのもりそばを注文したのだが、普通盛りでもけっこう量があって食べ応え十分。つけ汁も暖かい汁のほか、クルミ入りつゆ、塩&すだちの3種が用意されていて、それぞれの風味を楽しむことができました。
路線バスの終点、陣馬高原下にある創業80年の陣馬そば山下屋
現在は音楽活動もする多才な三代目が山下屋を受け継いでいる
国産そば粉100%の十割そばは風味豊かで絶品
ここ陣馬高原下から標高690mの和田峠までの約4㎞区間が陣馬街道最大の難所。走り出してすぐに道はさらに細くなり、落ち葉や落石、コケなどが路面に彩を添えています。しかも木々で鬱蒼としているので、道がなんとなく湿っぽい印象です。さらに標高が上がっていくとタイトなヘアピンカーブが連続していたりして、もう快感です。そんな鬱陶しい峠道を2速3速を駆使して上っていくと、峠では茶屋が迎えてくれます。といっても平日はやってないことが多くて、この日も休みでした。峠の茶屋の裏手から標高855mの陣馬山への登山道が続いています。階段状の登山道と林道を通っていくまき道の2つのルートがあって、30分ほどで山頂まで行けるようです。もちろん僕はツーリング中なので登りませんでした。
それにしても、人口56万の中核市八王子と、人口73万の政令指定都市相模原の境がこんな山の中だとは、うれしくなってしまいます。南側には中央自動車道の小仏トンネル、国道20号線甲州街道の大垂水峠、そして徒歩で行ける小仏峠がありますが、スーパーカブで越えられる峠としては、ここ和田峠がもっとも高くて険しい道なので、いっそう東京と神奈川の都会をつなぐルートとしての適性があるとは思えません。とまあそんなわけで、実際に車に遭遇する確率はかなり低く、和田峠に到着するまでに1台の車ともすれ違いませんでした。その代わり、何人ものハイカーと何台もの自転車は見かけました。
和田峠へと上り始めると陣馬街道は一段と険しさを増す
車ではあまり走りたくない状況の道
狭く険しい道はヘアピンカーブの連続で一気に標高を上げる。スーパーカブの快走路だ
陣馬街道の最高所である和田峠は標高690m
和田峠には峠の茶屋があり、飲食が可能。登山者のための優良有料駐車場も完備している。バイクの駐車料金は500円
陣馬山への登山道は長い階段が続く
もうひとつの登山道は、脇の林道からたどる
和田峠を境に神奈川県側の陣馬街道は県道521号線となります。峠を後にして相模原側へと下っていくと、富士山を遠望する展望スペースがありました。当日は薄曇りだったので残念ながら富士山の姿を眺めることはできなかったのですが、数年前にスーパーカブで来たときは、富士山を眺めながら持参した弁当を食べた良い思い出があります。
道は相変わらず急カーブの連続ですが、八王子側に比べてやや道幅が広く、整備状態もいいので走りやすいです。集落が現れた辺りで道は二手に分かれます。右は県道521号線で山梨県へ入り上野原方面へと行くことができ、左は藤野へと続く県道522号線で、国道20号線甲州街道へと合流します。今回は左に進路を取りました。
片側1車線の快走路をしばらく走ると、秘境陣馬の湯の看板が出てきます。秘境という文字に惹かれて陣馬の湯へと向かってみることにしました。
和田峠から相模原側へ下ったところにある富士山展望地
陣馬街道を相模原側に下っていくと、急峻な山肌に茶畑が広がっていた
栃谷川を遡るように山間部へと入り込んでいく道は交通量が少なく、進むに連れて秘境感が出てきてワクワクします。まず現れたのは『陣谷温泉』。山間にひっそりとある温泉旅館です。さらに進んでいくと『陣渓園』という旅館がありました。陣馬の湯にはこの2軒の温泉旅館があるようです。東京から指呼の距離にあるのに、秘湯に来たような気分に浸れそうです。
地図を見るとこの先も道はつながっていて、最終的に小原宿付近で国道20号線甲州街道に合流できそうです。知らない道を走るのはなかなか楽しそうなのでさらに進んでいきました。が、2㎞も行かないところで通行止め。一般車の林道通行はできないようです。でも、とりあえず行けるところまで行ったという現実に納得して帰ることにしました。
陣馬の湯『陣谷温泉』
陣馬の湯『陣渓園』
陣馬の湯から先、甲州街道の小原宿付近まで林道が続いているが、一般車の通行はできない

街道としては距離が短い陣馬街道ですが、八王子、相模原の2大都市をつなぐ道であるにもかかわらず、山深くて険しい道はスーパーカブでぶらりとツーリングするには、なかなか面白いルートだと思いました。今回は立ち寄りませんでしたが、陣馬の湯で秘湯を味わってみるのもいいかもしれません。初心者にはちょっとハードルが高いかもしれませんが、気軽に行けるツーリングコースとしておすすめです。
走行距離は90㎞、ガソリン使用量は1.48L、昼食代を合わせて約1900円でした。

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…