比較試乗|3代目NMAX、NMAX155の兄弟モデルは、原付二種(125cc)より、軽二輪のほうが155がお買い得⁉

2025年春からヤマハが国内販売を開始した3代目NMAX(125)/155に関して、多くのライダーが注目しているのは、兄貴分が導入したYECVTだろう。とはいえ、前後サスセッティングを見直し、外装や灯火類などを刷新した3代目は、従来型を上回る快適性と運動性を獲得しているのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ヤマハNMAX(125)/155……384,000円/459,800円

外観から判別できる125と155の相違点は、シートレザー、左スイッチボックス、メーター、ラジエターカバー、駆動系などで、排気量を示す数字はどこにも見当たらない。シートレーザーにゴールドのステッチが刻まれてるこの車両は155。
125のボディカラーは、ブルーイッシュグレーカクテル(写真)、マットダークレディッシュグレーパール、マットグレーメタリック、ホワイトメタリックの4種。兄貴分の155は、サイドカバーや前後ホイールを125とは異なる専用色としたマットダークレディッシュグレーパール、ブラックメタリック、ダルブルソリッドの3種。

自分で所有するなら、YECVTを装備する兄貴分

原付二種の弟か、軽二輪の兄貴か。基本設計の多くを共有する125/155・160ccスクーター、ヤマハNMAXやホンダPCXを語る際には、どちらがベストかという話題になることが珍しくない。そしてそのテーマに対する一般的な回答は、維持費の安さを重視するなら125、高速道路を使いたいなら155・160なのだが……。

2025年型で3代目に進化したNMAX(125)と155を同条件で試乗した僕は、自分で所有するなら兄貴分だと思った。その理由は155のみが採用する電子制御式の駆動系、TとSという2種のモードが存在し、任意で3段階のシフトダウンが行えるYECVT:Yamaha Electric  Continuously Variable Transmissionのフィーリングが、素晴らしく良好だったからである。

ギュッと引き締まった、アスリート的なデザイン

本題の前に大前提の話をしておくと、3代目NMAX/155に通じる特徴として、ヤマハのプレスリリースには、パワーユニットの熟成(125の変更点はねじりバネ式から油圧式になったっカムチェーンテンショナーのみだが、155はクランクシャフトやクランクケース、吸排気系、オイルポンプなどを新規開発)、前後サスセッティングの見直し、スタイリングの刷新、という3つが記されている。それらの中から何に注目するかは各人各様なのだけれど、今回の試乗で僕が最初に興味を惹かれたのは、従来型とは似て非なるスタイリングだった。

中でも目を奪われたのは、ブーメランをモチーフとするサイドカバーの存在感と、フロントカウル+フロントフェンダーの一体感だが、大幅に短縮された前後オーバーハング(真横から見た際の車軸から前後方向への張り出し)や、小型軽量化を図ると同時に精悍さが増したLEDの灯火類なども、3代目ならではの特徴だ。

ちなみに、2025年型NMAX/155のデザインのメインコンセプトは、Accelerating Core(加速する核心)で、開発陣はその他にもパワフルスタンスやフォースフロー、シリアスオーラなどというキーワードを設定している。とはいえ個人的に最もピンと来た言葉は、凝縮された要素を意味するCondensed Element。3代目NMAX/155はボディ全体がギュッと引き締まったアスリートのようで、このスタイルは多くのヤマハ好き、多くのMAXシリーズ好きから、共感を得られそうである。

YECVTのおかげで、加減速が楽しい‼

ここからはインプレ編で、まずは前述した155のみの機構、YECVTの感想を記すのだけれど、実は僕はかつての250ccスクーターでブームになったマニュアルモードに対して、アリと言えばアリなのだが、べつにナシもいいような?……という印象を抱いていた。でもYECVTの場合は、アリとナシでは大違いだったのだ。

具体的な話をするなら、TモードとSモードではまったく異なるフィーリングが味わえるし(Tは滑らかで優しくて燃費が良好で、Sは加減速がダイレクトにしてスポーティ)、左スイッチのシフトダウンボタンを使用すれば、コーナー進入時にはリアタイヤが後方から引っ張られるような程よい減速&安定感、脱出時には排気量が上がった……は言い過ぎにしても、低中回転域のトルクを増強したかのような鋭い加速が満喫できる。

ちなみに一般的なスクーターのCVTが、車速と走行負荷に応じて変速比を決定するのに対して、YECVTは各種センサー/コントロールユニット/モーターを用いて、走行状況に応じて変速比を最適化する機構で(電子的な介入はフロントのプーリーのみ)、シフトダウンボタンを押せば強制的にローギアードな状態になる。

そしてその事実を知ると、場面によってはライダーの意識にマッチしない特性を想像する人がいるかもしれないが、YECVTにそんな気配は一切ナシ。市街地ではTモード、流れのいい幹線道路や峠道ではSモード、ここぞという場面ではシフトダウンボタンを使って、どんな場面でも心地いい加減速を味わうことができた。

従来型を凌駕する快適性と運動性を実現

では155に感銘を受けた僕が、続いて乗った125にどんな第一印象を抱いたかと言うと、YECVTが欲しい……だった。もちろんヤマハとしては、原付二種スクーターに40万円以上のプライスタグはつけづらいだろうし、兄貴分との価格差を考えれば、125がYECVTを装備しないことに異論を述べる人はいないだろう。とはいえ、155のもうひとつの特徴であるTFT+LCDの二面ディスプレイを採用せず、YECVTのみを装備する125の上級仕様を+5万円前後で販売したら、購入したいライダーは大勢いるんじゃないだろうか?

もっとも、僕がそんなことを考えていたのは125の試乗開始から十数分で、以後はいつの間にかNMAXならではのスポーツイライディングに没頭していた。人間というのは面白いもので、モード切り替えやシフトダウンができないならできないなりに、効率のいい走りを追求するもので、それはそれで楽しい行為だし、チューニングという視点で考えてみると、一般的なCVTを採用する125のほうが楽しめそうな気もしてくる。

いや、それより何より、125でさまざまな場面を走る中で、僕が目を見張ったのは、従来型とは一線を画する良好な乗り心地と、従来型以上に軽快なハンドリングだった。実はYECVTの作動感に夢中になるあまり、155を試乗しているときは気づけなかっものの(後に確認した)、2台の2025年型NMAXは、前後ショックのセッティングを見直した効果で路面の凹凸の吸収性が向上しているし、それに加えてマスの集中化に貢献する外装や灯火類のおかげなのだろうか、乗り手の操作に対する車体の反応が程よい塩梅で機敏になっているのだ。

などといいう事実を認識した僕は、125も大いにアリ……と感じたのだが、自分が所有するならやっぱり155。その一番の理由はYECVTだが、最高出力の高さや弟分と大差がないWMTCモードの燃費も兄貴分の魅力で(125:12ps・49.1km/ℓ、155:15ps・46.4km/ℓ)、僕としては価格が125+7万400円の45万9000円でも、155にお買い得という印象を抱いたのである。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)

市街地の移動やツーリングにも普通に使えるけれど、わずかな腰高感があるからか、乗車姿勢はスポーティな雰囲気。シート高は従来型+5mmの770mm。近年の125~160cc前後のスクーターでは平均的な数値だが、ステップスルー構造ではないうえに、サイドパネルの左右方向への張り出しが決して小さくはないので、両足がベッタリ接地するためには170cm以上の身長が必要。

ディティール解説(NMAX155)

従来型とは別物になったフロントマスクは、Serious AuraやAgile Expression(機敏な表現)というキーワードに基づいてデザイン。中央のプロジェクターヘッドライトは上下2灯式で、ポジションランプはNとNの鏡文字をモチーフにしている。
イグニッションはスマート式で、メインスイッチ下部にはシートとフューエルリッドのロック解除ボタンが備わる。フロントインナーパネルの小物入れは、右のみがリッド付きで、600mlのペットボトルが収納できる左にはUSB TYPE-C充電ソケットを設置。
4.2インチTFT+3.2インチLCDのデュアルディイスプレイは、155ならではの装備。下段のTFTモニターには、走行モードやシフトダウンの介入度、ナビゲーション画面などを表示。
125のLCDメーターもデザインを刷新している。ライダーの集中度を高める情報の配置を、ヤマハは“テレスコピックコクピット”と命名。兄貴分と同じく、スマホとの連携機能を装備。
155の左スイッチボックスには、シフトダウンやモード切り替え、TFTモニター内の情報を選択・決定するレバー/ボタンが備わる。
アイドリングストップのオン・オフレバー、ハザード用スイッチ、セルボタンが備わる右スイッチボックスは、125と155に共通。
シートの基本形状は先代と同様。ただし、155のレザーは高級感を意識したコンビネーションタイプで、各素材の継ぎ目にはゴールドのステッチ、ライダーの身体と接しない部分にはスウェード調の素材を使用。
シート下のトランクスペース容量は約23ℓ。フルフェイスヘルメットは、形状によって収まらないことがあるようだ。オープン状態をキープできるストッパーを装備し、前部左右にヘルメット用ハンガーを設置。
従来型では一体式だったリアの灯火類は、上:テール&ストップランプ/下:リアウインカーという分割構造に変更。薄型化が行われたテール&ストップランプは、斜め上からの角度でMに見えることを意識してデザイン。
6000rpmを境にして吸気用カムがロー/ハイに切り替わる、可変バルブ機構を装備するブルーコアエンジンの基本構成に変更はない。ただし、YECVTを導入した155は駆動系や吸気系のカバーが従来型とは別物になった。
広報資料に記された前後ショックの変更点は、フロントフォークにオイルロック機構を追加したことと、リアのストロークを5mm延長したことのみだが、今回の試乗では前後ともバネレートや減衰特性が変わっているように思えた。
Y字3本スポークのアルミホイールやφ230mmディスク+片押し式1ピストンの前後ブレーキは、従来型の構成を踏襲。純正指定タイヤはダンロップ・スクートスマート。リアショックは2段階のプリロード調整が可能。

主要諸元 【】内は125

車名:NMAX155【125】
型式:8BK-SG92J 【8BJ-SEL1J】
全長×全幅×全高:1935mm×740mm×1200mm
軸間距離:1340mm
最低地上高:125mm
シート高:770mm
エンジン形式:水冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC4バルブ
総排気量:155cc 【124cc】
内径×行程:58mm×58.7mm 【52×58.7mm】
圧縮比:11.6 【11.2】
最高出力:11kW(15ps)/8000rpm 【9kW(12ps)/8000rpm】
最大トルク:14N・m(1.4kgf・m)/6500rpm 【11N・m(1.1kgf・m)/6000rpm】
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:Vベルト式無段変速
フレーム形式:バックボーン
懸架方式前:テレスコピック正立式φ30mm
懸架方式後:ユニットスイング式 ツインショック
タイヤサイズ前:110/70-13
タイヤサイズ後:130/70-13
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:135kg 【132kg】
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:7.1L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:52.2km/L 【51.7km/L】(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値:46.4km/L 【49.1km/L】(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…