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ハスクバーナ・ヴィットピレン801……145万9000円(2025年8月発売)


スポーツライディングへの没入感こそが本モデルの真骨頂
2013年、スウェーデン発祥の二輪ブランド「ハスクバーナ・モーターサイクルズ」は、オーストリアのKTMグループの傘下となった。そして翌2014年のミラノショーにおいて、ブランドの新たな方向性を示す2つのコンセプトモデルを発表する。カフェレーサースタイルの「ヴィットピレン401」と、スクランブラータイプの「スヴァルトピレン401」だ。
両モデルのベースとなったのは、KTMのネイキッドモデル「390デューク」だ。実際に市販されたのは2018年に入ってからだが、発表当初からそのスタイリングは大きな話題を呼んだ。デザインを手がけたのは、KTMと深い関係にあるオーストリアのデザインスタジオ「キスカ」だ。無駄を削ぎ落とした独創的なフォルムにより、オフロード色の強かったハスクバーナが、ストリートシーンにも本気で挑む姿勢を強烈に印象付けた一台だ。

その後、KTMの690デュークをベースとする「ヴィットピレン701」が2017年に、「スヴァルトピレン701」が2018年に発表される。692.7ccの水冷シングルを搭載する両モデルは、250cc並みの軽量な車体と相まって、スロットルを大きく開ければ脱兎の如く鋭い加速フィールが楽しめた。

昨今では珍しいビッグシングルの2台ではあったが、早々にディスコンとなってしまった。このままピレンシリーズの大排気量モデルは消えてしまうのかと思われていた中、2024年に突如発表されたのが「スヴァルトピレン801」と「ヴィットピレン801」だ。ベースモデルは799ccの水冷並列2気筒エンジンを搭載するKTM・790デュークで、125ccや250ccを含むピレンシリーズとしては初のツインであり、なおかつ最大排気量となる。

前置きが少々長くなってしまったが、以上が今回紹介するヴィットピレン801の生い立ちだ。スタイリングについては、初代401の潔いミニマリズムを受け継ぎながら、よりモダンに進化しており、これを手掛けたキスカの手腕には驚くばかりだ。特にハンドルがセパレートからバータイプになったのは大きな変化で、これによりヴィットピレンはカフェレーサーからロードスターへと路線変更したことになる。
さて、今回の試乗で筆者が最も感激したのはハンドリングだ。それは単に旋回力が高いというだけでなく、コーナーへの進入から立ち上がりまで常に一定以上の安心感があり、自然とスポーツライディングに没入できるからだ。「意のままに操れる」という共通項ですぐに思い付くのがヤマハのMT-07だが、スヴァルトピレン801の方が足周りのグレードが高く、それによる走りの質の違いは大きい。




ハンドルの押し引きやステップワークなどで軽くきっかけを与えると、マシンはスムーズかつ深くバンクし、それと同時にフロントタイヤがアスファルトを捉え、グイグイと旋回していく。コーナリング中のライン変更も自由自在であり、これはミシュラン・ロード6の特性によるところも大きいだろう。荒れたアスファルトでは、ややショックを吸収しきれない挙動が出ることもあるが、これはサスペンションのセッティング次第で多少は緩和されるはず。それに、車体が軽いので恐怖を感じるほどではないというのも美点だろう。
初代401と701のヴィットピレンは、低いセパハンかつ腰高で遠いシート位置によるライポジが影響し、ベースモデルの390デュークや690デュークの自由自在な操縦性がスポイルされていたのも事実。だが、そうした過去の負のイメージを抜きにしても、801のハンドリングは素晴らしく、快感を伴うほど楽しいのは間違いない。

ブレーキセットについては、701のブレンボから、その傘下にあるホタ・ホワン製になってはいるが、コントロール性や絶対制動力について何の不満もなく、フロントがシングルからダブルディスクになったことは大きなプラス要素だ。なお、峠道を走っている際に何度かリヤのABSが介入したが、ボッシュ製のコーナリングABSによる特性なのか、シチュエーションによってはやや早めに作動するような印象も。とはいえ、それがライダーに不安を与えるようなものではなく、車体の挙動は常に安定していた。
蹴り出し感を伴いながらスムーズに吹け上がるエンジン
701時代の水冷シングルから、801は水冷ツインとなったエンジン。排気量は692.7ccから799ccへと約100cc増え、最高出力は30PSアップの105PSへ。こうしたスペックの推移だけを聞くとじゃじゃ馬らしさが増したように思えるが、むしろ印象は真逆であり、懐の深いエンジンへと進化していた。

75度位相クランクを採用した水冷並列2気筒エンジンは、790デュークと基本的に共通であり、排気系のデザインが異なるのみだ。最も万能的なストリートモードでは、ほとんどのシチュエーションにおいて5000rpm以下で事足りるほど低中回転域に潤沢なトルクがあり、しかも巡航中に伝わるツイン特有の鼓動感が事実に心地良い。スロットルを大きく開けると、蹴り出し感を伴いながら鋭く加速するが、回転上昇は極めてスムーズであり、レッドゾーンの始まる9000rpmまで回しても不快な微振動はほぼ皆無と言っていい。
スポーツモードにすると、スロットルレスポンスは明らかに鋭くなるが、ドン突き系ではないので扱いやすさはストリートモードと変わらない。一方、レインモードはだいぶ走りが穏やかになるので、文字通り雨天走行においては、これが選べることが大きな安心材料となるだろう。
さて、今回の試乗車には純正アクセサリーの双方向クイックシフターが装着されていたので、それについても触れたい。このエンジン、4~6速のギヤをガラスビーズでブラスト仕上げするほどトランスミッションにこだわっており、シフトフィール自体は非常に軽くて滑らかだ。そこにクイックシフターが加わることで、走行中はほぼクラッチレバーに触らずとも問題ないレベルに仕上がっている。個人的にはもう少し節度感があってもいいかとも思ったが、利便性を考えるとぜひ装着したい純正アクセサリーの一つだ。

デザインコンシャスなヴィットピレンが、801で懐の深いロードスターへと進化した。ヘッドライトにただならぬ雰囲気をまとわせつつも、優れたハンドリングはこのクラスのネイキッドの中でも突出しており、「乗って楽しい」がしっかりと体感できるモデルに仕上がっている。その事実を多くの人に知ってほしいと願う今日この頃だ。