【ハスクバーナ】異なるのは外装だけ? じゃないんです!|スヴァルトピレン801は大らかなハンドリングが特徴だ

日本ではヴィットピレン801よりも1年早くに発売されたスクランブラースタイルの「スヴァルトピレン801」。両モデルの違いは外装パーツとタイヤの銘柄程度にとどまるが、走りのキャラクターは見た目以上に差別化されていた。オフロード色の強いハスクバーナが、ストリートモデルにも本気で取り組んでいることが伝わってくる良作だ。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ハスクバーナ・スヴァルトピレン801……145万9000円(2024年8月発売)

昨年3月に発表、同年8月に日本でも発売となったハスクバーナ・モーターサイクルズのスヴァルトピレン801。2024年モデルは138万9000円で、イージーシフト(双方向クイックシフター、6万2942円)が標準装備されていた。2025年モデルはこれがオプションとなり、さらに車両価格は145万9000円にアップ。つまり2024年モデルから13万2942円値上がりした計算になる。なお、試乗車のサイレンサーは純正アクセサリーのアクラポヴィッチ製スリップオン(19万8187円)に交換されていた。
2025年モデルが初出となるバリエーションモデルのヴィットピレン801(試乗インプレッションはこちら)。基本コンポーネントを共有しつつ、最小限の外装パーツ変更のみでまったく印象の異なる2台を作り分けているのは素晴らしい。標準装着タイヤはヴィットピレン801がミシュラン・ロード6、スヴァルトピレン801がピレリ・MT60 RSで、サイズは共通だ。
こうして並べてみると、ハンドルの高さはほとんど変わらないことが分かる。実際に乗り比べてみても、ハンドル1本分ほどスヴァルトピレン801(左)の方が高いかな、と感じる程度だ。
車体色は写真の1種類のみで、2024年モデルから変更なし。

兄弟車ヴィットピレン801とは明らかに異なる旋回特性

スウェーデン語でピレンは「矢」を意味する。付け加えるとヴィットは「白」、スヴァルトは「黒」であることから、ヴィットピレンを直訳すると「白い矢」、スヴァルトピレンは「黒い矢」ということになる。後者については、日本ではこれまでに401(398.6cc)や701(692.7cc)以外に、原付二種の125や軽二輪の250も展開しており、小型二輪や普通二輪免許ユーザーにとって外車を身近な存在にしたのは間違いない。

さて、今回試乗したのは2024年のニューモデル「スヴァルトピレン801」だ。後に登場した兄弟車「ヴィットピレン801」と同様に、KTM・790デュークと基本コンポーネントを共有しており、両モデルで異なるのは外装パーツの一部とタイヤ銘柄ぐらいだ。片やスクランブラー、片やロードスター(ネイキッド)なので、サスペンションの設定などで何かしら差別化を図っているかと思いきや、フロント140mm/リヤ150mmというホイールトラベル量は共通であり、シート高820mmまでもが同じだ。

ホイールはヴィットピレン801と共通デザインの前後17インチで、同じくブラックアルマイト仕上げとされる。標準装着タイヤはピレリ・MT60 RSで、指定空気圧は同乗者の有無にかかわらずフロント2.3bar、リヤ2.6barとなっている。ブレーキセットはブレンボ傘下にあるスペインのJ.JUAN(ホタ・ホワン)製。フロントディスク径はφ300mmだ。フロントフェンダーとラジエーターカバーのデザインがヴィットピレン801とは異なる。
φ43mm倒立式フロントフォークはWP製APEX 3343オープンカートリッジタイプで、140mmというホイールトラベル量も含めてスヴァルトピレン801と共通だ。トップキャップに伸縮両減衰力アジャスターを備えているが、オーナーズマニュアルには標準位置に関する記載はなし。
特徴的なオープンラティスのスイングアームはアルミダイキャスト製だ。リヤブレーキのディスク径はφ240mmで、ボッシュ製のコーナリングABSシステムは「スーパーモトABS」モードを選択するとリヤのABSを無効化できる。
リヤサスペンションはリンクレスのモノショックで、ショックユニットはWP製APEX 3146だ。ホイールトラベル量は150mm。プリロードは10段階で、標準位置は最弱から5段目(ヴィットピレン801は3段目)となっている。伸び側減衰力も調整可能だが、オーナーズマニュアルには標準位置に関する記載はなし。

ところが、走り始めてすぐに2台のハンドリングがずいぶんと異なることに気付く。ロードスターのヴィットピレン801は、ハンドリングマシンと呼べるほどに旋回力と操縦性の高さが際立っていた。それに対してスヴァルトピレン801は、倒し込みや切り返しにやや手応えがあり、その後に続く旋回力もわずかに大らかなのだ。車体が直立状態を保とうとする力が強い傾向にあり、意識してきっかけを与えないと曲がり始めないが、どの速度域でも操縦に対する反応は一定であり、その点は扱いやすいと言えるだろう。この大らかさはスクランブラーのイメージに合致するものであり、路面が荒れている場所ほどヴィットピレン801よりも安定感があったのは事実だ。

2台のハンドリングの差は、主に標準装着タイヤの銘柄に起因すると思われ、外径やラウンド形状、トレッドパターン、内部構造などの違いが影響しているのだろう。裏を返すと、タイヤサイズは共通ながらここまでの差別化ができるだけで、しかもそれぞれのマシンコンセプトに見合ったハンドリングになっていることに感心しきりだ。

ブレーキセットについては両モデル共通ではあるが、これもタイヤ銘柄の違いによるものなのか、舗装路でシャープに利かせられるのはミシュラン・ロード6を履くヴィットピレン801の方だ。とはいえ、コントロール性については両車とも優秀であり、ホタ・ホワンというブレーキメーカーの実力の高さを知ることに。なお、ボッシュ製のコーナリングABSは、リヤの介入がやや早いように感じたものの、これは慣れの範疇だろう。

低中回転域での有機的なトルクフィールに心地良さを感じる

続いてはエンジンだ。KTM・790デュークが由来の799cc「LC8c」水冷パラツインは、75度位相クランクを採用。最高出力は105PSを発揮する。ほぼ同排気量のスズキ・GSX-8Sが80PSなので、かなりパワフルと言えるだろう。だが、ストリートファイター的なヤンチャという印象は一切なし。12.5:1という圧縮比の高さを感じさせないほど低回転域でガツガツせず、右手の動きに対するスロットルのマナーはどのライディングモードにおいても極めて優秀だ。

エンジンは75度位相クランクを採用した799cc水冷4ストローク並列2気筒で、77kW(105PS)を発生。クランクシャフト前方とシリンダーヘッドにバランサーを配置し、不快な振動をキャンセルしている。鍛造ピストンやDLCコーティングのピストンピン、セミドライサンプ、PASCクラッチなども採用。単体重量は52kgと非常に軽い。ライディングモードはストリート、スポーツ、レインの3種類で、オプション品の追加によりダイナミックモードも設定可能。コーナリングトラクションコントロールも採用している。このエンジンをストレスメンバーとするクロームモリブデン鋼のチューブラーフレームは、ブラックのパウダーコーティングが施されている。

一般道で多用する3000~5000rpmでは、輪郭の明瞭なツインらしい鼓動感があり、巡航中はこれが実に心地良い。有機的とも表現できるトルクフィールであり、モダンな設計ながらもこうした味わいのあるエンジンが作れるのかと感心してしまう。元気の良いスポーツモードでスロットルをワイドオープンした時の加速感は、さすがに100PSをオーバーしているだけあって強力だ。とはいえ、高回転域においても不快な振動を伴わないからこそ、ライダーは常に冷静でいることができるのだ。

なお、試乗車にはイージーシフト(双方向クイックシフター)が装着されていた。シフトアップは各ギヤとも2000rpm以上で使うことができ、変速ショックは比較的少なめだ。シフトダウン時のブリッピングも適切で、クラッチ操作による疲労を軽減できるのは間違いない。パーツ代は6万円オーバーとやや高めだが、ぜひ装着をお勧めしたい純正アクセサリーの一つだ。

イージーシフト(6万2942円)と名付けられた双方向クイックシフターは、2024年モデルでは標準装備だったが、2025年モデルはオプション扱いに。ヒールプレートのデザインや色もヴィットピレン801とは異なる。

ヴィットピレンが701のセパハンから801でバーハンドルになったことで、スヴァルトピレン801との差別化が気になっていたが、同日に乗り比べたことで違いが鮮明になった。ピレンシリーズ初の2気筒、そのスタートは実に幸先の良いものであった。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

ヴィットピレン801に対し、ハンドルのグリップ位置はわずかに高いが、それでも全体のバランスとしてはスクランブラーというよりもネイキッドに近い。
シート高はヴィットピレン801と同じ820mmを公称し、足着き性も同等レベルだ。シート表皮が滑りにくいので、スポーツライディングに向いている。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…