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ハスクバーナ・スヴァルトピレン801……145万9000円(2024年8月発売)




兄弟車ヴィットピレン801とは明らかに異なる旋回特性

スウェーデン語でピレンは「矢」を意味する。付け加えるとヴィットは「白」、スヴァルトは「黒」であることから、ヴィットピレンを直訳すると「白い矢」、スヴァルトピレンは「黒い矢」ということになる。後者については、日本ではこれまでに401(398.6cc)や701(692.7cc)以外に、原付二種の125や軽二輪の250も展開しており、小型二輪や普通二輪免許ユーザーにとって外車を身近な存在にしたのは間違いない。
さて、今回試乗したのは2024年のニューモデル「スヴァルトピレン801」だ。後に登場した兄弟車「ヴィットピレン801」と同様に、KTM・790デュークと基本コンポーネントを共有しており、両モデルで異なるのは外装パーツの一部とタイヤ銘柄ぐらいだ。片やスクランブラー、片やロードスター(ネイキッド)なので、サスペンションの設定などで何かしら差別化を図っているかと思いきや、フロント140mm/リヤ150mmというホイールトラベル量は共通であり、シート高820mmまでもが同じだ。




ところが、走り始めてすぐに2台のハンドリングがずいぶんと異なることに気付く。ロードスターのヴィットピレン801は、ハンドリングマシンと呼べるほどに旋回力と操縦性の高さが際立っていた。それに対してスヴァルトピレン801は、倒し込みや切り返しにやや手応えがあり、その後に続く旋回力もわずかに大らかなのだ。車体が直立状態を保とうとする力が強い傾向にあり、意識してきっかけを与えないと曲がり始めないが、どの速度域でも操縦に対する反応は一定であり、その点は扱いやすいと言えるだろう。この大らかさはスクランブラーのイメージに合致するものであり、路面が荒れている場所ほどヴィットピレン801よりも安定感があったのは事実だ。
2台のハンドリングの差は、主に標準装着タイヤの銘柄に起因すると思われ、外径やラウンド形状、トレッドパターン、内部構造などの違いが影響しているのだろう。裏を返すと、タイヤサイズは共通ながらここまでの差別化ができるだけで、しかもそれぞれのマシンコンセプトに見合ったハンドリングになっていることに感心しきりだ。
ブレーキセットについては両モデル共通ではあるが、これもタイヤ銘柄の違いによるものなのか、舗装路でシャープに利かせられるのはミシュラン・ロード6を履くヴィットピレン801の方だ。とはいえ、コントロール性については両車とも優秀であり、ホタ・ホワンというブレーキメーカーの実力の高さを知ることに。なお、ボッシュ製のコーナリングABSは、リヤの介入がやや早いように感じたものの、これは慣れの範疇だろう。
低中回転域での有機的なトルクフィールに心地良さを感じる

続いてはエンジンだ。KTM・790デュークが由来の799cc「LC8c」水冷パラツインは、75度位相クランクを採用。最高出力は105PSを発揮する。ほぼ同排気量のスズキ・GSX-8Sが80PSなので、かなりパワフルと言えるだろう。だが、ストリートファイター的なヤンチャという印象は一切なし。12.5:1という圧縮比の高さを感じさせないほど低回転域でガツガツせず、右手の動きに対するスロットルのマナーはどのライディングモードにおいても極めて優秀だ。

一般道で多用する3000~5000rpmでは、輪郭の明瞭なツインらしい鼓動感があり、巡航中はこれが実に心地良い。有機的とも表現できるトルクフィールであり、モダンな設計ながらもこうした味わいのあるエンジンが作れるのかと感心してしまう。元気の良いスポーツモードでスロットルをワイドオープンした時の加速感は、さすがに100PSをオーバーしているだけあって強力だ。とはいえ、高回転域においても不快な振動を伴わないからこそ、ライダーは常に冷静でいることができるのだ。
なお、試乗車にはイージーシフト(双方向クイックシフター)が装着されていた。シフトアップは各ギヤとも2000rpm以上で使うことができ、変速ショックは比較的少なめだ。シフトダウン時のブリッピングも適切で、クラッチ操作による疲労を軽減できるのは間違いない。パーツ代は6万円オーバーとやや高めだが、ぜひ装着をお勧めしたい純正アクセサリーの一つだ。

ヴィットピレンが701のセパハンから801でバーハンドルになったことで、スヴァルトピレン801との差別化が気になっていたが、同日に乗り比べたことで違いが鮮明になった。ピレンシリーズ初の2気筒、そのスタートは実に幸先の良いものであった。