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ビモータ・KB4RC……473万円(2025年4月19日発売)



ニンジャ1000SXの水冷直4は優しくも非常にパワフルだ

イタリアのエミリア=ロマーニャ州リミニ県にあるビモータは、1972年に創業した高級ハンドメイド・モーターサイクルブランドだ。日本においておそらく最も商業的に成功したのは、1985年に登場した「DB1」ではないだろうか。元ドゥカティのエンジニアであるフェデリコ・マルティーニ氏が手掛けた作品で、鋼管製の美しいトラスフレームにドゥカティ・750F1の空冷Lツインを搭載していた。250cc並みに軽量コンパクトな車体と、フルカバードという近未来的なスタイリングは、国内4メーカーの技術者にも大きな衝撃を与えたと言われる。後に中型免許で乗れる400ccの「DB1J」が追加されたほどなので、ビモータにとって日本市場は大きな存在だったに違いない。
筆者が直近に試乗したビモータは、かつての輸入元であるモトコルセが特注した「DB7S」だ。直近と言っても2008年のことだから、今から17年も前の話である。DB7のエンジンはドゥカティ・1098の水冷Lツインで、フロントフォークをマルゾッキからオーリンズに変更した仕様がDB7Sとなる。筆者はこれをサスペンションのスペシャリストとともに伊豆で試乗したのだが、初期設定では著しく低かった二次旋回力が、セッティングを進めるうちに素晴らしく良く曲がるようになった。そしてこの瞬間、ビモータはサスセッティングが出せるか否かで評価が分かれるであろうことを悟ったのだ。
さて、今回試乗したのは「KB4RC」だ。2022年に発売されたKB4のネイキッドバージョンである。ビモータの歴史を振り返ると、例えばDB5のネイキッド版がDB6、DB8のネイキッド版がDB9といったようにモデル名の法則があったので、「KB5」ではなくあえて「KB4RC」と命名した点が興味深い。
エンジンはカワサキ・ニンジャ1000SXの1043cc水冷4ストローク並列4気筒で、最高出力は1PS増の142PSを公称する。最も特徴的なのはラジエーターの位置で、一般的なエンジン前方ではなく、シートカウルの下部にレイアウトしている。このアンダーシートラジエーターに走行風を導くため、巨大なエアダクトが車体の左右に設けられており、さらにラジエーターの下面には大型のクーリングファンまで備えている。



この特殊なレイアウトは、ショートホイールベース化しつつ前輪分布荷重を稼ぐのが狙いだ。実際にホイールベースはニンジャ1000SXよりも50mm短い1390mmを公称し、これはZX-25Rや4Rよりも10mm長いだけだ。単に前後輪の軸間距離を短くするだけなら、スイングアームを短くすればいい。しかし、それでは後輪荷重が増えてしまうので、ビモータはあえて困難な選択をしたのである。
実際に走らせてみると、エンジンの印象はニンジャ1000SXそのものではあるのだが、車重が45kgも軽い、つまりパワーウエイトレシオが19%も異なるので、まるで全域でスロットルレスポンスが良くなったかのように車体の反応が鋭い。そして、軽いからこそ高めのギヤかつ低い回転域でもキビキビと走ることができ、結果的に燃費も良くなるような気すらした。
スロットルを大きく開けた時の加速フィールは、ネイキッドゆえに風圧をダイレクトに受けることもあって、スーパースポーツに比肩するほど体感的には強烈だ。それでいてどのモードにおいても操縦に対するマナーが良く、ライダーを慌てさせることがない。KB4RCの試乗を通じて、あらためてニンジャ1000SXのエンジンが優秀であることを実感した。
まるで足払いを食らったかのような倒し込みの素早さに驚く

当然ながらKB4RCのシャシーはビモータのオリジナルであり、伝統的かつ非常に特殊なものだ。エンジンを中心にフロント側のクロームモリブデン鋼パイプフレームがステアリングヘッドを支持。そしてクランクケースの後方にはアルミブロックから削り出したプレートが取り付けられており、これがスイングアームおよびリヤサスペンションのリンケージを支持している。

フロントのサスペンションはごく一般的な倒立式テレスコピックフォークだが、リヤサスペンションは特殊で、ショックユニットの上部がフレームと接していない。考え方としてはホンダのユニットプロリンクに近く、この部分のフレーム強度が不要になることから、剛性設定の自由度が上がるのが大きなメリットだ。ちなみにこの方式をビモータが採用するのは初めてではなく、エキセントリックカラーによる車高調整機構も含め、2007年発売のDB7が採用している。


シングルシートの座面は見るからに低い位置にあり、実際にまたがってみても昨今のスーパースポーツのような腰高感は皆無。加えて、セパハンも極端に低いわけではないので、ハンドルの切れ角が少ないこと以外はフレンドリーなライポジと言えるだろう。
走り始めてすぐに感じたのは、ステアリングヘッドを少し強く締め込んだかのような操舵の違和感だ。車体の傾きに対して舵角の付き方が遅れる、あるいは追従しないような症状が出るのだ。タイヤの空気圧が不足している時の切れ込みとも異なるので、これは何だろうと不思議に思いつつ徐々に速度を上げると、35km/hを超えたあたりでこの症状がスッと消えた。どうやら低速域のみでの現象であり、もしかすると標準装着タイヤの影響を強く受けている可能性も考えられる。
40km/hから上の速度域では、まるで柔道技の足払いでも喰らったかのように倒し込みが素早く、あまりの運動性能の高さにヘルメットの中で思わずニヤリとする。ビモータはこの作品を通じてこういう鋭い走りを表現したかったのだ。オリジナルのシャシーは絶妙にしなやかさが伝わり、スーパースポーツの高剛性なアルミツインスパーフレームよりもはるかに安心感がある。そして、おそらくサスセッティングを詰めていけば、先に記した低速域の症状も改善されるだろうし、さらに高速コーナーでの旋回力も高められるはずだ。
ブレーキについては、たまたま試乗車に鳴きが発生していたため、それ以上のトラブルを避けるべくハードな使用を避けた。とはいえ、コントロール性の高さは十分に感じられ、さすがはブレンボと言ったところだ。

試乗中に終始気になったとすれば、エアダクトのエッジが膝に干渉することだ。体格によって感じ方の差はあるだろうが、購入を検討されている方は実際にまたがってみて確認されることをおすすめする。
過去にSB6や500V dueなども試乗したことがあるが、フレームの素材や形式が変わろうともビモータの走りは一貫しており、カワサキの資本が入ってからもそれが変わっていなかったことに感激した。KB4RCはおそらくコレクターズアイテムになってしまうだろうが、運良く手に入れられた方は、サスセッティングも含めてビモータならではの世界観を堪能してほしい。