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ヤマハ・MT-07 Y-AMT ABS……1,056,000円(消費税10%含む)
操作はイージーでも中身はちゃんとMT

「MT-07 Y-AMT」は、人気のスポーツネイキッド「MT-07」をベースに、ヤマハ独自の電子制御シフト「Y-AMT」を搭載したモデル。クラッチレバーやシフトペダルを使わなくても走れて、ライディングにより集中できるのが大きなメリット。経験に関係なく誰でもヤマハらしい軽快な走りを味わえるのがポイントだ。
面白いのはMT車の構造自体はそのままに、人がやっていたクラッチ&シフト操作を機械が代わりにやってくれること。アクチュエーターがギアの上げ下げやクラッチの操作を自動でやってくれるので、乗り味はちゃんとMT感があるのに操作はグッとシンプル。スクーターのような無段変速式オートマ(CVT)や、2つのクラッチを持つことでスムーズな変速を可能にしたDCTとも異なる、新しいジャンルの操作感だ。
ヤマハいわく、Y-AMTは単に「楽をするため」のシステムではなく、「スポーティさと快適性を両立する」のが狙い。その証拠に、よりパワフルな「MT-09」にも先行して搭載されている。ATモード(自動変速)とMTモード(Mモード)の切り替えが可能で、MTの場合は左手元のシーソー式スイッチで任意にギアチェンジできる。さらにどちらのモードにも快適寄りとスポーツ寄りの設定があって、場面に応じた走り方が選べるのがうれしいところ。
一方でエンジンや車体は2025モデルで一新された新型MT-07と共通で、軽量コンパクトな車体と最高出力73psを発揮する水冷並列2気筒688ccによるトルクフルな走りもそのまま。倒立フォークや電子制御スロットル、ライディングモードも搭載。フロントフェイスも新しくなるなど現代的に進化している。
スムーズすぎてちょっと驚く
まずはデザインから。新しくなったフロントマスクや倒立フォークが目を引き、ホイールやスイングアーム、ブレーキまわりに外装まで、ほぼフルモデルチェンジといえる内容。それでも、むき出しのメカ感やマス集中したプロポーションは、しっかり「MTらしさ」が感じられる仕上がりだ。シートはフラットでポジションも自然、車体がスリムだから足つきも良好。初心者でもすぐ慣れそうなサイズ感だ。
走り出しはまさに驚きのスムーズさ。エンジンを始動させて、まずはATモードで発進。クラッチとシフトがないことに最初だけ戸惑うが、ものの数分で慣れてくる。アクセルを開けて加速するだけで実にスムーズにシフトアップし、信号で止まろうとアクセルを緩めれば、これまた自然にシフトダウンしてくれる。普通に街を流すぶんには何ひとつ不自由ない感じだ。手首も足首も痛くならず、特にストップ&ゴーを繰り返す都市部では渋滞路も含めてストレスフリー。試しにUターンにもトライしてみたが、通常なら半クラを使う場面でもアクセルとリアブレーキだけで安定して小さく曲がることができた。もちろんバランスや速度は自分でコントロールしなくてはならないが、多くのライダーには“やりやすい”と感じるはずだ。
なお、同じATでもキビキビと走りたい場面では「D+」モードが効果的。低いギアを活かした加速志向の制御となり、減速時にはしっかりとエンジンブレーキも効く。そこにMT-07伝統の270度クランクによる鼓動感と太いトルクが加わり、ライダーの五感をしっかり刺激してくれる。倒立フォークや軽量ホイール、フレームとスイングアームの剛性バランスも相まって、ハンドリング性能は歴代MT-07の中でもトップクラス。コーナーではクイックな切り返しと安心感ある接地感が両立されていた。
MTモードで分かる「Y-AMTの本気」
よりスポーティに走らせたいシーンでは、MTモードが真価を発揮する。左手元のシーソースイッチによる変速操作は直感的で、特に中速域のシフトアップはまさにマニュアルの感覚。クラッチ操作はないが、ギア選択の楽しさはしっかり残っている。レッドゾーンまで引っ張る加速、コーナー手前でのシフトダウンも自在で、誤操作の心配もない。誰でも“上手に”走れてしまう感覚こそが、Y-AMTの魅力だ。
今回は市街地中心だったが、ワインディングやサーキットに持ち込めば、その高いポテンシャルがより明確に感じられるだろう。もちろん、従来どおりのフルマニュアル操作が好みであれば、通常のMTモデルを選ぶという選択肢も残されている。

また、5インチのTFTメーターは視認性に優れ、美麗なグラフィックで情報を伝えてくれる。スマホ連携が可能な「Y-Connect」や、ロングツーリングで威力を発揮するクルーズコントロールなど、利便性も大きく向上している点も見逃せない。「クラッチ操作はバイクの醍醐味だろ?」って思っている人にこそ、Y-AMTに乗ってみてほしい。電子制御により最適化されたシフトは、自由度と操作性を両立しつつ、身体的な負担を大幅に軽減。ライディングそのものにより集中できることで、風景や路面に意識を向ける余裕すら生まれてくる。その意味で、MTシリーズの本質である“走る楽しさ”を、Y-AMTは新しい形で見事に次世代へと継承していると思う。シンプルな操作性と本気の走りが両立されたこのモデル。初心者はもちろん、ベテランライダーにも新鮮な驚きをもたらしてくれる一台になるはずだ。
Y-AMTは特にコーナー手前において、減速からのシフトダウンなど複雑な操作から解放されるため大きなアドバンテージを感じる。4輪のスーパーカーでも今やオートマが全盛。そう考えると、Y-AMTはスポーツバイクのひとつの進化系と見ることができる。


エンジン以外は従来型からほぼ全てが刷新され、全体的にモダンで高級感のあるデザインへと洗練された。加えてY-AMT仕様はクラッチレバーとチェンジペダルが無く、エンジン周りにアクチュエーターが装備されている。






ライディングポジション(ライダー身長179cm)
ハンドルは従来よりも幅広く近く低めにセットされ、よりスホーティなライポジに。ステップ位置は10㎜下げられヒザに余裕が生まれた。シート高は805㎜と標準的で、軽量スリムな車体と相まって足着きや取り回しはとても良い。ライダー身長179cm、体重73kg。


ディテール解説













スペック
全長/全幅/全高: 2,065mm/780mm/1,110mm
シート高: 805mm
軸間距離: 1,395mm
最低地上高: 150mm
車両重量: 187kg
定地燃費値: 35.5km/L(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値: 25.8km/L(クラス3 サブクラス3-2) 1名乗車時
原動機: 水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列: 直列, 2気筒
総排気量: 688㎤
内径×行程: 80.0mm×68.5mm
圧縮比: 11.5 : 1
最高出力: 54kW(73PS)/8,750r/min
最大トルク: 68N・m(6.9kgf・m)/6,500r/min
始動方式: セルフ式
潤滑方式: ウェットサンプ
エンジンオイル容量: 3.00L
燃料タンク容量: 13L(無鉛レギュラーガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式: フューエルインジェクション
1次減速比/2次減速比: 1.925/2.687 (77/40 X 43/16)
クラッチ形式: 湿式, 多板
変速装置/変速方式: 常時噛合式6速/リターン式
変速比: 1速:2.846 2速:2.125 3速:1.631 4速:1.300 5速:1.090 6速:0.964
フレーム形式: ダイヤモンド
キャスター/トレール: 24°20′/93mm
タイヤサイズ(前/後) :
120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/ 180/55ZR17M/C(73W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後): 油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後):テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ: LED
乗車定員: 2名