ハーレーダビッドソンのアドベンチャーバイク| 衝撃デビューのPAN AMERICA 1250に乗った!

ハーレーダビッドソンが、まさかこんなモデルを市場投入するなんて、筆者は想像すらしていなかった。同社のバリエーションに加えられた新カテゴリーの「アドベンチャーツーリング」。PAN AMERICA 1250と同SPECIALの登場はまさに衝撃的である。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●HARLEY-DAVIDSON JAPAN
PAN AMERICA 1250(右)と同SPECIAL

ハーレーダビットソン・PAN AMERICA 1250…….2,310,000円〜

リバーロックグレー(モノトーン)…….2,339,700円
ビビッドブラック…….2,310.000円

ハーレーダビットソン・PAN AMERICA 1250 SPECIAL…….2,680,700円〜

バハオレンジ/ストーンウォッシュホワイトパール…….2,735,700円
デッドウッドグリーン…….2,710,400円
ガーントレットグレーメタリック…….2,710,400円
ビビッドブラック…….2,680,700円

 Pan America 1250は2月22日に初公表。既報の通り4月7日開催のJAIA(日本自動車輸入組合)2輪車試乗会で撮影のみが許された。それから約3ヶ月経過の7月1日、浅間高原を舞台に待望の報道試乗会が開催された。
 アドベンチャーツーリングと言うカテゴリーは、冒険心と旅心をかき立てられる存在として今や世界的に人気を集めている。例えばBMWのGS系、KTMのアドベンチャー系、国産ではホンダのアフリカツインやヤマハのテネレに象徴される、いわゆるオフ系の大型ツアラーである。
 古くから、比較的シンプルでわかりやすいバリエーション展開を重ねて来たハーレーダビッドソンも、今やEVも含めて6ジャンル29機種もの豊富な製品が揃えられるに至っている。特に近年は新規開発モデルの投入にも積極的な姿勢を示す。
 それにしても、これまで培われた同社のブランドイメージからは大きくかけ離れた、まさに次代を築く革新的モデルの登場に衝撃を覚えた人は少なく無いだろう。
 何しろフレーム、エンジン、ホイール、タイヤに至るまで全てが専用新開発。個性的な外観デザインも独自性の主張が感じられる。同ブランドに共通する特徴と言えば、搭載されたパワーユニットの気筒配列が、横置きのV型ツインエンジンである事ぐらいだろう。
 タンクサイドに描かれたブランド・ロゴやマーク表記も斬新。そもそもアドベンチャーのカテゴリーに参入してくるとは驚き。少なくとも筆者が抱く同社のイメージの中に、それは存在していなかったのである。

 REVOLUTION Xと呼ばれる水冷のVツイン・エンジンは、ストリート系の750に存在していたとは言え、今回のREVOLUTION Max 1250は、同社が古くから堅持してきた主力の空冷45度Vツインとは明確に異なっている。
 端的に言えば水冷方式を採用。Vバンクは60度。そしてバルブ駆動のメカニズムはOHVではなくDOHC4バルブである。さらにVVT(可変バルブ機構)を吸排気双方に採用。IMU(慣性計測装置)や電子スロットルを備えた最新鋭のメカニズムをフルに投入してきた点を見ても、その革新の度合いは衝撃的である。
 なお、このエンジンは、同社の最新モデルとして7月14日に世界初公開されたSportster SにもREVOLUTION Max 1250Tとして搭載。ピストン等燃焼室まわりはそれぞれに専用設計の部品が使用されているが、30度位相クランクの採用等、基本的には共通。
 ただ、圧縮比はPAN AMERICAの方が高く、より大きなトルクを発揮している。またギヤレシオも低めなセッティングとなっており、動力性能的によりアグレッシブな走りを追求された事が理解できるだろう。
 ちなみにハーレーダビッドソン社の常として、主要諸元にエンジンの最高出力は公表されないのが普通だったが、今回PAN AMERICAの公式Webサイトでは、145馬力オーバーである事が堂々と謳われており、諸元表には152ps/8,750rpmである事が明記されていた。

 タイヤはミシュラン製。ブレーキはブレンボ製。前後サスペンションはSHOWA製のフルアジャスタブルタイプを装備。さらにSpecialには191mmのストロークを誇るSHOWA製BFF(バランスフリーフォーク)とBFRC(バランス・フリー・リアクション)ライトを備えたセミアクティブダンピングアジャストの電子制御式サスペンションが奢られている。
 リンク式モノショックを採用したリヤサスペンションも荷重調節式の電子制御で自動調節にお任せでき、あるいは好みのセッティング変更もスイッチ操作で容易である。さらに停車時に車高を下げる事で足つき性を改善するアダプティブライドハイト(車高調整機構・EERA HEIGHTFLEX)も標準装備。
 タイヤ空気圧監視システムや、ペダル位置を簡単に調節できるマルチポジションリアブレーキペダル。アルミ製スキッドプレート、センタースタンド。アダプティブヘッドランプ、ヒーテッドハンドルグリップ、ステアリングダンパー等の充実した装備が奢られているのである。

ズバリ、ロングツーリングに誘われる。

 試乗車はベーシックなビビッドブラックのPan America 1250。冒頭写真の通り、オプションのアルミ製トップ及び両サイドケースがフル装備されていた。
 見るからに大柄な車体に加えて、3点ケースのボリューム感に圧倒されてしまう。安定した足つき性が確保できる平地の舗装路ならともかく、車体サイズやその重さを考えると正直言って筆者には大き過ぎ。
 しかしシートをローポジションにセットすると、ギリギリの爪先立ちだった当初の不安が消え去るレベルになるので一安心。手前に引かれたハンドル位置の関係もあって、股がった印象として、ライディングポジション的には適度な大きさに感じられた。
 車体スケールの大きさからは、設計のベースになったであろうアメリカ人と日本人の体格差について再認識させられたものの、見た目の第一印象より、実際の乗車フィーリングは親しみやすいものだったのである。
 

 エンジンを始動すると、極軽い鼓動感とスルスルと滑らかな回転フィーリングで、同社製である事は微塵も感じられない。筆者の勝手な思い込みもあるが、これまでの45度Vツインで培われたREVOLUTIONやMILWAUKEE-EIGHTの様に、如何にもなハーレーダビッドソン「らしさ」や独自性を誇る個性的な要素が希薄。
 それがとても意外だったが逆に新鮮に感じられ、今回の革新的な新機種投入の戦略がむしろ衝撃的であった。
 違いはボア・ストローク、クランクマス、Vバンクの角度や動弁系、そして30度位相クランク。つまりエンジンの“全て”だ。
 誤解無きようお断りしておくと、ハーレーダビッドソンらしくないその感覚は決して欠点ではない。むしろアドベンチャーツアラーの機能性と快適性を追求して新開発された同社の英断に驚きを覚えたのである。
 メカニズムの詳細説明は割愛するが、60度Vツインに30度位相クランクを組み合わせたREVOLUTION Max 1250は、言わば90度Vツインと同様なパワーユニット。基本的に振動が少ない特徴を持ち、爆発間隔的には並列2気筒の270度位相クランクに相当する。
 さらに吸排それぞれに可変バルブタイミング機構が投入され、実際スムーズな回転フィーリングの中に逞しさを覚える出力特性と伸びの良さを実感。排気量的にも余裕のある十分な大きさを備えるだけに、250kgレベルの車重をものともしない、余裕綽々の軽々とした走りが印象深いのである。
 ちなみにボクサーエンジンを搭載するBMW R1250 GSと公表諸元値で比較するとトルクは控えめながら最高出力でそれを凌ぎ、発生回転数も1,000rpm上乗せの8,750rpm。
 パンチ力という意味では、車重も軽いKTMの1290スーパーアドベンチャーに一歩譲るものの、フレキシビリティに富む扱いやすさと高回転域まで伸びる豪快なパワーフィールは侮れないチャームポイントである。
 そのポテンシャルを迫力を持って体感できるのは4,000~5,000rpm。ライドモード選択をオロードにして右手をワイドオープンして走る姿を想像するだけで、そんな走りが得意でない筆者でもワクワクと胸躍る気分になってくるから不思議なものだ。

 ホイールベースの長い直進安定性に優れた乗り味も特筆もので、重さの伴う落ち着いた乗り心地はとても快適。荷物のフル積載やタンデムでもそのスタビリティの高さからもたらされる安心感は変わらない。
 峠道のコーナリングでは、タイトなコースも含めて至って素直なハンドリングを示す。シートを標準位置(高い方)に戻せば、軽快感もプラスされたと思うが、誰にでも扱いやすく、かつ車体の傾きやブレーキングでのピッチングも含めて常に穏やかな挙動に終始する乗り味も好印象である。
 強力な前後ブレーキも、感覚的な効き味としては穏やかなフィーリングで、それがアドベンチャーツーリングモデルとしての心地よさを巧みに表現していると思えた。
 ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時の速度は46km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,700rpmだった。
 雨の中の短い試乗だったが、違和感なく馴染めた事が印象的。左側にある点火コイルに足が当たる点が気になったが、それ以外はとても快適である。
 Pan America 1250の如何にも大陸的な乗り味は、日本には無い広大なデザート地帯を走らせてみたいという夢に繋がる思いを抱けたのが正直な感想。正直言うと、試乗車の返却時間をすっ飛ばして、このまま高原コースを巡りながら涼を求めて、何処か遠くまで北上してみたい気分にかられてしまった程なのである。

足つき性チェック(身長168cm / 体重52kg)

写真はローシートポジションで撮影。ご覧の通り、両足の踵は大きく浮くものの、指の付け根でしっかりと地面を踏ん張ることができた。大きく重い車体を支えるにも不安は少ない。ちなみにシートを標準位置にすると、両足ギリギリの爪先立ちになる。なお、Specialにはアダプティブライドハイト(自動車高調節機構)が標準装備され、足つき性はさらに良い。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…