カワサキ最強ネイキッド「Z H2 SE」、200馬力でも案外リラックスして乗れる。

カワサキのフラッグシップと伝統のブランドネームが融合したZ H2は2020年4月に新発売されZシリーズの最上級モデルとして君臨。それから1年の時を経て最新のハイテクを導入した上級仕様の同SEが追加投入された。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●カワサキモータースジャパン

カワサキ・Z H2 SE…….2,178,000円

メタリックディアブロブラックxゴールデンブレイズドグリーン
Z H2…….1,892,000円 メタリックディアブロブラックxメタリックフラットスパークブラック
スカイフック電子制御理論の概念図
ダンピング特性が電子制御されるSHOWA製前後サスペンション・ユニット。

 カワサキの頂点を示すブランドネームが、世界最強レベルのネイキッドスポーツである事は容易に推察できるだろう。2020年12月には2021年型Z H2としてカラーリングが変更され、ハイテンション・スチールのパイプワークが美しいトレリスフレームもブラックアウトされた。
 当初のグリーンを好むユーザー層は確実に存在するが、SEはそんなラブコールに応えるかのように再びグリーンフレームで新登場。改めて目にした鮮やかなグリーンと黒のコントラストはいかにもカワサキ車らしい。
 「Sugomi(凄)」デザインを象徴する左側のエアインテ-クダクトはメグロK3のタンク製作で話題に上がった銀鏡塗装が施され、いかにも上級な仕上がりを魅せている。

 さてSEならではのトピックは、KECS(カワサキ・エレクトロニック・コントロ-ル・サスペンション)が採用された事。SHOWA製スカイフックEERAと呼ばれる電子制御ライドアジャスト・テクノロジーが投入されている。

 またフロントに、ブレンボ製のStylemaモノブロックキャリパーとフロントマスターシリンダーをパッケージ装着。よりダイレクトな操作感でブレーキパフォーマンスが強化されたのも見逃せない。ちなみにZ H2にはM4.32 対向4ピストンのモノブロックキャリパーが採用されている。

 電子制御サスペンションについて、簡単に解説しておくと、路面の凹凸に対して、減衰特性を自動調節する事で、よりスムーズな作動性を発揮して快適な乗り心地とレベルの高い安定性を発揮すると言う物。
 バイク自体の動きを自らが正確に把握する6軸IMU (慣性計測装置)の情報とも連携して統合制御され、バイクの速度やサスペンションの動き(ストロークスピード)も考慮して適切な減衰力に自動制御され、それはブレーキング時のピッチング(ノーズダイブ)抑制にも貢献してくれる。
 ちなみにダンピング調節には、高速で作動するダイレクト・ソレノイドバルブが採用され、0.001秒という優れた反応速度を実現。サスペンションのストロークセンサー、車両の加減速情報、前後車輪の回転数、フロントブレーキ圧力の情報を基にKECSのECUが前後サスペンションの減衰特性をリアルタイムで自動制御するわけだ。
 それ以前に予め設定されたインテグレーテッド・ライディングモード(スポーツ、ロード、レイン、マニュアル)の4種を基に、常に路面状況に合わせた適正制御が加味される仕組みである。
 
 なお、フロントブレーキの強化はブレンボのStylemaモノブロック油圧キャリパーを採用。右手のレバー及びマスターシリンダーもブレンボ製。さらにステンレスメッシュブレーキホースも奢られている。
 200psを発揮するバランス型スーパーチャージドエンジンやフレーム等の基本部分はZ H2と共通なので、詳しくは改めて既報記事をご参照下さい。

異なる高張力鋼管が組み合わされているこのトレリスフレームは、Z H2専用設計。安定性と軽快なハンドリングを両立。ライムグリーンはSE専用だ。

市街地では軽快でジェントル

車体中程から左側前方に伸ばされているのが、エアインテークダクト。吸気系に多量の空気を取り込む設計だ。

 世界唯一と言えるバランス型スーパーチャージドエンジンを搭載する試乗車に股がると意外と親しみやすい。1Lという排気量ボリュームや241Kg という車重イメージから考えると軽快である。
 世界最強レベルのパイパーネイキッドであることからも、ちょっと手強い乗り味を想像してしまいがちだが、実は巧みに調教された大人びた印象で、フッと気持ちがリラックスできる点が好印象。
 それは切り返しも軽快で俊敏なレスポンスを発揮する操縦性ながら、その挙動の端々に穏やかな感触を伴うのが心地良いのである。

 ハンドリングに限らず、スロットルレスポンスやブレーキタッチもしかり。「穏やか」という表現を使うと、動力性能が大した事ない様に誤解されてしまいそうだが、断じてその意味ではないのである。
 動きに変化が加わる時、その瞬間における動き出しの微妙な部分に至るまで、唐突感が上手く抑えられ、優しさを伴う変化(例えば加速とか減速)に感じさせてくれる。それはハンドリングにも同様な印象が発揮され、鋭さと感触の優しさが絶妙に共存しているのである。
 一般公道では、その本来のポテンシャルを試しようがないが、H2 SXと比較するとドリブンスプロケットが2丁増しの46丁を装着。つまり2次減速比が低め。また最大トルク発生回転数はそれより1000rpm低い8500rpmになっていることからも推察できる通り、実用域でのダッシュ力はそれを凌ぐ勢いである事は間違いない。       

 特に5000~8000rpmあたりで発揮される加速力は壮絶。そのままエンジン回転は難なく1万rpm以上まで一気に伸び上がってしまうのだから呆れる程の凄さである。
 ただ、そんなハイパフォーマンスも、決して乱暴者には感じられないところが不思議。グッドハンドリングも含めて全てがバランス良く、乗り味に賢さを覚える調教具合が魅力的に感じられた。

 単に速いだけのバイクなら、そんなパフォーマンスは「不必要」!と一刀両断にする事もできるが、Z H2 SEはむしろ「脳ある鷹は爪を隠す」的な、何処か大人びた、ライダーのハートに自然と余裕を抱かせてくれる点が魅力的に思えたのである。
 これでツーリングすれば、ライダーは笑顔と共に余裕の表情で満たされることだろう。               

 普段使いで唯一の難点として気になったのはハンドル切れ角が29度と小さい。最小回転半径は3.3m。H2 SXの3.1mよりも大きく、狭い道でのUターン等は苦手な要素となってしまう。


 注目の電子制御サスペンションは、もともとZ H2のサスペンションが優秀だっただけに劇的な違いは感じにくいかもしれない。
 もともと動き始めの作動性に優れ大きな衝撃も巧みに吸収してくれ、コーナリング中のギャップ通過でもバネ上(車体)の姿勢が乱れない安定性は抜群。ただ、時折硬めに感じられる点があったと記憶している。
 今回は、さらに初期の作動特性が素晴らしい。しっかりと硬い感触の中にも動きにソフトさが加味されて乗り心地も良いのである。

 もうひとつ付け加えておくとコーナーを攻め込む様な走りをしている時に不意のギャップに遭遇した時の安心感はさらにレベルアップされていたのである。
 制動時も姿勢の安定性が高く、軽いタッチで効力が自由自在になる強力なストッピングパワーさえも穏やかに感じられてしまう程であった。                                
 いつもの様にローギヤでエンジンを5000rpm回した時のスピードはメーター読みで52km/h。6速トップギヤ100km/hクルージング時のエンジン回転数は約4100rpmだった。
 また今回の試乗は高速や市街地から郊外まで含めて約150kmを走行。満タン方計測による燃料消費率は16km/Lであった。ちなみに主要諸元のモード燃費値は16.9km/L。ツーリング利用なら20km/Lあたりまで伸びると思われる。
 全てに渡る操縦性の総合力はまさに一級のレベル。加速も減速もハンドリングも自由自在にできる乗り味が印象深い。どんな場所でもライダーは大いなるゆとりを覚え、リラックスできる心地よさに包まれるのである。

●足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

シート高は830mmとやや高めながら、両足踵の浮き加減はご覧の通り。車重は214kgあるが、車体の引き起こしや支える感覚にはそれ程の重さは感じられず、安心して扱うことができた。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…