シグナスグリファスもいいけれど! コスパ重視ならシグナスX(2型)でチューニングを楽しむのも正解です。| 水冷&DOHC&175cc仕様をインプレ

先日、水冷エンジンに進化したばかりのシグナスグリファスを208ccにまで排気量アップしたカスタムマシンを、カムイ八王子で試乗した。そのカムイ八王子は2022年6月に閉店。代表だった瀧田さんは、同年8月にチューニングショップ「タキタモータース」を日野市に構えた。前回の試乗の際に「もっと安価にスクーターチュンを楽しめないものか」と尋ねたところ、「2型のシグナスの中古相場が安いので、イジって遊んでいる人が多いですよ」と教えてくれた。今回は、2型シグナスXをDOHC化したチューニングマシンの試乗記です。

REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●タキタモータース(東京都日野市旭が丘5-12-15/080-7608-0444)
チューニングしたシグナスX2型の実力を味わってきたぞ!

先日お伝えしたヤマハ・シグナスグリファスの208cc仕様は、とんでもない実力を備えるスクーターだった。回転数を問わずどこからでもスロットルのひとひねりで豪快に加速してくれるので、街乗り最強の印象を与えてくれた。またホイールベースを延長して豪華な足回りとしたことで、純正とは比べ物にならないくらい上がった動力性能に対して十分すぎるほどの安定性を備えるフレームにも感心したもの。フルコンaRacer制御によりゼロ発進時にスロットルを全開とすれば電動アシストが働くEブーストまで備えていたので、バッテリー容量の減りを感知して点灯するチェックランプを何度も光らせてしまうほど楽しめた。ただ、シグナスグリファスは発売から1年ほどしか経っていないため、事実上買うなら新車しか選択肢はなく、チューニング費用も車体と同額ほどかかる。う〜む、高い…。根が貧乏性な筆者にはずいぶんと敷居が高く感じられたのも事実。でも待てよ、だったら空冷時代のシグナスXで同じような加速は味わえないだろうか、と考えてしまった。するとタキタモータースの瀧田さんから「これも乗ってみてください」と、こちらの心境を見通したかのようなご提案をいただいた。それがシグナスX2型をDOHC化ccした今回のマシンというわけなのだ。

ヤフオク!でシグナスX2型の相場を確認すると、10万円以下のものも多い。

年式がほどよく古くなったからだろう、確かに2型で絞るとシグナスXの中古車相場はひと桁万円から選べる状況にある。ヤフオク!では最安値1.5万円!というものも見つかったが、実際の相場は安いもので6〜9万円ほどといったところだろう。これだけ安ければチューニング費用を存分にかけられるではないか! 貧乏性の筆者はここで一気にシグナスXのチューニングへ興味を移してしまうのだった。

ラジエターを前置きにした戦闘的なスタイル。
駆動系上部にはサイレンサー風のエアクリーナーをセット。
ホイールベースは100mm延長されている。

タキタモータースでご対面した試乗車には、車体前方に設けられたラジエターと、サブフレーム、多数のアルマイトパーツが多投入済み。シグナスXカスタムの本場である台湾スタイルを踏襲したような出立ちですが、カスタム&チューニングパーツがこれほど豊富なことに、改造ペース車としての素材の凄さを感じてしまう。

キーを受け取りエンジンを始動した瞬間から鼓動が高まる。高圧縮化されたチューニングエンジンならではのスロットルレスポンスで応えてくれるのだ。このような出立ちなので当然のごとく排気音もやる気マンマン。なので始めは慎重にスタートしたのだが、ホンの3分も走ればワイドオープンの魅力に負けてしまう。まさに痛快なマシンに仕上がっているのだ!

写真映えではなく、ある程度伏せてないと全開にできない加速力。

前回試乗したシグナスグリファスは排気量を208ccにまで拡大していた。それに対して今回のシグナスX2型は空冷124ccだったエンジンを、KOSO製DOHCヘッドによる水冷化と、TTMRCシリンダーで175ccに排気量アップされているのが大きな特徴。エンジン特性の差は主に高回転域での伸びにあると感じた、208ccグリファスが高速域でどこまでも伸びていく感じに対し、今回の2型175cc仕様は高速域での頭打ちが早い。これはあえてオーナーが加速を重視したセッティングにしたためで、用途が街乗り主体のスクーターなのだから最高速より加速を重視するのは当然のことかもしれない。ここで再確認したいのが費用だ。グリファスの速さには新車価格プラス同額程度の費用がかかっている。対して2型ベースであれば車体はひと桁万円で済むからチューニング費用をどれだけ使うかによる。おそらく新車のグリファスを買う予算プラスアルファで済んでしまうのでないだろうか。

TTMRCシリンダーとロングクランクによる175cc仕様。KOSO製水冷シリンダーヘッドでDOHC化されている点もポイントだ。
ケーヒン32mmスロットルボディの吸気口にインジェクターを1基追加。燃調はaRaceのフルコン、RCスーパー2で管理している。
ホットラップ製ワンパンチマフラーにはO2センサーをダブルで装着。
空燃費はaRaceのDG-1で可視化。
空燃費計はaRace製に加えてPLX製も装備。同じ機能のメーターを2つ装備した理由は、「取り付けた場所によってそれぞれの数値の差がどれくらいあるか気になったので」とオーナー談。同様の理由で油温計もKOSO製と武川製を装備している。

エンジン性能のアップに伴い、車体周りも一通り手が加えられている。足回りで言えば、フロントフォークはJOSHO1製藤永モデル+BMF製Z1リヤサスペンションで高負荷領域での安定性を磨いている。もちろん通常走行時には硬めに感じられるのだが、許容できないほどではない。また、DCR製100mmロングエンジンハンガーによりホイールベースは、直進安定性を高める効果を持ち、KN企画製サブフレームは車体剛性の強化に貢献している。排気量アップにともないフロントに剥き出し状態でラジエターを追加しつつ、ステップフロアにオイルクーラーを装備するなど重量的に厳しいはず。ところが走行中に捩れるようなことは一切なく、コーナリング時にも安定した姿勢を保ってくれる。高出力化と重量増はスクーターにとって辛い条件になるはずだが、そんなことは微塵も感じさせない仕上がりに感心してしまった。

JOSHO1藤永モデルのフロントフォークには、ブレンボ製4ポットキャリパー+RPMφ260mmディスクの組み合わせて静動力を強化。
リヤショックはスクーターレースでも実績のあるBMF製Z1で、ロンホイ化に合わせてアダプターでオフセット。駆動系カバーはKOSO製でドレスアップ済み。
DCR製ロングエンジンハンガーでホイールベースを100mm延長。
KN企画フレーム補強ロットの下に電動ファン付きオイルクーラーを設置。

チューニングされたスクーターに乗るとスポーツバイクとは違う世界が広がっていることを改めて思い知ることになる。強烈な加速力と小径ホイールによるクイックな操縦性は街乗りで無敵と思わせてくれるほど、思いのままに加速して曲がってくれる。高速域を考えなければ最強の乗り物といっていいだろう。しかもシグナスXはカスタム&チューニングにも長い歴史があるからパーツ選びは無限大。しかも中古パーツも豊富に市場で見つけられる。予算を圧縮して楽しみたいならシグナスX一択とさえ思える。いやはや、楽しかった! オーナーさんとタキタモータースの瀧田さんに改めてお礼をお伝えします。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…