シンプルな空冷エンジン、車重122kgの軽さもいいぞ。|ホンダ・CRF 150Lに乗った! 思わず欲しくなった!

ホンダは国内市場に、アドベンチャーカテゴリーとしてCRF250Lと同RALLY をリリースしているが、125や中間排気量の公道仕様は揃えられていない。しかしグローバルな目で見るとアセアン諸国では程良いモデルが存在している。今回試乗したのは、CRF150L。オフロード好きや、バイクの楽しさを知る入門機種としても注目度満点な1台である。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●サイクルロードイトー指扇店 http://www.critoh.com

ホンダ・CRF 150L…….419,000円(消費税込み)

サイクルロードイトー指扇店 参考乗り出し価格……500,000円
ホンダ・CRF150
ホンダ・CRF150
ホンダ・CRF150
ホンダ・CRF150
ホンダ・CRF150

EXTREME RED

ホンダ・CRF150
ホンダ・CRF150

カラーバリエーション(参考・本国仕様)

EXTREME WHITE
EXTREME BLACK
EXTREME GREEN

 撮影車両はホンダカラーを象徴するエクストリームレッド。競技車両であるCRF R系に倣うデザインを纏ったスマートなスタイリングに仕上げられている。赤いシートクッションは燃料タンク(7.2L容量)の上から始まり、通常の着座位置からは後方へとストレートに伸ばされてヒップアップフィニッシュする。
 見るからにゆとりのあるロードクリアランスは285mmと充分に本格的。純正オプション用品にはボルトオンのスキッドプレートも用意されている。サスペンションは前225mm、後207mmというロングストロークを誇る。全体的にやや腰高なフォルムからわかる通り、オフロードランナーとしての備えは充分である。
 シャープなフロントマスクを構築する異形ヘッドランプや白い同バイザーデザインは、なかなか精悍でフレッシュな印象を放つ。一方で全体を良く見回すと、ちょっと古めかしい装備がある事に違和感を覚える人もいるだろう。
 まず第一は搭載エンジンの冷却システムが空冷方式である事。灯火類は今ではかえって珍しい電球式。トランスミッションは5速。そしてもうひとつ右側キックペダルの存在に驚かされる人は少なくないだろう。このCRF150Lはセル・キック併用式である。
 今の若い世代にとって、恐らくキック始動は無経験の人が多数派である。実際エンジンの始動はボタンひと押しで難なく目覚めるセルフ式が当たり前。今やキック機構を備えている事自体が極めて希な存在と言えるのだ。
 かつては日本市場でもこうしたオン・オフ系モデルに、各社が多くのバリエーションを展開していた賑やかな時代が思い出されるだけに、何だか懐かしくもあり新鮮でもある。今回のCRF150Lは、XLやXLR、XR系で培われた伝統的DNAを継承し、改めてアセアン諸国の市場ニーズに相応しい一台として開発された独特な存在感を漂わせているのである。

 スチール鋼管製セミダブルクレードルフレームに搭載されているのは、空冷2バルブのSOHC単気筒。僅かにロングストロークタイプで、ボア・ストロークは57.3×57.84mm。総排気量は149cc。
 カムチェーンは左側を通り、燃焼室の頭上でひとつのコンパクトなカムシャフトを駆動する。バルブは吸排気それぞれひとつの2バルブ式。いずれもローラーロッカーアームを介してプッシュする仕組みが採用されている。
 圧縮比は9.5対1で燃料は無鉛レギュラー仕様。日本市場では無関係ながら、10%までならアルコールを混ぜる混合燃料にも対応していると言う。
 吸気系は電子制御式燃料噴射装置が採用され、排気系は車体脇に綺麗に沿わせたスマートな右出しアップマフラーを装備。     
 9.51kWの最高出力は8,000rpmで、12.43Nmの最大トルクは6,500rpmで発揮する。
 足回りは黒いアルミリムを使用した前21、後18インチサイズのスポークホイールにブロックパターンのIRC製タイヤを装着。リーディングアクスルタイプのフロントフォークには、ゴールドのφ37mmSHOWA製テレスコピックフォークを倒立搭載。リヤのプロリンク式サスペンションはモノショックのボトムにリンク構造を持ち、スイングアームは角断面のアルミ製。ホイールトラベルでは前後共に200mmを超えている。
 ブレーキは前後共にシングルディスクにNISSIN製油圧のピンスライド式キャリパーを採用。フロントにはダブルピストンタイプが使われている。





乗り手や用途を選ばぬ万能ぶりが魅力的。

左がホンダ・CRF150L。右はヤマハ・WR155R。

 今回の試乗は既報のヤマハ・WR155Rと乗り換えながらチェックした。ついでに言うと試乗場所までの往復移動には筆者が愛用するホンダ・XR230を使用。同カテゴリー3車の特徴を知るにはなかなか好都合であった。
 足付き性チェックの欄には、参考比較としてWR155Rも掲載したが、試乗車(CRF150L)に股がった時の第一印象は、CRFの方が親しみやすい。
 ホイールベース比較するとCRFはWRより55mm短い。一方XR230よりは35mm長く、全体的なフォルムは充分に大きく立派に見える。しかしそれは決して大き過ぎない。実に程良いスケール感が好印象である。
 シート高はWRより約10mm低いが、シートや車体の仕上がりがスマートで、足付き性の良さは10mmの差以上の違いに感じられる。ちなみにXR230のシート高は805mm。XRはシート幅が広いせいか足付き性はそれほど良いわけではなく、CRFと僅差に感じられた。
 ステアリングの切れ角も充分に確保されており最小回転半径は2.1m。足が着きやすく、小回りUターンも扱いやすいので、狭い林道へ進入するような時でも安心感が高い。この点は日常的な取り回しのしやすさにも貢献。少し高めのハンドル位置も相まって、扱いはとても軽快である。
 市街地に走り出すとフロント回りの剛性感が高い事に気付く。倒立式フォーク採用の効果は絶大で操舵に対するカチっと素直な手応えはもちろん、特に急制動時の車体挙動にしっかりとした安心感がある。
 悪路通過時に披露されるサスペンションの動きもスムーズ。大きなギャップを通過した時も減衰が効いてその衝撃は巧みに緩和される。リヤも同様で、オフロードコースでジャンプする様なファンライドでも充分カバーできるポテンシャルの高さが感じられた。
                    
 また乗り味に親しみやすさを覚えるのは、エンジンの出力特性による事も見逃せない。水冷ツインカムに高圧縮比等、最新エンジンの様に高回転高出力が追求されていない事が返って好印象。つまり空冷エンジンで成立する出力特性が、実用域での扱いやすさに大きく貢献している。
 低速でもゴリゴリと良く粘る柔軟性はハンパ無い。XR230のトルクに迫る程、頼り甲斐のある底力が優しく発揮されている。なるほどこの柔軟な出力特性があるからこそ、少しワイドな5速ミッションが違和感なくマッチする。各速の守備範囲が広く、ゆったりと扱える。どの速度域でもしっかりと吹き上がるのを待って、順次シフトチェンジする扱いは、少し排気量の大きなエンジンに乗っているような錯覚にとらわれる程だ。
 一方高回転域まで吹き上がる伸び感も心地よい。豪快かつ俊敏な上昇感こそ少ないが、自然と早め早めのシフトアップをするのが順当な扱い方となる雰囲気。それでもスロットルレスポンスは強かで、加速力も充分に速くストレスは感じられない。高速道路を利用した場合でも、難なく100km/hクルージングできる事は間違いなく、最高速度は110km/hをオーバーするポテンシャルを持っている。
 空冷で賄える程度の性能追求は、高度なピークパワーは望めないが、むしろ実用域で好都合な、扱いやすいハイパフォーマンスを産み出してくれる事に改めて感心させられたのである。全体的にマイルドな出力の発揮と、前述の通り低速域でも良く粘るエンジン特性は、スカッと抜けるような瞬発力に乏しい代わりにCRF150Lならではの扱いやすさに磨きを掛ける美味しい乗り味を産み出している。
 一言で言うと、CRF150Lは誰にも親しみやすい操縦性が魅力的。初心者からベテランまで、またオールマイティな使い勝手を求めるユーザー層にも絶好のアイテムになる。
 長年の使用でかならず遭遇するバッテリートラブルでもキック始動があれば安心。実用車として徹底的に使い込める、まさにマルチパーパスモデルの代表格と言える。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

ホンダ・CRF150
ホンダ・CRF150
ホンダ・CRF150
ホンダ・CRF150

シート高は869mm。ご覧の通り、踵の浮きは少ない。指の付け根で確実に地面を捕らえることができるので、踏ん張りやすく、安心してバイクを支えることができる。

参考:足つき性チェック(ヤマハ・WR155R)

ホンダ・CRF150よりは一回り車体サイズが大きいヤマハ・WR250R(シート高は880mm)。
決して大き過ぎないが、足つき性はホンダCRF150の方が親しみやすい。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…