スズキGSX-S125を177ccに排気量アップ! どうやるの? どうなるの?

残念ながら2022年6月に閉店してしまったカムイ八王子だが、代表だった瀧田さんが独立して新たなショップ「タキタモータース」を開業。カムイ八王子同様スクーターに特化したショップかと思っていたら、ミッション車にも精通されていた。吊るしで乗っても楽しめるスズキGSX-S125に強烈なスパイスを効かせた試乗車があるので「乗ってみる」とお誘いをいただいた。はてさて、その実力やいかに?

REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●タキタモータース(東京都日野市旭が丘5-12-15/080-7608-0444))

TTMRCといえばスクーターをチューニングする人なら誰もが知るほど定評ある台湾のパーツメーカー。シグナスXを筆頭にNMAXやトリシティ、アドレスV125などのボアアップキットが有名なところ。いずれも排気量を引き上げるだけでなくパワーアップにも定評があり、さらには耐久性にも優れるため人気がある。「トリシティ125を170ccにボアアップ!」や「シグナスグリファスをボアアップ」などの記事でも紹介したように、スクーターのボアアップで定番メーカーともいえるTTMRC。記事で紹介した2台はいずれもスクーターチューンの聖地でもあったカムイ八王子で組み込まれたものだったが、なんとカムイ八王子が閉店してしまった。フランチャイズ店として長年営業されてきた同店だが、諸事情により契約が更新されず、代表だった瀧田さんは新たにタキタモータースとして営業を開始。今後は東京都日野市旭が丘5-12-15(TEL080-7608-0444/Eメールtkt.m@softpower-hachioji.co.jp)が新天地となった。その瀧田さんから「GSX-S125が楽しいよ」とお聞きした。なんでもTTMRCのシリンダーキットとロングクランクを使った排気量アップバージョンが試乗車としてあるのだとか。「いつでも乗ってください」と言われたら乗るしかない! ということで早速、タキタモータースさんへお邪魔することになったのだ。

スズキGSX-S125ABSを177ccまでボアアップしたタキタモータースの試乗車。
一見するとマフラーが変更されているくらいでノーマルのような印象。

スズキGSX-S125ABSは2017年にヨーロッパで先行発売され、同年中に国内でも販売が開始されたモデル。125ccクラスとして唯一となるフルスケールのミッション車で、兄弟車にGSX-R125が存在する。こちらはモトチャンプTVの動画を紹介する「現役最強125ccピュアスポーツGSX-R125、その実力を再確認!」という記事で紹介しているので、併せて読まれると両モデルに対する理解が深められることと思う。2車の違いはGSX-Rがフルカウルと低めにマウントされたハンドル、エンジンが高回転寄りにされたセッティングであることに対し、GSX-Sはネイキッドスタイルにアップタイプのハンドルを組み合わせエンジンの最高出力&最大トルクの発生回転数を若干下げてあること。つまりほぼ同じモデルだと考えていいのだが、どちらにしても原付2種として大きめなサイズであるのに対して125ccという排気量はやはり限界があるということ。そのままでも十分にスポーツライドが楽しめるモデルだが、乗り慣れてくるうちにモアパワーが欲しくなるはずだ。そこで瀧田さんはTTMRCによるシリンダーキットやロングクランクを輸入して、GSX-S125のポテンシャルをさらに引き上げつつ、より楽しいモデルにしてみようと考えたのだ。

若干色味が異なることでシリンダーが変更されているとお分かりいただけよう。
ハンドルに空燃費計やモニター代わりのスマホをマウント。
スマホの画面は数パターンに切り替え可能。画像はスロットル開度により空燃費がどう変化するか確認するためのもの。

今回の試乗車には68mmシリンダーキット(ノーマルは62mm)と48.8mmクランク(7.6mmロング)が組み込まれている。これにより排気量は124ccから177ccにまで引き上げられることになる。また排気量が変わることで必要とされる燃調が変わるため、必然的に燃調周りも変更しなければならない。そこでこれまた定評あるaRacerのフルコンで制御することにされた。ちなみにaRacerを用いることのメリットはパソコンだけでなくスマホ用アプリがあり、ここから各種セッティングをダウンロードして使えること。燃調をイチからセッティングする苦労は並大抵のものでなく、アイドリングからスロットル開度に応じた空燃費を走りながらデータにしなければならない。ところがアプリからダウンロードするだけでしっかり走らせることが可能だし、好みのセッティングへ変更することも自由自在。空燃費に対しての考え方は様々だろうが、パワー空燃費として12.5:1から13:1付近という数値が知られている。数値は燃料と空気の割合を示したもので、走行状態により変化するものの多くの回転域で13:1以内にあると理想的なパワー感を引き出せる。逆にこれより薄くすれば省燃費性に貢献するため、新車時に多くのモデルで15:1付近を採用している。

今回の試乗車に組み込まれたTTMRC製シリンダー+ピストンとガスケットキット。
ボアと同時にストロークもアップされている。使用したのはTTMRC製の7.6mmロングクランク。
緻密な燃調セッティングに欠かせないフルコンaRacerのRC MiniX。
O2センサーを新たに装着する必要がある。

このGSX-S125に使用されたTTMRCのエンジンパーツや燃料コントローラーなどは以下の通り。(なお価格は2022年8月現時点での価格であり、今後変動する可能性もある)

・TTMRC 68mmシリンダーキット 3万5200円(税込)/組み込み工賃3万2000円(税込)
・TTMRC 7.6mmロングクランク 4万1800円(税込)/組み込み工賃(クランクシム調整含む)5万3600円(税込) なおシリンダーとクランクを同時に交換する場合の工賃は5万3600円(税込)
・aRacer Mini X+AF-2 セット価格9万4050円(税込) 取り付け工賃8000円(税込)

このほかO2センサー代と取り付け工賃が必要になる。O2センサーはエキゾーストパイプへ穴を開けてボスを溶接が必要で、タキタモータースでも加工は行なっている。マフラーは純正よりも排気効率の高い社外品への交換を推奨。また、エンジンを分解するためガスケットやオイルを含む油脂代も必要になる。

今回の試乗車ではシリンダーキットとロングクランクを組み込んであるが、例えばシリンダーキットだけやロングクランクだけ組み込むことも可能だ。さらに今回のシリンダーキットはGSX-S150とGSX-R150にも使うことができる。そこで125モデルと150モデルにそれぞれ単体で組み込んだ場合の排気量も参考までにお伝えしよう。

・125にシリンダーキットだけを使った場合 149cc
・125にロングクランクだけを使った場合 147cc
・125にシリンダーキット+ロングクランクを使った場合 177cc
・150にシリンダーキットだけを使った場合 177cc
AF1はサイドカバー内側付近に装着している。
試乗車には少々古いaRacer RC Mini5を装着。シート下スペースに取り付け可能。
O2センサーはエキパイに穴あけと溶接加工が必要になる。

シリンダーやクランクなどエンジンの分解整備はプロに任せるのが無難だが、燃料コントローラーなどは自分でも取り付けられそうだと思う人がいることだろう。そこでGSX-S125へ取り付ける位置なども紹介したのが上記の画像。これだけ見てもなかなかに大変な作業であることがおわかりいただけるだろう。スペースの少ないバイク、ましてフルサイズとはいえ原付2種モデルであるGSX-S125だと取り付けることが可能な場所は極端に少ない。なおかつ熱の影響を受けにくいなどの諸条件を考えると、これもプロに任せるのが妥当かもしれない。ちなみにO2センサーの取り付け部を画像で紹介したが、これも一例でありこの場所でなければならないということではない。O2センサーを取り付ける場所は熱源から遠いといいのだが、だからといってマフラー近くでも正確な空燃費にならないことがありノウハウが必要だということを併せてお伝えしておこう。

どこにも無理がかからない排気量アップだからリラックスして楽しめる!

では気になる試乗レポートだ。まずお伝えしたいのは試乗車にはエンジンパーツと燃調コントローラーのほか、純正から変更しているのはマフラーのみという点。足回りなどの車体はまったくのノーマルであり、吸気系も純正のままだから排気量を拡大して、それに合わせて燃調を変えてあるだけと考えていい。何が言いたいかといえば、それだけGSX-S125というバイクの車体がしっかりしているということ。124ccから177ccにまで排気量を拡大しているのだから、当然パワーは純正と比較にならないほど高まっている。ところがコーナリングで車体が捩れたり思ったように止まってくれないといったネガが見受けられなかったのだ。まずこの点を強調したうえでエンジンについて紹介したい。

125モデルが苦手とする急勾配の上り坂でもストレスなし!

エンジンを始動すると社外品とされたマフラーから純正より大きめの排気音が奏でられる。筆者としては「ちょっとヤル気にさせる程度の音量」と感じたが、これでも十分に大きすぎると感じる人もいるかもしれないが。スロットルを開けた時のレスポンスは比較的穏やかなもの。純正+アルファといったところだろうか。ともかく「普通」なのだ。かといって遅いわけがあるはずもなく、例えば125ccではキツイと感じられることが多い登り勾配で顕著になるのだが、駆け上がる時にストレスをまるで感じないだけの加速力を備えているのだ。これは!と思って平坦な直線路でスロットルを大きく開けてみると、刺激的なレスポンスこそないものの125ccどころか150ccモデルでも得られないほど鋭く加速してくれる。感覚的には200ccのスポーツモデルに乗っているような印象で、チューニングマシンらしい扱いにくさだったり逆に高回転での刺激などは希薄なものの思っただけのパワーがどこからでも手に入る印象だ。これが前後17インチタイヤのフルサイズモデルに与えられたのだから、楽しくないわけがない。車体の軽さは圧倒的でヒラヒラと自在に向きを変えてくれるうえ、直線だけでなくコーナーでの安定性も非常に高いから安心してマシンを倒していけるし、そこからスロットルを開けていく時の安心感や楽しさは格別。体重の軽い筆者のような体格だと、完全にマシンとライダーが一体化したように感じられるのがGSX-S125の良さ。そこへプラスして排気量アップによる別格のパワーが与えられ、まさに鬼に金棒のようなマシンに仕立てられていた。さすが瀧田さん!と思わず心の中で唸ってしまった。

これだけの変貌ぶりに対してかかった費用は23万2650円(税込)で、ここにマフラー代とO2センサー装着費がプラスされるだけ。例えば格安な中古車をベースに考えたら、費用対効果はとても高いとは思わないだろうか。もちろん新車でも構わないが、新車を買うならノーマルを楽しんでからのステップアップとして捉えたい。むしろ新車を数年前に購入して「そろそろ乗り換えるかな」なんて考えている人にオススメ。乗り換えることと比べ格段に安価な費用で、自分のマシンへの愛がより一層深まること間違いなし。カムイ八王子からタキタモータースへと変わったが、マシン作りやチューニングにかける情熱と技術力は全く変わっていなかった。これからも瀧田さんの生み出すマシンに注目していきたい。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…