ボルボEX-30 “洗練”のCMFを解剖する [CMFデザインシリーズ Vol.4 ]

[CMFデザインシリーズ Vol.4 ]
今回は評判の高いボルボEX-30のインテリアCMF戦略についての実車レポート。従来デザインをサスティナブル素材に置き換えただけではない、ボルボデザインCMFチームのモダンでセンスの高い仕事を紹介する。
TEXT & PHOTO : 齋藤優子

次世代ミニマム&プレミアムCMF

北欧スウェーデン発祥のVOLVOは、高い安全性能と洗練された外装内装デザインで定評がある自動車ブランドです。CMFにおいても、エレガントかつモダン、そして質感の高い表現が高く評価されています。昨年、ブランド史上初の最小SUVとして発表されたBEV EX30も、人間中心のテクノロジーを装備し、持続可能性を高めたデザイン性の高いモデルとして注目を集めました。

特にそのCMFは、母国スウェーデンのスカンジナビア的な雰囲気を醸し、とても表現力豊かな色と素材で構成されています。そして、この車で特記すべきなのは、サステナブルデザインの面において、室内空間への貢献、革新的な素材表現への挑戦が見られる事。このストーリーを感じさせ、人の情感に訴える、完成度の高いCMFデザインはどこから来るのか?今回は、このEX30についてCMF観点からレポートします。

Mist:外装色/モスイエロー(北欧に生息するという黄色い苔の色のイメージから命名された)
基本内装色/ブラック 
シート表皮/ファブリック(ウール30%混・リサイクル糸70%)
加飾材/「フラックス・デコ」(亜麻繊維混)
Breeze:外装色/クラウドブルー 
基本内装色/ブラック 
シート表皮/ピクセルニット×ノルディコ(人工レザー)
加飾材/ 「パーティクル・デコ」(再生素材)

本国スウェーデンでは4種類のグレード展開で販売されていますが、現在日本国内で展開されているのは、「Mist」 と 「Breeze」の2グレード。 どちらも北欧の風景や自然にインスパイアされたテーマ性を感じます。

1.清々しい心地よさ

これら2台のCMFでまず感じたのは、外装/内装の統一感のある清々しい佇まいでした。
外装色を目にとめながら、クルマに乗り込んだときの「すうっ」とした心地よい内装の空気感。
ボディカラーとインテリアカラー、また素材の選定と表面の視覚的・触感的処理すべてが整っていて目に心地よく、美しく配置されている印象です。北欧の、クールでありながら温かみのある、自然のイメージが浮かんでくる感じです。同時に先進的なデバイスのよう感覚も持ち合わせている、モダンデザインのセンスを感じます。

Mistのインテリア:ブラックに上品なライトグレーを基調とした内装空間。端正なツイード調のファブリックシートと、天然の亜麻繊維を使用した加飾パネルが、穏やかな心地よさを誘う印象。  

インテリアをよく見ていくと、色と素材の要素をとことん整理して違和感をなくした、視界に優しい色相コントロールがうかがえます。また、色と同様に、素材の種類と配置に大変こだわっていることがわかります。具体的にいうと、色数が、ブラックの基本内装色と、シート&加飾パネルに使われている色の、大まかには2色の構成に見えること。もちろん、厳密には素材や表面加工は、パーツによってそれぞれ性質の違うものが使われていますが、色と艶のコントロールがしっかりと一定に整えられているためチグハグな見え方がなく、高い質感を保っています。

Breezeのインテリア:ブラックと控えめなライトブルーのコンビネーションが涼やかな印象の内装空間。クールな空気感が内装を引き締め、スポーティな爽やかさを醸し出している。
トリム下部のハード樹脂パネルに施されている、大粒の小石のようなシボパターン。
粒の一つ一つの形状に動きがあり、さらに艶のバランスをとっている。存在感を残しながらも、脇役に回って隣り合うエリアの色や素材を引き立てている。 

2.車全体から感じるミニマムな統一感

もう一つ心に響いた点として、デザインに美しいミニマリズムを感じます。
これは、内装部品の効果的な削減がなされていることが起因しています。
この車は、スイッチ類などの操作系コンテンツをセンター部に集中させています。たとえば左右のドアパネルは、従来あるスピーカーがインストルメントパネル上にレイアウトされたことで、ドアパネルの配線の複雑さを軽減して足元がスッキリと広くなり、さらにウィンドウの開閉スイッチがセンター部に統一されたことで、ドアパネル自体が、無駄なラインや凹凸のない構成でデザインされています。
このよう部品が効果的に統一されていくことで、CMFにおいてもミニマム化が進み、色や表面加工が本当の意味で生きてくる点が重要なポイントになっています。

サウンドバー:IPの前方フロントガラス近くに「サウンドバー」としてスピーカーを内蔵し表皮で覆われている。
従来左右のドアに配置されるスピーカーをインパネ奥へ配置することで、ドアトリムのデザインの自由度が高まり使い勝手も向上。これらは同時に開発・生産工程などの原価低減にもつながる。
助手席側ドアトリム:スピーカーだけでなくパワーウィンドウ開閉スイッチもなくドアに一切スイッチ類はついていない。色と素材(とシボ)の関係が明快で、形状も奇麗に収まる。造形の自由度もあがり、使いやすさとともに足元広さも向上。
センターコンソール先端へ集約されたパワーウィンドウ開閉スイッチ。REAR表示部に触れれば後席窓ガラス開閉も可能だ。
助手席側IP下面の様子。従来助手席側にIP下部に設置されるグローブボックスをセンターにレイアウト。
助手席前には分割ラインがなく、一つの部品として造形を邪魔しない。

3.サステナブル素材 -「プレミアム」が変化している

EX30では、「循環型」サステナビリティを目指して、ユニークでしかも美しいサステナブル素材に挑戦しています。これらは新しいプレミアム表現の可能性を示唆しているように思います。
特に「Mist」「Breeze」でそれぞれ搭載されている加飾パネルは、自然素材由来のもの(フラックス・デコ)、あるいはリサイクルプラスティックから作られたもの(パーティクル・デコ)ですが、その見え方は量産形式の一定の見え方とはまた違う、表情豊かなものです。
EVのようなクリーンなイメージのクルマでは、仕上がりに均一性を求めすぎると無機質な空間の印象が強くなりがちなところを、このような、人の感性に寄り添う、自然で質感の高い素材表現で、心地よい満足感を持たせる新しいプレミアムを表現していることがわかります。

Mist / フラックス・デコ:植物の亜麻を繊維状に細く割いて樹脂と合わせたもの。手触りはソフトでしっとりとした
触感。天然素材特有のランダムな流れの表情がエレガントに映る。
Breeze / パーティクル・デコ: 家庭用のPVC窓枠などの粉砕樹脂廃棄物から作られている。北欧の星空をイメージしている。
Mist /シート表皮
ウール30%、リサイクル糸70%のミックスカラーの織物。さらりとした触感と適度なハリがある
Breeze /シート表皮
3Dニットと人工皮革「ノルディコ」のコンビネーション。 
3Dニットは端材を出さないサステナブルな表皮材。グラデーションによる粉雪のような美しいパターンが表現されている。

2019年にジュネーブショーでポールスター2*を見た時、初めて車のデザインコンセプトに「ヴィーガン」というワードが使われていることを知り、新たなCMFの幕開けを感じたものでした。
それは高級車としてのモデルに、サステナビリティのための取り組みが明確に実施され、動物由来である本革を使用せずに合皮レザーを用い、リサイクルされたウッド加飾を搭載するなど、新しいプレミアムインテリアを目指す、ブランドとしての指針を世界に発信した革新的な出来事として、強く私の記憶に残っています。そして、よりモダンで親しみやすく、さらに洗練されたサステナビリティデザインがVOLVO EX30で実現されています。 
VOLVOのような世界市場を舞台とするブランドでは、新素材の国際的な基準を満たすことは簡単な事ではありません。そこをあえて新しい表現や質感に果敢に挑戦し続けていることに敬意を表したい思いです。

*ポールスター2:2019年2月のジュネーブショーで初公開された高級SUV。
トレーサビリティ(流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態)付きの本革シートも選択可能となって いた。

この車の統一感と先進感のあるCMFデザインは、CMFチームが開発プロセスの中でかなり早い時点から設計部門とともに目標を設定して進めてきた成果だと思います。CMFは今後環境配慮に関する素材開発が進むにつれ、車両の開発プロセスにおけるその役割として重要な位置に存在しています。EX30を見て、その思いをさらに強くしました。

色と素材がそのモデルを雄弁に物語る、そんな車を仕立てることは、CMFデザイナーであるなら誰しも目標にすることではありますが、実際にユーザーとの間には乖離があることも多いものです。
言葉を並べるのではなく、見て乗り込んだ瞬間、直感的にそのストーリーがイメージされるような素敵な要素がこのEX30には詰まっていると思いました。

このCMFを担当したチームの方々は、開発プロセスの中で様々な苦労を経験されたかもしれませんが、それはとても幸せな時間でもあっただろうと個人的には思います。

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著者プロフィール

齋藤 優子 近影

齋藤 優子

CMFデザイナー
多摩美術大学プロダクトデザイン科卒業
家庭用品のデザイン開発、文具・オフィス家具・店…