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スタイリングは2023年のJMSで発表した「次世代BEVコンセプト [LF-ZC ]のデザインに着想を得た表現に挑戦し、この新型ESからはじまるLEXUSの新たなデザインを体現した」と発表されている。
中国でのワールドプレミアの意図
王 洪浩Car Styling China編集長(以下王):本日は、日本の『カースタイリング』編集長・難波様にもお越しいただいております。今回の対談を通じて、掘り下げたお話ができればと思います。それでは難波さんから、どうぞよろしくお願いいたします。
難波 治Car Styling編集長(以下難波):今回、上海ショーでレクサスESを初めて拝見しました。私からまずお伺いしたいのは、「中国で発表された」ということの意味についてです。
須賀 厚一 レクサスデザイン部長(以下須賀氏):本日(4月23日のワールドプレミア)、李(暉)総経理からもプレゼンテーションがあったように、「イン・チャイナ/フォー・チャイナ」という考えのもと、レクサスの中でも特にセダンのESは、現在もっともお客様のニーズが高いのが中国市場です。開発段階から中国市場の特性を十分に反映させた商品であり、それをこの上海で発表することが最大の狙いでした。

難波:そうなると、やはりエクステリア、インテリアともに、中国市場を重視したデザインになっているということでしょうか?
須賀氏:現在、世界の中でも中国の市場環境はもっとも熾烈で厳しいと言えます。ここで戦えるクルマをつくることが、結果としてグローバルでも通用する商品になります。そのため、パワートレーンや市場環境など、中国の状況を意識して開発を行いました。
難波:私の印象ですが、これまで見られなかったようなディテールの試みや、プレスラインの工夫が見受けられます。そうした点にも配慮されたのでしょうか?
須賀氏:そうですね。先ほど申し上げたように、多種多様なクルマが存在する中で埋没してはいけません。レクサスが新しい何かに挑戦しているということを感じてもらうために、台数は少なくとも「レクサスがある」と気づいていただけるよう、ラインの見せ方などにはこだわりました。
特に最近の中国のクルマは、BEV(電気自動車)化によってプロポーションや骨格が非常に立派になってきています。ですから、ある程度大きな体格でなければならない。その中で、レクサスがこれまで「エルフィネス」として追求してきた鋭さや切れ味のような要素が、新たな感覚として繋がると考えており、そこは非常に大切にしています。

ボンネット上の特徴的な稲妻型のキャラクター。これはJMS2023で登場したLF-ZCのボンネット上の造形処理を用いたようだがその造形意図はやや解釈違いに見える。
フロントエンドは新たなツインLシグネーチャーのヘッドランプとセンター部のボディ色と両端の黒い部分でスピンドル形状を表現。すでにスピンドル「グリル」という呼び方も過去になるのか。ボディカラーもよりカラフルで新しい方向性を打ち出した。こちらは2色あるうちのカッパー。



難波:インテリアはまだ拝見していないので、後ほど見せていただければと思いますが、インフォテインメントに関しては、中国の進化のスピードが非常に速いですよね。なかなか追いつくのは大変かと思いますが、そこも注力された部分でしょうか?
須賀氏:そこはチーフエンジニアが、新しいハーモニアスとの連携などを通じて取り組んでいます。ただ、レクサスとしては「YouTubeが見られます」といったことではなく、車内でどれだけ豊かな時間を過ごせるか、ということに非常に注意を払って開発しています。
難波:ボディカラーについてもお聞かせください。今回の展示車に採用されていた2色には、どのような意味があるのでしょうか?
須賀氏:新型ESは、「フォー・チャイナ」で開発された、これまでのレクサスとは一線を画す、新たな一歩を踏み出す意志を持ったクルマです。そういった意味からも、保守的な色ではなく、よりカラフルで新しい方向性を打ち出した2色を用意しました。
ひとつはカッパー。RXでも使われている色ですが、「それをセダンに塗るのか?」という驚きもあるかもしれません。もうひとつは「SOU(蒼)」。これはこのクルマで新たに開発した青系のカラーで、環境をイメージした新色です。いずれも、従来のセダンではあまり採用されなかった色にチャレンジしています。

10年後に向けて
王:難波さんは、日本のカーデザイナーという第三者の立場から、新型ESのデザインをご覧になって、どのような印象をお持ちになりましたか?
難波:第一印象としては、全体のプロポーションの良さはもちろんですが、それ以上にディテールに強い印象を受けました。先ほど須賀さんもおっしゃっていたように、一目見たときに他車と違うと感じられる工夫があると感じました。
たとえば、ボンネットに稲妻のようなプレスラインが走っていたり、ボディサイドにガーニッシュで特徴的なグラフィックを与えていたりします。これまでは、エクステリアデザインはサーフェイスの切り替えによって造形を見せることが第一で、グラフィック的に見せるのは違う、という不文律のような慣習がありました。でも今回は、あえてそこに踏み込んだのだと感じました。
このクラスのセダンとして、独自の見せ方ができており、他車との差別化という視点ではしっかりできたのかなと思います。
王:レクサスはチャレンジングで新しいものに挑戦するブランドです。デザイン面でもそれは顕著で、現在のレクサスは10年前のレクサスを確実に超えてきていますし、10年後にはまた今のレクサスを超えていくはずです。10年後、デザインチームはどのようにして今のデザインを超えていくとお考えでしょうか? また、須賀さんご自身は、どのように今のご自身を超えていこうと考えていますか?
須賀氏:トヨタ自動車には「日々改善」という言葉があります。これはデザインの分野でも同じです。今つくったものはもう過去のものであり、次の改善に挑む必要があります。その意識はすでに根付いていますので、10年後に向けてもそこを目指していくべきだと考えています。
レクサスもこの10年で、グローバルでのラインナップが大きく増えました。そうした中で、私たちはいま一度立ち止まり、「レクサスは何のために存在し、何を生み出すブランドなのか」を、サイモン・ハンフリーズ(トヨタ自動車 チーフブランディングオフィサー)も交えて、真剣に考えているところです。
これまでのレクサスの中にも、エポックメイキングな存在があります。初代LSや、SUVのカテゴリーを築いた初代RX。LFAはやや特別な存在ですが、LC、そして直近では小さなラグジュアリーカーであるLBXなどです。
これら4台に共通しているのは、まったく新しい車両のコンセプトを持っていること。LSはセダンとして、圧倒的な静粛性や価格、お客様の価値を実現した。RXやLCもまた、独自のコンセプトを持つクルマです。
私たちは、そうした「誰もやっていないコンセプトを発見する」ことを“ディスカバー”と呼んでおり、新たな何かを発見することにレクサスの価値があると考えています。ディスカバーこそが、レクサスの本質だと今は思っています。
王:現在、中国のカスタマーは非常に多様な要望を出していると思います。あらゆる機能を求めている中で、そうした多様なニーズと、レクサスのDNAとを両立させるためには、どのような取り組みが必要でしょうか?
須賀氏:それは本当に大変な課題です。中国の新興自動車メーカーは、とにかくチャレンジ精神に富んでおり、さまざまな試みに取り組んでいます。私たちも当然、お客様のニーズに応えるべく検討は重ねますが、最終的に採用するかどうかの判断基準は、「安全」と「品質」です。
お客様がどのようにその機能を使われるかはわかりません。良かれと思って装備したものが、万が一にも事故や危険に繋がる可能性がある場合、レクサスおよびトヨタはそれを採用しない方針です。
王:最後の質問です。今年のジャパンモビリティショー(10月30日〜)では、私たちはレクサスに何か新しいことを期待してもよろしいでしょうか?
須賀氏:レクサスは“ディスカバー”のブランドです。ぜひ、“ディスカバー”しに日本にお越しください。
ESのインテリア
デザインコンセプトはClean Tech×Elegance
全長が165mm延長され、W/Bは80mm延長を生かしたシンプル・クリーンで開放感と見晴らしの良い広々した室内空間。
床下にバッテリーを収めるために高くなった全高のおかげで着座位置が高く乗降しやすいが頭上は濃色調光機能付きグラスルーフ(遮光・断熱・紫外線99%カット)採用で空間を確保する。

メーターフードは12.3インチの異形液晶ディスプレイ採用により高さが抑えられ、中央には大型ワイドなインフォテイメントディスプレイが置かれ先進感を表現しているのも中国市場を意識しての装備。


スイッチ類は少ない方がカッコいい。でも、だからと言って全部画面でコントロールしようとすれば、却って使いにくくなる。必要だと考えるスイッチは物理スイッチで残す。普段は隠れていながら手を近づけると浮かび上がるレスポンシブ・ヒドゥン・スイッチはそこから生まれた発想だ。
フロントシートは新設計で薄型にして空間を確保、トリムにはバンブーをモチーフにした意匠、カラーは「アオタケ」色で、LEXUSがモチーフにしてきた竹を表現。


レクサスの次世代電動車ラインアップの先陣を切るモデルとして全面刷新された新型ES。日本での発売は2026年を予定。
今回はモーターショー会場の照明の下で実車を見る機会を得られた。しかしショー会場で大勢の来場者の中で新車発表された注目のクルマをじっくりと見ることは極めて難しい。今後外光の下でこの新型ESを見る機会が訪れた時にあらためて詳細スタイリングレポートを行わせていただきたいと思う。
