「アストンマーティン DBX 707」で巡る東京オリンピックレガシー

「アストンマーティン DBX 707」に乗ってわかった「ジェントルマンがスポーツカーを愛する理由」

国立競技場は2021年の東京オリンピックで熱戦が繰り広げられたスポーツの聖地だ。その近くにあるオリンピック・ミュージアムの前にはオリンピックシンボルがそびえる。
国立競技場は2021年の東京オリンピックで熱戦が繰り広げられたスポーツの聖地だ。その近くにあるオリンピック・ミュージアムの前にはオリンピックシンボルがそびえる。
血統書付きの名門「アストンマーティン」が初めて手がけたSUVで、その最高性能バージョンが「DBX707」だ。『ゲンロクWeb』でも、多くの試乗インプレッションを通じてこのスーパーSUVのパフォーマンスを紹介してきたが、今回は少し角度を変えて、アストンマーティン DBX707を取り上げてみたい。テーマは、「ジェントルマンは、なぜスポーツカーを愛するのか」だ。

Aston Martin DBX707

スポーツは英国紳士のたしなみである

「アストンマーティン DBX707」のノーズをまずは国立競技場に向ける。なぜなら、スポーツカーについて考えるには、まずスポーツについて考える必要があるからだ。

朝の都心の道を「DBX707」は粛々と走る。フルスロットルを与えた時の咆哮からは想像できないほどパワートレインの印象はジェントルで、タウンスピードでの乗り心地はいい意味でタイト、ドライバーの気分を引き締めてくれるタイプの快適さがある。

やがて、隈研吾がデザインした国立競技場が見えてくる。残念ながら無観客になってしまったけれど、東京オリンピックでは熱戦が繰り広げられたスポーツの聖地だ。

そもそもスポーツとはイギリス人、しかもジェントリーと呼ばれる支配階級が礎を築いたものだ。ジェントリーの多くは、中世の騎士の末裔だ。つまり相手を打ち破って地位を築いた人々だ。したがって、日本でいえば公家よりも武士に近いのかもしれない。

これが19世紀に入ると、暴力で争うのは野蛮だという風潮が生まれる。決闘ではなく、もっと文化的な方法で決着をつけようではないか、という動きだ。そこで、ケンブリッジやオックスフォードの学生とOBが中心となって、ラグビーやボクシング、レガッタなどのルールを整えて、スポーツで競うようになる。だからスポーツは、英国紳士のたしなみなのだ。

国立競技場をあとにして、東京オリンピックでボートやカヌー競技が行われた海の森水上競技場へ向かう。

本物のセレブリティに愛されたアストンマーティン

英国紳士がスポーツを好む理由はおわかりいただけたと思う。では英国紳士がモータースポーツを愛好する理由はどこにあるのだろうか。クルマの黎明期を振り返ると、この乗り物は決して便利な道具として進化したわけではない。貴族や富裕層がおもしろいおもちゃとして遊ぶことで、性能を進化させたのだ。

わかりやすい例が白洲次郎だ。ケンブリッジ大学留学中の彼は「オイリーボーイ」の異名をとるほどクルマ遊びにのめり込み、親友のロビン・ビング(後のストラフォード伯爵)とともにヨーロッパ大陸を愛車で旅をしている。

クルマは、速くてエキサイティングな乗り物だから人々の心を掴んだ。だから黎明期のクルマに飛びついた、新しいモノが好きな上流階級の人々は、レースにものめり込んだ。そしてサーキットは単にクルマのスピードを競う場というだけでなく、紳士淑女の社交場となっていく。

白洲次郎とロビンが目指したのはヨーロッパの最南端、ジブラルタル海峡だったという。海の森水上競技場は東京湾ではあるけれど、海は海。気分だけは当時のグランドツーリングを味わう。

文化を次世代に受け渡す架け橋

新たにリップスポイラーが追加されたリヤの大型ルーフウイングと下部のウイング付きディフューザーがDBX707の特徴。

海の森水上競技場を出発して、有明のレガシーエリアを目指す。目を吊り上げてワインディングロードを試乗していると、つい見落としてしまうけれど、市街地をゆったり走っているとレザーの手触りやステッチの美しさなど、フィニッシュのレベルの高さにため息が出る。こうした繊細な仕事ぶりは、長年にわたってイギリスのセレブリティたちを相手にしてきた経験の蓄積によるものだろう。

なにしろ、アストンマーティンを愛したのはセレブではなく、チャールズ国王やポール・マッカートニーといった本物のセレブリティなのだから。

有明のレガシーエリアには、東京オリンピックの経験を文化や資産として後世に残すために、スケートボードパークやランニング・スタジアムなど、さまざまなスポーツ施設が企画されている。興味深いのは、3×3バスケコートや屋内ボルダリングなど、新しいストリート系のスポーツの施設が多いことだ。

時代に合わせて形を変えていくという意味では、DBXも同じだろう。ライフスタイルや趣味の多様化に合わせて、背の高いスポーツカーという新しいスタイルが生まれたのだ。

また、有明のレガシーエリアは、スポーツ文化を次代に継承するという意味で、アストンマーティンの存在意義と重なる部分があると思った。アストンマーティンというブランドは、単に高性能な高級車を開発しているだけではない。黎明期から連綿と続く、クルマ文化を次の世代に受け渡す役割も果たしているのだ。アストンマーティンに乗るということは、クルマ文化や自動車史の一部になるということだ。

スポーツが生きる力となる

有明のレガシーエリアから月島方面へ移動して、かつて選手村だった晴海のマンション群を望む。コロナ下で東京オリンピックが行われた際には、スポーツは不要不急のものだという意見もあった。確かにスポーツは衣食住と違って、どうしても必要なものではない。いっぽうで、スポーツは観客の心を震わせ、感動を生み出すことができる。

アストンマーティンDBX707も同じだ。どうしても必要なものではないけれど、そのパフォーマンスや上質な設えで、オーナーに生きる力を与えてくれる。スポーツとスポーツカーは、不要不急のものの重要性を教えてくれるのだ。

REPORT/サトータケシ(Takeshi SATO)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)

SPECIFICATIONS

アストンマーティンDBX707

ボディサイズ:全長5039 全幅1998 全高1680mm
ホイールベース:3060mm
車両重量:2245kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:520kW(707PS)/4500rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/6000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後カーボンセラミック・ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/40YR22 後325/35YR22
最高速度:312km/h
0-100km/h加速:3.3秒
車両本体価格:3290万円

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
https://www.astonmartin.com/ja

アストンマーティンという歴史あるブランドの次代のアイコンとなるアストンマーティンDBX707。搭載される4.0リッターV8ツインターボエンジンの最高出力は車名の由来となった707PSで、最大トルクは900Nmを誇る。

攻めても流しても最高の体験をもたらす「DBX707」はアストンマーティンの二刀流だ

アストンマーティン初のSUV「DBX」。その最高出力を707PSまで高めたDBX707でツーリングに繰り出した。都会の喧噪を抜けだし、首都高、高速道路、スリリングなワインディングを経て、熱海に昨年できたばかりのラグジュアリーホテルを目指す。変化する景色の中で感じられたDBX707の本質とは?

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