「まさに走る工芸品」“ランボルギーニの中枢”カーボンファクトリーやアッセンブリーラインに潜入!

ランボルギーニの本拠地、ボローニャのサンタガータファクトリーで、カーボン製造工場とアッセンブリー工場を見学。彼らのクルマ造りの哲学に触れた。
ランボルギーニの本拠地、ボローニャのサンタガータファクトリーで、カーボン製造工場とアッセンブリー工場を見学。彼らのクルマ造りの哲学に触れた。
ランボルギーニは自社ファクトリーにカーボンパーツの製造工場をもち、レヴエルトのカーボンモノコックなどを内製している。現代のスーパースポーツカーに欠かすことのできないカーボンパーツは、どのような工程で生み出されているのだろうか。(2025年 GENROQ2月号より転載・再構成)

Lamborghini Factory

2011年からカーボンモノコックを内製

焼き上がったカーボンモノコックはさまざまなチェックを受け、磨きがかけられる。
モノコックのいわゆるバスタブの部分とルーフ部分は別に作られ、接着剤によって合体される。1台のレヴエルトに使用される接着剤は140mにもなるという。

現代のスーパースポーツカーのエンジニアリングにおいて、欠かすことができないのがカーボンだ。軽量で高剛性であるこの素材をボディの根幹となるフレームに使用するのは、もともとはフォーミュラマシンに用いられた技術。その有用性が認知されると、程なく市販スーパースポーツカーにもフレームをはじめとするさまざまな部位にカーボンが用いられるようになる。

ランボルギーニでは2011年に登場したアヴェンタドールからセンターモノコックにカーボン(CFRP)を採用したのだが、それと同時にサンターガタに専用のファクトリーを新設し、自社内でカーボンを製造している。ご存知のようにカーボンパーツの製作は非常に手間と時間がかかり、さらに加熱のためのオーブンなど大掛かりな設備が必要となる。外注するという選択肢もあっただろうが、自社で作ったほうが自由度が高まるのは当然のこと。その先の需要の拡大も見越して、新ファクトリー建設という判断に至ったのだろう。

大きなカーボンパーツもすべて手作業

今回の訪問で、我々は実際にカーボンパーツを作る手順を体験させてもらった。レヴエルトのデザインをモチーフにしたオブジェを作る作業だ。手順は雌型の中にカーボンシートを貼り付け、それ全体をビニールに入れて密閉。その後、中の空気を抜き出して真空にする。するとカーボンシートが雌型に密着するわけだ。それをオーブンで加熱して完全に硬化したら、型から取り出して完成となる。

この体験の後にレヴエルトのカーボンモノコックの製造工程を見学したのだが、作り方はまったく同じだった。大きなモノコックの雌型に手作業でカーボンシートを貼り付けていき、大きなビニール袋に入れて密封、空気を抜いていく。それを大きなオーブンで130度、2.5〜6barの圧力で加熱する。そのほとんどが手作業なのだから驚く。レヴエルトのモノコックタブとなると相当な大きさなのだが、複数のスタッフが根気よくカーボンシートを貼り付け、ビニール袋に入れて空気を抜いていく。その風景はクルマというより工芸品を作っている工房のようだ。

もちろんオーブンで焼いたら完成というわけではない。傷や歪みなど300以上の部位の確認、気泡のチェックなどを多くのスタッフによる目視、レーザースキャン、超音波などを使って行い、合格すると晴れて製品として使用されるわけだ。

カーボンのリサイクル技術も開発

検査が完了したカーボンモノコックはファクトリーの隅に積み上げられる。この後、アルミサブフレームをボルト止めし、エンジンやボディパネルが組み付けられる。
検査が完了したカーボンモノコックはファクトリーの隅に積み上げられる。この後、アルミサブフレームをボルト止めし、エンジンやボディパネルが組み付けられる。

ランボルギーニでは基本的に複雑な形状のものは内製としているそうで、ウラカンSTOのコファンゴ(一体型ボンネット)やリヤフェンダー、リヤのボンネットなどもここで作られた。その一方でレヴエルトのボディサイド部分などのRTM(樹脂注入成形)は外注しているという。また最近はリサイクルにも力を入れており、カット後のカーボンシートの余りは教育センターで使用したり、また使用後のカーボンファイバーをファイバーと樹脂に分離して再使用する技術も確立されているのだという。

カーボンモノコックの実際の製造現場を見るのは初めてだが、想像以上に手間と時間がかけられていると実感した。レヴエルトなどの少量生産車にしか使用できない理由と高額な理由も納得だ。だがカーボンの製造法については多くの特許を取得しているランボルギーニなら、いずれは同等の品質をもっと安価・大量に作る技術を開発し、全モデルにカーボンコンポジットを使用することが可能となるかもしれない。

驚くほど近代化されたアッセンブリーライン

工場はスペースが広くとってあり、快適。ベルトコンベアーのような設備がないので、非常にスッキリしている。
工場はスペースが広くとってあり、快適。ベルトコンベアーのような設備がないので、非常にスッキリしている。

少量生産のスーパーカーメーカー、というと家内制手工業的なイメージがあるがランボルギーニの組み立て現場は驚くほど近代化されている。だがその中に手作業の部分も多い。両方のメリットを最大限に活かしているのが印象的だ。先に書いたように、ランボルギーニは現在年間1万台を超えるクルマを販売している。そのすべてがイタリア・ボローニャ地方のサンターガタのファクトリーで生産されている。ここはもちろんフェルッチオ・ランボルギーニが1963年に同社を創業した場所であり、その場所での生産を頑なに守っているということはつまり、フェルッチオの精神が今も脈々と受け継がれていることを表しているのだろう。

そのファクトリーは生産の増加に伴って拡張を続けてきた。前の項で紹介したカーボン製造ファクトリーは2011年から稼働し、2019年には新たなペイント工場も作られている。エンジン生産やアッセンブリーも含め、すべてがここサンターガタで完結しているのがランボルギーニなのだ。

ボディは自走式ユニットに乗ってラインを移動

少量生産のスーパーカーメーカー、というと家内制手工業的なイメージがあるがランボルギーニの組み立て現場は驚くほど近代化されている。だがその中に手作業の部分も多い。両方のメリットを最大限に活かしているのが印象的だ。
少量生産のスーパーカーメーカー、というと家内制手工業的なイメージがあるがランボルギーニの組み立て現場は驚くほど近代化されている。だがその中に手作業の部分も多い。両方のメリットを最大限に活かしているのが印象的だ。

エンジンと車体のアッセンブリー部門は非常に広大なスペースで、クリーンなことが印象的。ラインを流れるボディは自走式ユニットに乗ってライン上を自動で走る。作業時間は部門ごとに決められており、時間内にスタッフは所定の作業を終え、時間がくるとボディは次の場所へ自分で移動する。すべてが効率的でシステマチックに行われており、ファクトリー内にはあちこちに大型ディスプレイがあり、作業の残り時間がデジタル表示されている。この方式はウラカンの製造時からスタートしたもので、作業効率が大きく向上したそうだ。

エンジンの組み立てラインなど、細かなパーツを扱う場所では、スタッフが手にスマートウォッチのような装置をつけている。そこには次の作業に必要なパーツが表示され、ストック棚から必要な部品を取り出すごとに記録される。スタッフは選び出したパーツを所定の決められた場所に置くことで取り忘れやダブりも防ぐことができる。すべてが働く人間の負荷とミスを減らし、効率の良い作業を行うことが重視されたシステムだ。

エンジンの組み立ては手作業

かといって、人の手による作業もたくさんある。特にエンジンの組み立ては多くの部分を熟練した作業員が手作業で行う。今回はレヴエルトのV12エンジンのシリンダーブロックとシリンダーヘッドの組み付け作業をじっくりと見せてもらった。まずブロックの上にシリンダーヘッドを置き、20cmくらいの長いボルト10本にグリースを手作業で塗布し、手で所定の場所に差し込む。その後ハンドツール(マキタ製)で30‌Nmのトルクで締める。その後はロボットが一気に135〜160Nmのトルクで本締めを行う、という流れだ。最初の繊細な部分は手作業で行い、その後はロボットが担当することで、それぞれの利点が活かされるわけだ。

手作業といえば、インテリアのレザーワークもほぼ手作業。染色された革はまず傷などを確認し、裁断した後は縫製やパネルへの貼り付けを行う。このうち機械化されているのは裁断のみで、他はすべて手作業だ。さまざまな面で機械化、デジタル化は進められているが、それによってスタッフは複雑な手作業にさらに専念できるようになったのだという

2025年からはテメラリオの生産が本格的に始まり、2030年には初のBEVモデルがこのファクトリーから生み出される予定だ。それに伴って今後もさらなるデジタル化が進むと思われるが、デジタルはあくまで熟練スタッフの手仕事をサポートするという役割に徹するはずだ。ランボルギーニを組み立てるのはあくまでも人間。それはフェルッチオの時代から続き、そしてこれからも変わらぬ哲学なのである。

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/LAMBORGHINI S.p.A.、GENROQ
MAGAZINE/GENROQ 2025年2月号

ランボルギーニの躍進はアウディの傘下となったことがきっかけだが、そのスタートを任された偉大なモデルが、ガヤルドとムルシエラゴだ。この2台の成功が、今の同社の基礎となっている。どんなモデルだったのか、試乗を通して振り返ってみることにしよう。

ランボルギーニ社が所有する極上の「ムルシエラゴ」と「ガヤルド」が教えてくれた大事なこと

ランボルギーニの躍進はアウディの傘下となったことがきっかけだが、そのスタートを任された偉大なモデルが、ガヤルドとムルシエラゴだ。この2台の成功が、今の同社の基礎となっている。どんなモデルだったのか、試乗を通して振り返ってみることにしよう。(GENROQ 2025年2月号より転載・再構成)

キーワードで検索する

著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。古典的ジャイアンツファン。卵焼きが好き。愛車は993型ポルシェ911。カメラはキヤノン…