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Lamborghini Diablo SV
当時のランボルギーニ唯一の市販車
今でこそ飛ぶ鳥を落とす勢いのランボルギーニだが、1980〜90年代は“暗黒の時代”だったと言っていいだろう。象徴的モデルであるカウンタックも新鮮味がなくなり、より下のクラスのユーザーを獲得するために開発したV8ミッドシップは思うような結果を出せず、さらに世界的な石油ショックが追い討ちをかける。実質身売りに近い状態で親会社が短期間で移り変わるなど、まさに迷走状態。今思えば、とりあえず会社が継続できただけでも奇跡のような状態だったのではないか。
そんな中、1990年に登場したのがディアブロだ。あのカウンタックの後継に位置付けられるV型12気筒ミッドシップ、というよりも当時のランボルギーニでは唯一の市販車なのだから、その重要度の高さは容易に想像できる。あのガンディーニがデザインし、V12気筒エンジンを前後逆にミッドに縦置きするという、カウンタックで確立した手法を継承したのも当然の流れだったのだろう。
丁寧な作りがよくわかる細部の仕上げ

そのディアブロと、初冬の東京で久しぶりに対面した。1999年式という最後期の「ディアブロSV」で、Z32の固定式ヘッドライトを採用したモデルだ。イエローのボディはまるで新車のように輝いているが、それもそのはず、走行距離はなんと僅か250km(!)だ。現在この車両を所有するランボルギーニ福岡によると、元のオーナーは当時の正規インポーターであるミツワ自動車から購入し、空調完備の部屋でずっと保管していたそうだ。ただ基本メンテナンスはしっかり行ってきたとのことで、低走行車にありがちな不具合はまったくないという。
新車状態のディアブロを令和になってから見られるとは思わなかった。この時代のランボルギーニは作りが荒いのではないか、と勝手に想像していたが、塗装の仕上がりはもちろんのこと、各パネルの合わせや室内のレザーの仕上げなど、想像以上の緻密さだ。ただ、Z32用を流用したヘッドライトは明らかにノーズの傾斜と角度が合っていないし、ルーフのエアインテークも後付け感が強い。だが不思議と変な感じはない。年式が進むにつれてさまざまな手が加えられていくのはカウンタックも同様だったが、ややアンバランスに見えるようなモディファイさえも、妙に納得してしまうような勢いがこの時代のスーパーカーにはあるようだ。
5.7リッターのV型12気筒エンジンは想像していたよりも静か。最近の高性能車にありがちな、作られた演出的なサウンドではなく、12個のピストンが完璧な調律で稼働することで生まれる生物の鼓動のような響きがとても心地いい。今回は運転することは叶わなかったが、ギヤを上げて加速していく姿を見る限り、コンディションはとても良さそうだ。
現在のランボルギーニへの礎となったディアブロ



“暗黒の時代”の象徴であるためか、ディアブロはランボルギーニ自身が自社の歴史を語る時も、あまり重視されていないような気がする。しかし、カウンタックのデザインとエンジニアリングを昇華させ、さらにAWDなど時代に先駆けたテクノロジーを積極的に導入し、その後のランボルギーニの礎となった功績は非常に大きいのではないか。
確かに、アウディ傘下となったムルシエラゴ以降、ランボルギーニのプロダクトは完成度、信頼性共に大きく向上した。だが同時に、理屈よりも刹那的な快楽を求めるスーパーカーの危うさというようなものは失われてしまった気がする。アウディ傘下となった1999年を境に、ランボルギーニはスーパーカーからスーパースポーツカーになったのだ。古のランボルギーニ最後の証人であるディアブロ。我々が忘れてかけてしまっている真のスーパーカーの香りが、ここには確かにあった。

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
COOPERATION/ランボルギーニ福岡、RPM Tokyo
MAGAZINE/GENROQ 2025年2月号
【取材協力】
株式会社アール・ピー・エム ランボルギーニ福岡
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