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BMW M5
もはやスーパースポーツカー

歴史は繰り返す。史上初の市販「M」は、1978年に専用ボディを引っ提げて登場したミッドシップスポーツカーの「M1」だった。そして、その直6DOHCを実用セダンのボディにねじ込んで見せたのが、1985年デビューの初代「M5」である。以来、Mは3、6、4、2、さらにはSUVのX系などなど、BMWの量産モデルをベースに増殖を続けてきた。
そんな中、M1以来となるM専用モデルとして、2022年秋にベールを脱いだのが「XM」である。XMは現代的なクロスオーバーSUVボディに、お馴染みの4.4リッターV8ツインターボを核に据えつつも、モーターと充電可能なリチウムイオン電池を組み合わせていた。ご承知のとおり、XMはM史上初のプラグインハイブリッド車(PHV)だった。
そして、その直後に「M2クーペ」をはさみつつも、史上2代目のM専用モデル=XM由来のパワートレインを、量産車のボディに初めて搭載したのは、またしても「M5」だったわけだ。まさに歴史は繰り返すのだ。
前後に専用のブリスターフェンダーを擁する新型M5は、エクステリアの迫力からして凄まじい。と同時に、そのたたずまいはベースとなる現行G60型5シリーズ以上にバランスが取れてもいる。
というのも、G60には純エンジン車、マイルドハイブリッド車、PHV、そしてBEV(ピュア電気自動車)と、現在考えられるパワートレインすべてが用意される。というわけで、G60は最初から床下に大きな電池を抱えることを想定した設計で、このクラスのセダンとしてはちょっとワイド&ローならぬ、ナロー&ハイなプロポーションというほかない。そんなG60をベースにしたM5は、全高も5mmローダウンされたうえに、全幅は70mmも拡大。結果として、G60特有のナロー感や腰高感が見事に払拭されて、横にも縦にもマッシブなカタマリ感のあるプロポーションが醸成されている。
すべては走りのために


インテリアもG60のそれに、サイドサポート幅まで電動調整のバケット形状シートや、任意のセッティングを2パターン記憶できる2個のMボタンを備えたステアリングホイールなど、M専用ディテールの数々が与えられる。ただ、シフトセレクターが伝統的なフロア式レバーではなく、最新BMWのお約束でもあるツマミ式が、M5にもそのまま使われている点はちょっと捨て置けない。
例えば、M3やM4、X5M、X6Mと、ベースがマイチェンでツマミ式セレクターに変更されたクルマでも、頑なにシフトレバーを残すのがMだった。M史上初のPHVであるXMにしても、シフトだけは伝統的なレバー式にこだわっている。
しかし、今回の新型M5がツマミ式シフトに宗旨替えしたということは、今後のMは一気にシフトレバーを廃止していく可能性が高い。まあ、変速はシフトパドルが常識の今、コンソールにシフトレバーを残す機能的意味はほとんどない……のだが、いまだにMTこそスポーツカーの条件との思いが消しきれず、「フロアシフト」という言葉に甘酸っぱい響きを感じる昭和世代の中高年は、やはりちょっと寂しくもある。
V8ツインターボエンジンと8速ATの間にモーターを挟み込むパワートレインの基本構成は、前記のように、XMと基本的に同じだ。厳密にいうと、V8単体のチューン(最高出力585PS、最大トルク750Nm)、そして727PSと1000Nmを謳うシステム出力と同トルクは、XMの中でも、より強力な「レーベル」と共通である。リチウムイオン電池の総電力量は、XMより少なめの22.1kWhだが、電気のみでも最高140km/h、最大航続距離70kmを実現しているので「日常は基本的にBEV」という使い方も十分に可能だ。
305km/hという新型M5(Mパフォーマンスパッケージをオプション装着時)の最高速は、純エンジン車だった先代M5コンペティションと同じだ。しかし、3.5秒という0-100km/h加速は、2.4tという車重の影響もあってか、先代の0.2秒落ちとなる。
2.4tの車重をまったく感じさせない身のこなし


とはいえ、ダウン側シフトパドルの長引きでブーストモード(10秒間)を作動させると、まるで離陸するかのごとき暴力的な加速Gを見舞ってくれるのは、流石の電動パワーだ。また、1000rpm前後からのジワッとした加減速にもきっちり反応する柔軟性、コンフォートモードでの洗練された変速なども、ハイブリッドの恩恵と捉えていいだろう。
ただ、新型M5の動力性能が1000Nmという大台のシステムトルクから直感するより暴力的でないのは、その重さもあるが、クルマ自体のフィジカル性能や機動性と安定性が上回っているからでもある。
繰り返しになるが、G60は同じボディからエンジン車とBEVを平等に派生させるコンセプトである。しかし、床下に電池を積む前提の骨格設計のせいか、直4の純エンジン車では、ボディ剛性が過剰に感じられるなど、正直いって不自然な部分もなくはない。しかし、そうしたG60特有の骨格設計は、新しいM5にドンピシャといっていい。
新型M5は走り出した瞬間から、ボディ剛性感がすさまじい。単に硬質なだけでなく、まるで全身が高剛性バネのような有機的な肌ざわりなのがたまらない。また、サスペンションはいい意味で、望外にソフトな調律だ。柔らかいコンフォートモードでは、40〜35という低扁平タイヤ特有のザラつきすら、きれいさっぱり吸収して快適そのものである。
Mならではのセットアップ画面で、サスペンションをスポーツ、そしてスポーツプラスへと引き締めていくと、身のこなしはどんどん俊敏になっていくが、それでも、これまでのMとは別物のしなやかさはキープされる。聞けば、G60ならではの高いフロア剛性や床下電池前提の低重心(化しやすい)設計のおかげで、あえてアシを固める必要がないとか。実際、コイルのバネレートも、先代のM5よりソフトな設定だという。
そうしたアシまわりに最大1.5度の後輪操舵、設定によってどんどん後輪寄りになる4WD(FR化も可能!)、電子制御アクティブディファレンシャルなどによって、(下り坂のブレーキング以外は)ホイールベース3m超、全幅2m弱、全高1.5m強、車重2.4tの超ヘビー級の巨体とはとても思えない。下りのブレーキングにしても、少なくとも一般ワインディングでのマージンを残した走りなら不足はない。
新たなMの価値観の創出

いずれにしても、このまるでキツネにつままれたかのように重さや大きさを感じさせない基本フィジカル性能は、新型M5の怪物級スペックをねじ伏せようとねらっていた腕利きの好事家たちには肩透かしかもしれないが、45年を超えるM史の中でいえば、また新たな境地と思う。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年2月号
SPECIFICATIONS
BMW M5
ボディサイズ:全長5096 全幅1970 全高1510mm
ホイールベース:3005mm
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:430kW(585PS)/6000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-5400rpm
モーター最高出力:145kW(197PS)/6000rpm
モーター最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/40R20 後295/35R21
車両本体価格:1998万円
【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/