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Porsche 911 Carrera
完熟の域に達した水平対向ターボがもたらす走り

いつでも新しい「ポルシェ 911」に乗るのはワクワクするものだ。なぜなら、その60年を超える歴史において、911は常にその前の世代の911を乗り換え、着実に進化を遂げてきたからだ。
今回ドライブするのは、日本に上陸したばかりの992IIと呼ばれる後期型992型911。しかし992II最大のトピックである、3.6リッター水冷フラット6電動シングルターボ、電気モーターを組み合わせたT-ハイブリッドを備えた911カレラGTSではなく、3.0リッター水冷フラット6ツインターボを搭載したベーシックなICEモデルの911カレラである。
しかもプレスリリースを見る限り、3.0リッターフラット6は前期型911カレラGTS譲りのツインターボ、リヤグリッドグリル真下に備えたインタークーラーなどの改良が施されているものの、最高出力394PS、最大トルク450Nmと前期型に比べてわずか9PSのパワーアップを果たしているだけで、そのパフォーマンスも0-100km/h加速が4.1秒(スポーツクロノパッケージ仕様車は3.9秒)と0.1秒のアップ。最高時速も294km/hと1km/hアップしているに過ぎない。
911ファナティックが見ればわかる外観の進化


それ以外は内外装の変更がメインで、ウインカーなどの機能を統合したマトリックスLEDヘッドライトの採用で、フロント周りのデザインが変わりインテークの開口部が拡大したほか、テールランプ、リヤガーニッシュ、ナンバー位置などリヤ周りのデザインも新しくなっている。
そしてインテリアでは、キー式のスターターがプッシュボタンへと変わったほか、メーターパネルが最新の12.6インチ曲面ディスプレイとなり、センターに残されていたアナログタイプのレヴカウンターがついに姿を消したのが主な変更点だ。
最初の試乗の舞台は千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンス・センター東京(PEC東京)。
早速ハンドリング・トラックに繰り出してみて、まず感じたのがハンドリングの変化だった。端的にいうと「軽やか」に感じるのである。
992の特徴のひとつはワイドボディを採用することで、前後トレッドが拡大したことだった。おかげでリヤのスタビリティが大幅に向上したのだが、それに合わせるようにフロントも安定志向になったことで、991にわずかに残っていたRRらしいエッジ感というか、繊細さがなくなったというのが、個人的な印象だった。それはRRゆえのアンバランスさの克服を命題としてきた911にとって臨むべく進化ではあるのだが、一方でどこか寂しさを感じていたのも事実だ。
ところが、新しい911カレラはステアリングの入力に対するノーズの入りがとても素直で、まるで997の時代に戻ったかのような軽やかさ、シャープさがあるのだ。それでいてリヤのしっかりとしたグリップ感は変わらないので、S字コーナーの動きも実にコントローラブルで安定しているのである。そして走行モードを「スポーツ」「スポーツ・プラス」と変えていくとダンパーが締まりその印象はさらに強く、濃厚になり、クルマの動きがより小さく感じられるようになる。
モダンな雰囲気に進化した室内


ただ足まわりに関してはタイヤ銘柄がグッドイヤー・イーグルF1に変わった以外、変更に関するアナウンスはなく、車重も1520kg(DIN)と変わっていない。
よって確証的なことは言えないのだが、ドリフトサークルでESCをオフにしてみると、リヤの重さが顔を出し、アクセルペダルをポンと踏むだけで簡単にスピンモードに入ってしまうのに対し、オンにした場合はクルマの動きがナチュラルでバランスがよく、スライド・コントロールがとてもしやすかった。もちろんそうした電子制御のアシストが992IIの乗り味のスパイスになっているのは想像に難くない。
一方パワートレインに関しては、思いっきり踏み込んでみたところで9PSのパワーアップも、1km/hの最高速アップの差を体感することはできなかったが、レッドゾーンまで直線的に吹け上がっていく気持ちよさ、そして十分すぎるパワーとレスポンスの良さは存分に体験できた。
GTとしての本懐

去る6月にポルシェ・ターボ50周年イベントを取材した際「ポルシェ・ターボの歴史はターボラグ解消の歴史でもある」と言われたが、そういう意味でも新しい3.0リッターツインターボは、パワーの上乗せなどの必要はないほど完成の域に達している、ということかもしれない。
その後、別の個体で公道に繰り出してみたのだが、PEC東京での印象と変わることはなかった。むしろその美点はそのままに、911の本懐であるGTとしての乗り心地の良さ、しなやかさが残されているのを確認できた。
そう思うと、スペック的に大きな変化がなかったことよりも、むしろ992Iをよりブラッシュアップする形で911カレラが存続できた、という事実を素直に歓迎すべきだと思う。そしてこれがボトムとなるならば、カレラGTSもカレラTも、そしてGT3も良くなっているはず、という思いを強くした。
REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2025年2月号
SPECIFICATIONS
ポルシェ911カレラ
ボディサイズ:全長4542 全幅1852 全高1302mm
ホイールベース:2450mm
エンジン:水平対向6気筒DOHCターボ
総排気量:2981cc
最高出力:294kW(394PS)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/40ZR19 後295/35ZR20
車両本体価格:1694万円
【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/