2代目「メルセデスAMG GT 63 4マティック+」をワインディングで試す

武闘派は変わらない? 2代目「メルセデスAMG GT 63 4マティック+」をワインディングで試乗

ほぼ10年ぶりに2世代目にモデルチェンジした新型メルセデスAMG「GT」。
ほぼ10年ぶりに2世代目にモデルチェンジした新型メルセデスAMG「GT」。
メルセデスAMGの代表的スポーツクーペ「GT」の2代目が登場した。先代とは打って変わってオプションながらもリヤに+2シートを備え、駆動方式もAWDとして快適性が向上させた。冬の峠を走ってその素性を確かめた。

Mercedes-AMG GT 63 4Matic+ Coupe

レーシングカーさながらの攻撃的なルックスだが

メルセデスAMG GT 63 4マティック+
力強く大胆に張り出した前後フェンダーがパフォーマンスを物語る。

ほぼ10年ぶりに2世代目にモデルチェンジした新型メルセデスAMG「GT」を、すぐに新型と見極められる人はどれほどいるのだろうか。正直言えば、私も最初は分からなかった。長大なボンネットの先端に低く構えた縦バーの“パナメリカーナグリル”、後ろに寄った小さなキャビン、力強く大胆に張り出したフェンダーなど、相変わらず獰猛そのものである。

もちろん中身は一新されている。実のところ全長も従来型よりも200mm近く伸びている。同じく70mm延長された2700mmのホイールベースは、AMGブランドに移管されて2021年にデビューした新型SLと同一、そう新型AMG GTは新規開発のアルミスペースフレームをはじめとした基本コンポーネンツの多くをSLと共用しているのだ。その拡大分を生かして、新型GTでは+2のリヤシートをオプションで選択することができる(ただしSL同様身長150cm以下の制限が付く)。その場合はバックレストを倒すことでラゲージルームの容量を標準状態の321Lから675Lに拡大することができるという。GTレーシングカーさながらの攻撃的なルックスでありながら、実用的なラゲッジルームも備える4人乗りクーペというわけだ。

4気筒では物足りないという顧客の声

長いボンネットのバルクヘッド寄りに積まれるのは、AMGの象徴ともいえるM177型4.0リッターV8ツインターボである。今や「63」を名乗りながら2.0リッター4気筒ターボを搭載するモデルも存在するが(2.0リッター4気筒電動ターボを積むGT43クーペも昨年末に追加された)、AMGの「63」といえばやはりV8である。

いかにF1由来の電動ターボチャージャーと強力なモーターを組み合わせたとしても、AMGに4気筒では物足りないという世界中の顧客の声を無視するわけにはいかない。2基のツインスクロールターボをVバンクの内側に詰め込んだホットインサイドVレイアウトのAMG謹製V8は、430kW(585PS)/5500~6500rpmと800Nm/2500~5000rpmを生み出し、トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを備えた9段のスピードシフトMCTを介して4輪を駆動する。

パワースペックは既に従来型の最硬派モデル「AMG GT R」(最高出力585PS、最大トルク700Nm)と同等以上だが、ただし以前ほどレーシングカー的な構成ではない。同じエンジンファミリーながらこれまで搭載されていたM178型はドライサンプ式で、ギアボックスもリヤデフと一体化されたトランスアクスル方式を採用していたのだ。この辺りにもキャラクターの変化を見て取ることができる。

スパルタンではない洗練された乗り心地

新型GTは新たに可変トルク配分の「4マティック+」システムを搭載していることも特徴だ(GT43は後輪駆動)。0-100km/h加速は3.2秒(最高速は315km/h)という。大きく重くなった(4WD化などによって200kg以上増加)にもかかわらず、従来型GT Rの3.6秒と比べて格段に向上している。

そんなとんでもない突進力を持つはずなのに、コンフォートモードで流している限り、不思議なことに従来型のような荒々しさは感じない。硬質で緻密だが、融通無下に滑らかにパワーを吐き出すV8ツインターボの息吹の奥に秘めた獰猛さは伝わってくるものの、普段は従順で洗練されている。滑らかだが、明確で切れのいいこのV8のビートを知れば、4気筒では物足りなくなるのも道理というものだ。

さらに21インチ(鍛造アルミホイールとともに標準装備)の巨大なタイヤを履きながらも、乗り心地は決して、少なくともドライブモードを「スポーツ+」や「レース」に切り替えない限りはスパルタンなものではない。4輪のダンパーを連関させた油圧アクティブスタビライザーを備えるAMGアクティブライドコントロールサスペンションやリヤステアリング、電子制御LSDなどを総動員した新型シャシーの面目躍如である。

軟弱になったわけではない

4WD化などによって200kg以上増えたにもかかわらず、加速性能は格段に向上している。
4WD化などによって200kg以上増えたにもかかわらず、加速性能は格段に向上している。

ハンドリングも盤石。どうやったら不安定になるのか、と思うほどビシッと路面に張り付いたままである。アクティブエアロダイナミクスが伊達ではないことが実感できる。以前は長いノーズが狙った通りにインを向くのを確かめてコーナリングする感じだったが、新型は気づかないうちにボディ全体がまるごとスルッとターンインして正確なラインに乗っている印象だ。無駄なホイールスピンなど一切見せず、あえて乱暴にスロットルペダルを踏んでみても、公道レベルでは何事も起こらない。正直限界がどの辺にあるのかさえ分からない。

いかにも武闘派でGTレーシングカー直系という従来型の雰囲気は薄れたものの、無論軟弱になったわけではないし、よりサーキット志向の硬派モデルも今後追加されるはずである(612PSと850Nmに増強された「プロ」も既に発表されている)。底が知れない不気味ささえ感じさせるのが新型GTである。

REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/平野陽(Akio HIRANO)

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG GT63 4マティック+クーペ

ボディサイズ:全長4730 全幅1985 全高1355mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1940kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585PS)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前295/30R21 後305/30R21
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.2秒
車両本体価格:2750万円

「メルセデス AMG GT クーペ」のラインナップに、専用のナローボディと、AMG製2.0リッター直列4気筒電動エキゾーストガス・ターボチャージャーを搭載した「メルセデス AMG GT 43 クーペ」が追加された。

ナローボディに2.0リッター直4電動ターボを組み合わせた「メルセデス AMG GT 43 クーペ」が登場

メルセデス AMGは、AMG GT クーペのラインナップに、最高出力426PSを発揮する2.0リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載し、全幅1930mmのナローボディを採用した「メルセデス AMG GT 43 クーペ」を追加。全国のメルセデス・ベンツ正規販売店ネットワークを通じて、販売を開始した。

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著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させてい…