今年あの“休眠”イタリアンブランド復活で市場が活性化?

イタリア自動車市場が盛り上がるかも? “休眠中”の「アウトビアンキ」「インノチェンティ」復活か?

左は1961年「アウトビアンキ・ビアンキーナ」。右は1958年「フィアット・ヌオーヴァ500」の北米仕様。基本的な機構部分は両車共通である。2024年10月、ボローニャ「アウトモト・デポカ」ショーで。
左は1961年「アウトビアンキ・ビアンキーナ」。右は1958年「フィアット・ヌオーヴァ500」の北米仕様。基本的な機構部分は両車共通である。2024年10月、ボローニャ「アウトモト・デポカ」ショーで。
昨年末、ホンダと日産の提携話が持ち上がったが、そんな合従連衡を繰り返してきたのが自動車業界である。そんな混沌の中で消滅した世界の自動車ブランドは数多あるが、イタリアで奇跡の復活を遂げるブランドがあるかも? イタリア在住ジャーナリストがコラムを寄せた。

イタリア進出特典!

アウトビアンキ「A112」。シエナ郊外で2022年撮影。
アウトビアンキ「A112」。シエナ郊外で2022年撮影。

2024年夏、ヨーロッパではステランティスの業績不振が表面化。そのためカルロス・タバレスCEO(当時)は、グループ内14ブランドのうちひとつ以上の整理を検討すると示唆した。その後の経緯は12月初めにタバレス氏自身が電撃辞任したため不透明だが、少なくとも12月17日に発表された2030年以降のイタリア国内生産計画に、フィアット、アルファロメオ、ジープ、ランチアそしてDSの文字は確認できる。

いっぽうで懐かしいブランド復活の可能性が浮上してきた。報じたのは2024年7月、経済紙「イル・ソーレ24オーレ」紙である。同紙によると、イタリア「企業およびメイドイン・イタリー省」のアドルフォ・ウルソ大臣は、5年以上休眠状態の商標を、特許商標庁経由で没収できる政令を準備中という。

政令を適用する第1弾は事実上決まっている。旧フィアットからステランティスが商標を引き継いで保有している「アウトビアンキ」と「インノチェンティ」だ。それらを、イタリアに工場建設を予定している外国メーカーに付与する。わかりやすくいえば、進出&雇用創出の特典として、ブランドを使用する権利を差し上げます、というわけである。商標の使用許諾期間は10年で、使用しない場合は権利を剥奪する。

1995年をもって消滅したアウトビアンキ

今回話題となった2ブランドについて、歴史を振り返ってみよう。アウトビアンキは1955年にイタリアの歴史的自動車メーカーである「ビアンキ」に旧フィアットと「ピレリ」が出資するかたちで設立(後年完全フィアット傘下となる)。乗用車第1号はフィアット「ヌオーヴァ500」を基にした、1957年「ビアンキーナ」だった。

空前の経済成長と、それにともなうモータリゼーションを背景に、「平日の(フィアット)500、休日のビアンキーナ」といったイメージ戦略が奏功した。続いて1969年「A112」は、アバルト仕様が知名度向上に貢献した。さらに1980年「Y10」が確立した“小さな高級車”というキャラクターは、とくに1995年の「ランチアY」やその後継車である同「イプシロン」に受け継がれた。とくに女性ユーザーの獲得に成功した。

ただし、ブランドとしてのアウトビアンキは、Yの生産終了年である1995年をもって消滅。以後ディーラーは、併売していたランチアに集中することになった。

中国メーカーにはウィン・ウィン?

いっぽうのインノチェンティは、第二次世界大戦前に設立された鋼管メーカーを起源とする。戦後1947年、まずはスクーター「ランブレッタ」で自動車業界に参入。続いて1960年からは英国BMC車のライセンス生産を開始した。1974年にはオリジナル「ミニ」の機構にベルトーネ・デザインの車体を組み合わせた新インノチェンティ・ミニを発表した。ただし、経営状況の悪化からインノチェンティのブランドは1976年、デ・トマゾとGEPI(産業管理および参加公社)の手に渡った。

そのデ・トマゾも経営不振に陥り、1990年にはフィアットのものとなった。以来1990年代前半を通じて、商標はイタリアで販売されるブラジル製フィアットなどに用いられたが、1997年を最後に市場から消えた。

目下イタリア政府は、複数の中国系メーカーに国内工場誘致の可能性を打診中といわれる。

ステランティスやサプライヤーが削減した雇用を補うのが最大の目的だ。中国企業としてはEUによるEV関税を回避でき、欧州進出の足がかりにもなる。すでにイタリアでは、2006年に設立された「DRオートモビルズ」社が中国・奇瑞製乗用車のノックダウン生産を行っている。2024年1〜11月のイタリア国内登録台数は1万7232台と好調だ。そうした新ブランドが受容される昨今の状況からして、仮にアウトビアンキとインノチェンティが復活すれば、イタリア国内市場をそれなりに活性化する可能性があろう。

Text & Photo/大矢アキオ ロレンツォ Akio Lorenzo OYA 在イタリア・ジャーナリスト

2024年12月、筆者が登録したイタリアのデジタル運転免許証。

まさかのイタリアで爆誕したデジタル免許証を検証する【2024年に取得した意外な品】

2024年が終わり2025年を迎えた。自動車業界も振り返れば激動の1年だったが、我々の生活は日々粛々と進んでいる。そんな中で自動車メディアに住むものが2024年に買ってよかったものを振り返るコラム。モータージャーナリスト大矢アキオは何を買ったのか?

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著者プロフィール

大矢アキオ ロレンツォ (Akio Lorenzo OYA) 近影

大矢アキオ ロレンツォ (Akio Lorenzo OYA)

在イタリア・ジャーナリスト。国立音大ヴァイオリン専攻卒業。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)大学院 …