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Aston Martin Vantage
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Mercedes-AMG GT 63 4Matic+ Coupe
高性能武闘派スポーツカー2台



新型「アストンマーティン ヴァンテージ」と新型「メルセデスAMG GT 63 4マティック+クーペ」を並べてみれば、なるほどどちらも2シーターのスポーツクーペ(GTは+2仕様も選べるが)、ホイールベースもほぼ同一、しかも今や根っ子は同じV8ツインターボを積んでいる。世界中のGTレースでもアストンとAMGは互いに好敵手として大暴れしていることはご存知の通り。2台ともモータースポーツとのダイレクトな血縁をアピールする高性能武闘派スポーツカーである。だが、私のようなオジサンには両ブランドを比べること自体、ピンと来ないのが正直な気持ちなのである。
それはそもそものブランドの成り立ちというか背景に大きく関係する。念のためざっと振り返るとアストン・マーティンとAMGではまず歴史が違う。1913年創立のアストンは110年を超える長い歴史を持ち、無数の傑作モデルを送り出してきた名門だが、かつては何度となく破綻寸前に追い込まれた波瀾万丈のブランドである。いっぽうのAMGはレース用エンジンを開発する会社として1967年創設、1980年代後半にはモータースポーツ分野でメルセデス・ベンツと提携を結び、2005年には完全子会社化され、現在では高性能モデル専門のサブブランドという位置づけだ。
そして規模が違う。ごく少量生産のスポーツカーメーカーだったアストンは、最初の90年間で生産した総台数は1万3000台ほどと言われている。もう40年近く前のことだが、ニューポート・パグネルの旧本社工場でアルミパネルを木型に合わせて叩き、吸排気バルブを1本ずつ天秤に載せてバランス取りする光景を実際に見て、感激すると同時に呆れたことを思い出す。フォード傘下に入る直前の時代である。
AMGに遠慮しないアストン?





その後2005年に新時代のV8ヴァンテージを発売して生産台数は飛躍的に増大、今ではDBXという高性能SUVさえラインナップするものの、それでも年間生産台数は6000~7000台程度である。対してメルセデス・ベンツのサブブランドたるAMGはコンパクトハッチから大型SUVまで幅広い車種を揃え、もはや年間13万台規模と文字通り桁違いである。顧客層が異なって当然と言えるのではないだろうか。
2台とも間違えようがないファミリーフェイスを持ち、いかにも獰猛な出で立ちだが、より猛々しいのはヴァンテージのほうだ。剥き出しの野性味を感じさせるスタイルだけで選択は決まりそうなものだが、気にかかるのは2013年から両社がエンジンとエレクトロニクスの供給について提携関係を結び、その後のアストンV8がAMG製V8をベースとしている点だろう。しかしながら乗ればその違いは歴然、似ているようだが光と電波ほど違う。味付け、作り分けといったレベルではなく、積み重ねられてきたそれぞれの名門のポリシーが揺るぎない柱となっているのである。
例によってヴァンテージのフロントバルクヘッドにめり込むように搭載された、メルセデスAMG由来のV8ツインターボは、今回大径タービンの採用やカムプロファイルの変更などによって、489kW(665PS)/6000rpmと800Nm/2000~5000rpmに出力・トルクともに大幅に引き上げられている(従来型は510PS/6000rpmと685Nm/2000~5000rpmだった)。AMGに遠慮はいらないのかと心配になるほどだ。カーボン・プロペラシャフトとトランスアクスル式の8速ATを介して後輪を駆動するパワートレインは変わりなし(2705mmのホイールベースも不変)。今時、これほどのパワースペックなら4WDを選択するのが常道だが、後2輪駆動にこだわるのがアストンである。ちなみに0-100km/h加速は3.5秒、最高速325km/hと発表されている(従来型は3.6秒/314km/h)。
洗練されたエンジンと盤石のハンドリングを持つGT





いっぽうのAMG GTの本家V8は430kW(585PS)/5500~6500rpmと800Nm/2500~5000rpmを生み出し、トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを備えた9速のスピードシフトMCTを介して4輪を駆動する。新型GTは新たに可変トルク配分の「4マティック+」システムを採用しており、0-100km/h加速は3.2秒という。従来型の最硬派モデル「AMG GT R」でも3.6秒だったからその違いは明らかだ。
大径ターボで各段にパワーアップしたヴァンテージのV8ツインターボながら、さすが最新ユニットだけあってまるで“ドッカンターボ”ではない。普通に走ればきわめて柔軟に滑らかに、そしてパワフルに応えてくれるし、その上、従来に比べてトップエンドの切れ味は明らかに増している。
AMG GTのV8ツインターボはより緻密で整然と回る。モードをスポーツ+やレースに切り替えれば、レスポンスは格段に鋭くなり排気音も獰猛に変化するが、それでもパワーの湧き出し方は洗練されている。さらに21インチ(鍛造アルミホイールとともに標準装備)の巨大なタイヤを履きながらも、乗り心地は決してスパルタンなものではない。油圧アクティブスタビライザーを備えるAMGアクティブライドコントロールサスペンションやリアステアリング、電子制御LSDなどを総動員した新型シャシーの賜物と言える。どう振り回したら不安定になるのか、と思うほどハンドリングも盤石だ(ちなみにGTには612PSと850Nmに増強されたさらなる高性能版「プロ」も発表されている)。
周到に計算された緊張

ヴァンテージも一般道ではまったく猛々しさを感じさせない。ノーマルに当たるスポーツモードでもはっきりと締め上げられていることはもちろんだが、乗り心地は以前よりも洗練され決して野蛮ではない。従来型では路面が荒れた山道に挑むと、跳ねて接地性が失われることもあったが、新型はより頑健で寛容になったようで大入力も平気な顔で受け止める。とはいえ、これだけのパワーを開放すれば2本のタイヤは簡単にグリップを失う。
新型ヴァンテージはトラクションコントロールの介入レベルを9段階に調節可能なATC(アジャスタブル・トラクションコントロール)を装備することも特徴だが、そのダイヤルには一切触れずとも、しかも普通にスタートしても、スロットルペダルを深く踏み込めばトルクが一気に迸る3000rpmぐらいで後輪は空転を始める。
電制デフをはじめとするシステムのおかげでホイールスピンは過度ではないし、右足と後輪が直接結ばれているようなレスポンスも文句なし。したがって姿勢をコントロールするのにそれほど心配は要らないが、常に緊張を強いられるのも事実である。この「悍馬を御する」感とヒリヒリ感のバランスがヴァンテージの真骨頂であり、AMG GTとの一番の違いだろう。エレガントで上等な上着の下には剥き出しの筋肉が存在し、日常生活の中でも時おりそれが覗く。もちろんそれは周到に計算されているはずである。
REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/平野陽(Akio HIRANO)
SPECIFICATIONS
アストンマーティン・ヴァンテージ
ボディサイズ:全長4495 全幅1980 全高1275mm
ホイールベース:2705mm
車両重量:1745kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4.0リッター
最高出力:449kW(665PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前275/35ZR21(9.5J) 後325/30ZR21(11.5J)
0-100km/h加速:3.5秒
最高速度:325km/h
車両本体価格:2690万円
メルセデスAMG GT63 4マティック+クーペ
ボディサイズ:全長4730 全幅1985 全高1355mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1940kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585PS)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前295/30R21 後305/30R21
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.2秒
車両本体価格:2750万円