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Aston Martin Valkyrie AMR-LMH
グリーンとブルーにペイントされたヴァルキリー

アストンマーティンは、ハイパーカー規定に則って開発されたプロトタイプレーシングカー「ヴァルキリー AMR-LMH」を発表。2025年シーズンに向けて、プロジェクトの正式ローンチを宣言した。アストンマーティンは、トヨタ、ポルシェ、フェラーリ、BMW、プジョーといったメーカーが鎬を削るル・マン24時間レースにおいて、公道から生まれたレーシングカーで総合優勝を目指すことになる。
ヴァルキリー AMR-LMHは、FIA世界耐久選手権(WEC)と米国を主戦場とするIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権(IMSA)の両選手権にエントリー。まず、2025年のWEC開幕戦となる2月28日の「カタール1812km」に、ワークスチームのアストンマーティン・ハート・オブ・レーシング・チームが2台をエントリーし、世界選手権デビューを飾る。
IMSAにはアストンマーティン・ハート・オブ・レーシング・チームから1台体制で参戦。こちらはWEC仕様のグリーンではなく、ハート・オブ・レーシングを象徴するブルーのカラーリングで、3月12日から15日にかけて開催される第2戦「セブリング12時間レース」からプログラムをスタートする。
アストンマーティン・ラゴンダのエイドリアン・ホールマークCEOは、WECとIMSAのプログラムの正式ローンチを受けて次のようにコメントした。
「これはアストンマーティンにとって誇るべき瞬間です。ル・マン24時間レースに復帰し、総合優勝を目指して戦うことは、私たちのコアとなる価値観を象徴し、モータースポーツの歴史における重要なマイルストーンとなるでしょう。公道から生まれた唯一のハイパーカーとして、スポーツカーレースの最高峰に挑戦するヴァルキリーは、私たちのスポーツ精神を体現しています」
2024年7月に行われた最初のテストに続いて、ハート・オブ・レーシングはヴァルキリー AMR-LMHでの幅広いテストプログラムを実施し、1万5000kmを超えるマイレージを積み重ねてきた。最初のテストは英国のドニントンパークとシルバーストーンで行われ、その後イタリアのヴァレルンガとスペインのヘレスに移動。さらにバーレーン、カタール、ロード・アトランタ、セブリング、デイトナとテストを続け、WECやIMSAで使用される様々なコースを経験している。
WEC007号車はすべて英国人のラインナップ

WECには、アストンマーティン・ハート・オブ・レーシング・チームが、2台のヴァルキリー AMR-LMHをエントリー。007号車はトム・ギャンブル、ハリー・ティンクネルという英国人コンビ。009号車は、FIA GT世界選手権3冠を誇るマルコ・ソーレンセンとWEC LMGT3クラスで優勝経験を持つアレックス・リベラスがステアリングを握る。
IMSAでは、2024年のIMSA GTD Proクラスに参戦したロス・ガンと、2022年のGTDクラス優勝者のロマン・デ・アンジェリスが23号車をドライブする。ガンとデ・アンジェリスの2人は、ル・マン24時間レースにおいて、WECチームにも参加。007号車をガン、009号車をデ・アンジェリスが担当し、007号車はオール英国人体制で総合優勝を狙う。
WECとIMSAの両シリーズの実戦部隊を担当するのが、米国を拠点とするハート・オブ・レーシング。彼らは、アストンマーティン ヴァンテージ GT3で両シリーズに参戦した経験を持つ。ハート・オブ・レーシングのチーム代表を務めるイアン・ジェームズは、次のように意気込みを語った。
「スポーツカーレースに携わってきた者にとって、アストンマーティンは“最高”を象徴し、世界で最も美しいブランドとして認知されています。今回、選手権唯一のロードカーの血統を持つレーシングカーを走らせることは、本当に名誉なことです。このプログラムを任されることは、私のキャリアの中で最高の経験となるでしょう」
公道仕様のヴァルキリーをベースに開発

アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズとハート・オブ・レーシングが共同開発したヴァルキリー AMR-LMHは、レース用に最適化されたカーボンファイバー製シャシーを採用。パワーユニットは標準仕様で最高回転数1万1000rpm・最高出力1000PSを超える、コスワース製6.5リッターV型12気筒自然吸気エンジンをベースに開発された。
高負荷で長距離を戦えるよう、パワーユニットはハイパーカーのパフォーマンス規定に合わせて強化・調整を実施。 信頼性と耐久性のに関しては、ハイパーカー規定のパワーリミットが500kW(679PS)であり、ヴァルキリーが搭載するV12エンジンは十分な余裕を持っていため、レース用エンジンとして燃費が開発時の重要ポイントとなったという。
アストンマーティンの耐久モータースポーツ責任者を務めるアダム・カーターは、パワーユニットの開発について次のように説明を加えた
「WEC用のパワーユニットは高燃費で、少ない搭載燃料で必要なエネルギー量を得ることが何よりも重要です。ハイパーカー規定では、それほどパワーを必要としないため、エンジンは本来の性能よりも低い負荷で使用されます。レギュレーションが定めるパワーリミットが低いことで、私たちにチャンスが生まれました。トルクカーブを調整し、エンジン回転数を落として摩擦損失を低減、燃費を向上させることが可能になったのです」
エアロダイナミクスは、アストンマーティンのチーフクリエイティブ・オフィサーのマレク・ライヒマンと、伝説的なレーシングデザイナーのエイドリアン・ニューウェイが担当。ニューウェイは、2025年3月からアストンマーティンF1チームのマネージング・テクニカル・パートナーに就任する。
ギヤボックスは、Xトラック製7速シーケンシャルトランスミッションを搭載。サスペンションは、ダブルウイッシュボーン、プッシュロッド式スプリング、調整可能なサイドダンパーとセントラルダンパーで構成される。タイヤはハイパーカー規定で義務付けられているミシュラン製18インチレーシングタイヤを装着する。
「開発とは関係なく、絶対的な性能はレギュレーションによって制限されます。最低重量、ドライブシャフトのトルク制御による出力制限、空力性能にも厳格な範囲が課されているのです。レースに参加する全車両のモデルが実物大の風洞で計測されます。つまり、性能に係わる基本的な要因の範囲内でヴァルキリーの特性を最適化しなければなりませんでした」と、カーターは説明を加えた。