メルセデス・ベンツの電気自動車版GLB「EQB」の実力をドイツでテスト

メルセデス・ベンツ GLBのEV版「EQB」はちょうどいい? 最新電動SUVを渡辺慎太郎が海外試乗

メルセデス・ベンツ EQB 300 4マティックの正面ビュー
メルセデス・ベンツの人気SUV、GLBの電気自動車版といえるEQB。その最新EVに自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎がドイツで試乗した。
2020年に登場したGLBは、コンパクトで扱いやすいサイズ、SUVならではの使い勝手、3列シートを設定した寛容度の高さ、そして正統派のドライバビリティを備えたオールラウンダーとして一気にメルセデス・ベンツの売れ筋モデルに昇格した。そのGLBの電気自動車版といえるのがEQB。最注目車種ともいえるGLBの心臓を、内燃機からエンジンに交換するとどう変化するのか、しないのか。その第一印象を確かめるべく、自動車ジャーナリスト・渡辺慎太郎がドイツで試乗した。

EVを“ほぼ”フルラインナップしたメルセデス

メルセデス・ベンツ EQB 350 4マティックのフロントビュー
メルセデス・ベンツ GLBは、日本のような狭い土地でも扱いやすいサイズのボディに3列シート7人乗りのレイアウトを詰め込んだ良識派SUV。その内燃機をEVパワートレインに置き換えたのがEQBだ。

電気自動車(BEV)の記事はおおむね人気がないそうだ。「今度○○のBEVに乗るんだけど」と自動車媒体に営業をかけても「ああそうですかー」とつれない素振りで、「今度新型Cクラスに乗るんだけど」と投げたときの「え?そうですか! ぜひぜひ」とは反応がずいぶん違う。

まあ無理もないとも思う。自動車の記事を積極的に読み漁るような人たちにとって、「エンジン」が載っていないBEVはまだ「自動車」としては認められていないところがあって、「ふん、EVか」と読み飛ばされてしまう確率が非常に高い。

書いているほうとしては内燃機でもモーターでも分け隔てなく取り組んでいるので、BEVというだけでお目に留まらないのは忸怩たる思いでもある。それでも確実に着実に、今後内燃機はどんどんと数を減らし、BEVがそれに取って代わって増えてくる。残念ではあるけれど、私たちはこの事実からもう逃げようがないし、自動車メーカーはそっちに向けて加速を始めている。

メルセデス・ベンツがEQAに続くコンパクトSUVのBEV、EQBを発表した。ありていに言えば、EQBはGLBのエンジンとトランスミッションを取っ払い、代わりにモーターと電池を放り込んだモデルである。でもEQBの追加により、メルセデスはあるステージに到達した。BEVの(ほぼ)フルラインナップの完成である。

それはつまりAからVの、EQA/EQB/EQC/EQE/EQS/EQVという3種のSUVと2種のセダンとミニバンの完全電気自動車化である。AからCとVは内燃機を積むモデルからのコンバートだが、EとSは新設したBEV専用のプラットフォームを使い、これには今後いくつかのボディが載ることになっている。つまり彼らは極めて戦略的にBEVの拡充を図っているのである。

個人的にちょっと心配しているのは車名である。例えば今後、BEVのAやCのセダンやGLEやGLSやそれ相当のモデルが追加された場合、果たしてなんと呼ぶのだろう。そもそもはインジェクションを示していた「E」が「Eクラス」となったりMクラスはMLがGLEになったりSLKはSLCになったりと、メルセデスはこと車名に関してはちっとも戦略的でない歴史があるだけに、これから増えるであろう家族の命名に注目している。

EQBのパッケージングに見る先見性

メルセデス・ベンツ EQB 350 4マティックのサードシート
メルセデス・ベンツ EQBは、大きなバッテリーや電動パワートレインコンポーネンツを搭載してもなおGLB同様のキャビンレイアウトを採用。プラットフォーム自体に「先見の明」が あったといえる。

ご覧の通り、EQBはGLBのボディをほぼ流用しており、黒い鏡面仕上げの樹脂パネルで覆われたフロントグリルと横長LEDのテールランプで差別化が図られている。さらに空力向上の細かい形状変更が行われており、結果としてこの格好で0.28のCd値を達成している。ただ見た目にはGLBと大きく変わらずボディスペックもほとんど変わらない。BEVになって駆動用バッテリーを積まなくてはならず、さすがに3列シートの7人乗りは無理だろうと思っていたらそこまでちゃんとGLB譲りであった。

メルセデスが使うMFAと呼ばれるプラットフォームはエンジンを横置きにした前輪駆動がベースで、AとBがそれを共有している。BEVになっても室内パッケージに大きな影響が出ていないということは、MRAの設計段階でBEV化を念頭に置いていたことになる。こういうところも戦略的であり先見性がある。フロア下にバッテリーを搭載しているので2列目以降のフロア高はGLBよりもやや上がっているものの、エンジニア曰くキャビン全体の容量はほぼ同じだそうである。GLB同様、3列目シートは身長165cm以下が推奨されている。

当初のラインナップは4WD仕様のみ

メルセデス・ベンツ EQB 300 4マティックのサイドビュー
メルセデス・ベンツ EQB 300 4マティックのサイドビュー。まずは4WD仕様から導入をスタート、追って続距離がより長い前輪駆動モデルもラインナップするという。

現時点でラインナップするのはEQB 300とEQB 350の2タイプで、いずれも4MATICのみの設定となっている。パワースペックは228ps/390Nmと292ps/520Nm、航続距離はどちらも419km(WLTP)と公表されている。リチウムイオンバッテリー容量は66.5kWhで、急速充電器を使えば10%から80%まで32分で充電できるという。

メルセデスではモーターとリダクションギヤ、ディファレンシャルなどをひとつのハウジングに収め、それをeATSと呼んでいる。4MATICのEQBはこれを前後に置いているわけだが、eATSは駆動部品をコンパクトにまとめるだけでなく、衝突安全性も考慮した設計となっている。バッテリーも専用のフーレム内に配置して、それ自体がボディ構造部材の一部としての役割も果たしている。こうしたコンセプトはメルセデス-EQに共通するものでもある。ちなみに今後、EQBには前輪駆動や航続距離の長いタイプも追加されるとのことだった。

EVにつきまとう“エアコン問題”の解決法

メルセデス・ベンツ EQB 350 4マティックのフェイシア
メルセデス・ベンツ EQB 350 4マティックのフェイシア。キャビンに広がる景色は内燃機関を積むメルセデスとほぼ変わらない。パワートレインを問わず、「乗ったらやっぱりメルセデス」を実現する流儀を踏襲している。

室内に広がる景色は見慣れた最近のメルセデスのそれである。エアコンの吹き出し口を銅色に塗っているのは、モーターの導線を意味している。電気やエコといえばブルーやグリーンやイエローが一般的なので、あえてそれらとは異なる配色としたのだろうけれど、個人的にはなんかちょっと微妙である。

吹き出し口よりも注目すべきは暖房にヒートポンプを使用している点。EQAやEQC、そしてニッサン リーフも採用しているが、エンジンを持たないEVではエンジンの廃熱を暖房に利用することができず、電気ヒーターを用いるしかなかった。これだと電気をかなり消費してしまう。ヒートポンプは外気をコンデンサで吸熱し高温に圧縮、これを冷媒を使って最適な温度にしてから室内へ送り込んでいる。なので、バッテリー残量が少なくなってきたからといって暖房を止めて凍える心配も少ない。

EVになれどGLBの美点は健在

メルセデス・ベンツ EQB 350 4マティックのサイドビュー
メルセデス・ベンツ GLBの持つ「素性の良さ」は、EVになっても健在。重量が増した分、乗り心地はより向上しているように感じられた。

そもそもGLBはメルセデスのSUVの中で日本で乗るならもっとも優秀だと思っている。他のはサイズが中途半端だったり大きすぎたりパワーがあり過ぎたりと、帯に短し襷に長しだった。GLBは日本で使ってもどうにか取り回せるサイズだし、いざという時のための3列目シートもあるし、何より乗り心地がよくハンドリングも悪くない。MFAのプラットフォームを使いながらもGLAよりホイールベースをわざわざ長くしたことが功を奏していると考えられる。

だからEQBがそれより悪くなるはずがない。重量は重くなってはいるものの、重厚感のような上質な乗り味を生み出しているし、最大トルクがすぐに立ち上がるモーターのおかげで重量増は相殺されてしまい、鈍重な印象はまったくなくキビキビとよく走る。今回は300と350の両車に試乗したが、300でも十分、350ではちょっと余りあるパワーであった。なおどちらも最高速度は160km/hに制限されているので、そこまでの加速なら両車で大差はない。

GLBより「よく曲がる」のはなぜ?

メルセデス・ベンツ EQB 350 4マティックの充電中イメージ
メルセデス・ベンツ EQB は最大100kWの急速充電に対応。その場合、約15分で150km分をチャージすることができる。

動力性能よりもずっと気になっていたのは、GLBよりもよく曲がるかもしれないということ。サスペンション形式はGLBと同じで電子制御式ダンパーが装着されており、もちろん後輪操舵やEデフなどクルマを曲げるための電子デバイスは付いていない。このモヤモヤした感じをエンジニアにぶつけてみたところ、それが4MATICのおかげでもあることが判明した。

メルセデスのFRベースの4MATICは基本的に前後の駆動力配分が固定(AMGの4MATIC+は可変)だが、EQBの場合はデフォルトの駆動力配分が存在せず、常に可変している。その速度は1秒間に約100回というから、もはや前後駆動力配分という概念がないようにも思える。最大の目的はもちろんバッテリーの無駄な消費を抑えることだが、駆動力を「曲げる」サポートにも使っている。駆動力を利用して荷重移動をスムーズかつ最適にするやり方はマツダなども実践しているが、メルセデスもこれに本格的に取り組んだというわけだ。

作り手の準備は万端整った。あとは・・・

メルセデス・ベンツ EQB 300 4マティックのリヤビュー
主要モデルの電動化を一気に押し進めたメルセデス・ベンツ。ピュアEVの完成度もかなり高く、残る問題はインフラ次第といえる。ちなみにEQBの日本導入時期は2022年下半期頃、仕様は未定。

何より電気を使うモーターなので、内燃機の湿式多板クラッチの可変システムよりも作動がずっと速いから、そのメリットを最大限活かしたシステムなのである。実際、重心や車高の高さは強く感じられないし(これは床下に積んだバッテリーのおかげもある)、2800mmを優に超えるホイールベースの長さも気にならない。もちろんスポーティではないものの、操舵応答遅れがまったくなく、ドライバーの入力に対してスッと動くレスポンスのよさが気持ちよかった。

目的地を入力してディストロニック(ACC)を使ったときの制御もお見事だった。バッテリー残量を優先しながらの走行なのだけれど、60km/hで走っていたら回生ブレーキを利用して緩やかに減速をしはじめて「?」と思ったらしばらくして30km/hの速度制限標識が現れた。地形や交通事情などを加味した統合制御を行っていたのである。

以前にも書いたが、来るべき未来に向けて、自動車のテクノロジーの準備はほとんど整っている。あとは肝心の電気をどうやって作るのか。バトンはいま、自動車メーカーから行政へ渡っているのである。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ EQB 350 4マティック(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4684 全幅1834 全高1701mm
ホイールベース:2829mm
車両重量:2175kg
バッテリー容量:66.5kWh
最高出力:215kW
最大トルク:520Nm
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
駆動方式:4WD
0-100km/h加速:6.2秒
最高速度:160km/h
航続距離(WLTP):419km

メルセデス・ベンツ EQB 300 4マティック(欧州仕様)
ボディサイズ:全長4684 全幅1834 全高1701mm
ホイールベース:2829mm
車両重量:2175kg
バッテリー容量:66.5kWh
最高出力:168kW
最大トルク:390Nm
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
駆動方式:4WD
0-100km/h加速:8秒
最高速度:160km/h
航続距離(WLTP):419km

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渡辺慎太郎 近影

渡辺慎太郎

1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、1989年に『ルボラン』の編集者として自動車メディアの世界へ。199…