【自動車ブランドエンブレム秘話05:ALPINA】「M」とは違うBMWの味付け

ALPINAの“赤と青”がBMWに注ぐ魂とは?【自動車ブランドエンブレム秘話05:ALPINA】

最後のアルピナ製モデルとなる「BMW アルピナ B8 GT」のエクステリア。
最後のアルピナ製モデルとなる「BMW アルピナ B8 GT」のエクステリア。
BMWの高性能仕様と言えば「M」モデルが知られているが、スポーティなクルマづくりが身上のBMWにはプライベーターを含め多くのチューナーが存在する。今回は、今年で60年にわたる独自の活動を終了し、BMWグループのブランドとして新しい船出を迎える「ALPINA」(アルピナ)を紹介する。左が赤、右が紺色に塗られた盾が特徴のエンブレム。そこに描かれたツインキャブとクランクシャフトに込められたメッセージとは?

高性能とエレガンスを象徴するエンブレム

赤と青でスポーティさとエレガンスさを表現するアルピナのエンブレム。
赤と青でスポーティさとエレガンスさを表現するアルピナのエンブレム。

アルピナのエンブレムは、ブランド名である「ALPINA」をトップに戴く円形バッジの中に盾がデザインされている。ドイツの都市などは、古くから盾型の紋章を用いて地域の誇りや技術・伝統の継承を象徴してきた。ポルシェが「クレスト」つまり盾をエンブレムにしているのも、そうした背景によるものだ。ドイツのサッカーチームなど、スポーツの世界でも同じようなデザインを見ることがあるだろう。

この盾が、アルピナの場合は左右に分けられている。左半分の赤はスポーティさを象徴していると思われる。そこに描かれているのは、同社が創立後に初めて開発した「BMW 1500」向けのツインキャブをイメージしたもの。すべての出発点となったキャブレターへのブランドの想いを表現しているのだろう。

右側にはクランクシャフトが縦に配置されており、アルピナの高性能なエンジンのキャパシティとトルクを表現していると考えられる。その背景色には、左側に塗られたスポーティな赤に対してエレガンスを表現すると思しき濃い青が使われている。この2色と2種類のパーツで、アルピナのエンブレムは「エレガントかつハイパフォーマンス」なクルマづくりのアイデンティティを伝えているのだろう。

「M」とは一味違う高性能

同じBMWグループの「BMW Mモータースポーツ社」(BMW M Motorsport GmbH)は、“サーキットで鍛え上げた究極のスポーツ・ドライビング”をコンセプトに「M」モデルを開発している。一方の「BMW アルピナ」は、高いパフォーマンスと洗練された快適さを併せ持つグランドツアラーという位置づけだ。エンジンのチューニングやサスペンションの味付け、内装のテイストなどに独自のクラフツマンシップが込められている。

なお、アルピナは1979年にワイン販売事業にも乗り出しており、現在では1000ヵ所を超える高級レストランやホテルとの取引を行っているという。こんな企業文化も、他のチューナーとは一味違う内外装やエンジニアリングへのアプローチに影響しているのかもしれない。

タイプライター工場で始まったアルピナの歴史

アルピナの会社としての正式名称は「アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限&合資会社」(ALPINA Burkard Bovensiepen GmbH & Co. KG;)で、1965年にブルカルト・ボーフェンジーペン氏が設立した。ミュンヘンから西に1時間ほどのカウフボイレン(Kaufbeuren)の街で、ブルカルトの父親がタイプライターなどを製造する会社「ALPINA」を経営していた。この工場で、「BMW 1500」向けにウェーバー製キャブレター2基を使った強力な「アルピナユニット」を開発したのが始まりだ。この製品がBMWに高く評価され、アルピナは正式にBMWのサプライヤーとして認められた。

1970年代には「BMW 3.0 CSL」でモータースポーツに参戦。デレック・ベルやニキ・ラウダといった伝説のレーシングドライバーと共にツーリングカーレースで成功を収め、アルピナのパフォーマンスを世界に示した。1978年からはモータースポーツで培ったノウハウを基にロードカーの開発にも取り組み、ベースモデルを上回るパフォーマンスと快適で滑らかな乗り心地の実現を目指した。1983年にはドイツ連邦自動車局より「自動車メーカー」として正式に認定されている。

BMWグループの傘下で新しい時代へ

2025年末をもってブーフロー工場での開発・生産体制が縮小されることを受けて、現在の従業員はBMWグループ、関連企業への転職が斡旋されることになる。
2025年末をもってブーフロー工場での開発・生産体制が縮小されることを受けて、現在の従業員はBMWグループ、関連企業への転職が斡旋されることになる。

2000年以降はBMWとの関係を強化し、「エレガントかつハイパフォーマンス」なクルマづくりで「M」との差別化を図っている。BMWの車両をベースに、内外装およびエンジン、トランスミッション、シャシーに至るまでトータルに仕立て直す。ディーゼルエンジン仕様を含むラグジュアリーセダンからSUVまで、年間1700台程度を熟練のエンジニアが仕立て、日本では年間300台前後が販売されている。

2022年には、アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン社が事業の再編を決定し、「アルピナ」ブランドの商標権をBMWグループに譲渡した。1978年以来カウフボイレンの隣町ブッフローエで行われてきた車両開発と生産も、今年いっぱいで終了することが決まっている。2026年以降は、BMWの手になる「アルピナ」がBMWグループの高級車ラインアップの一角を占めるだろう。

PHOTO/BMW

メルセデスの高性能仕様に与えられる「AMG」の称号。その由来とエンブレムに込められたメッセージを紹介する(写真はメルセデスAMG GT 63 4MATIC)。

メルセデスAMGのエンブレムにはなぜ“リンゴの樹”が描かれる?【自動車ブランドエンブレム秘話04:AMG】

メルセデス・ベンツのハイパフォーマンスモデルに付けられる「AMG」の称号。これは、メルセデス・ベンツ・グループAGの100%子会社であるメルセデスAMG GmbHが手掛けたモデルを意味する。独自開発の「メルセデスAMG GT」や「メルセデスAMG SL ロードスター」に加え、セダンやクーペ、SUVなど50を超える高性能モデルがメルセデス・ベンツのラインナップに名を連ねる。

キーワードで検索する

著者プロフィール

石川 徹 近影

石川 徹

PRエージェンシーやエンジニアリング会社、自動車メーカー広報部を経てフリーランスに。”文系目線”でモビ…