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McLaren MP4/1 & McLaren W1
スーパースポーツに必要不可欠な素材に

60年以上にわたりF1に参戦するマクラーレン。モータースポーツで生まれた革新的な技術は、マクラーレン・オートモーティブのスーパースポーツに様々なかたちで導入されてきた。そして、高度なカーボンファイバー関連技術を持つマクラーレンは、素材科学分野における世界的なリーダーに君臨し続けている。
今日、カーボンファイバーは、サーキットや公道を問わず最高のパフォーマンスを発揮するスーパースポーツにも、不可欠な存在だ。初の公道用スーパースポーツとなった「マクラーレン F1」以来、マクラーレンの市販モデルは、全てこの複合素材製シャシーをベースに開発されている。
カーボンファイバーが持つ軽さと高い剛性レベルは、パフォーマンスやスリリングなドライビングダイナミクスを実現するだけでなく、ラグジュアリーサルーンにも劣らない乗り心地と効率性、安全性や耐久性という複合的なメリットをもたらす。さらに、驚異的なパッケージングソリューションにより、デザイナーは美しいエクステリア、エアロダイナミクス性能を備えたスーパースポーツを作り出すことも可能になった。
マクラーレン・オートモーティブのミハエル・ライターズCEOは、カーボンファイバーの重要性について次のようにコメントした。
「カーボンファイバーは、マクラーレンを語る上で欠かすことのできない存在であり、私たちのDNAの中核をなすものだと言えるでしょう。カーボンファイバーは、最高レベルのダイナミック特性を備えた超軽量スーパースポーツの製造を可能にするだけでなく、現在においても、さらなる技術的探求が可能な分野でもあるのです」
マクラーレン MP4/1(1981)

フルカーボンファイバー製モノコックシャシーを採用した初のF1マシン「マクラーレン MP4/1」は、グランプリに革命をもたらした。その軽量・高剛性構造により、安全性とパフォーマンスが大幅に向上。ジョン・バーナードが設計したこの先進的なシャシーは、モータースポーツにおけるカーボンファイバーの普及を一気に加速させ、F1マシンの設計を一変させた。
1981年シーズン、マクラーレンは第4戦サンマリノGPからMP4/1を投入すると、ジョン・ワトソンが第9戦英国GPにおいて、マクラーレンに3年ぶりとなる勝利をもたらした。さらに、第13戦イタリアGPでは、安全性の観点からもカーボンファイバーの優位性を証明することになる。140km/hの速度で発生したアクシデントから、ワトソンが無傷で生還したのだ。この事故は、カーボンファイバー製シャシーがF1において必要不可欠な技術だと、F1関係者に確信させる大きなきっかけとなった。
マクラーレン F1(1993)

エポックメイキングなマクラーレン F1が持つ特徴の中でも、特筆すべき項目がカーボンファイバー製モノコックシャシーとフルカーボンファイバー製ボディの採用だろう。ロードカーにおけるカーボンファイバー導入の先駆者となったマクラーレン F1はわずか1140kgという車両重量を実現した。
マクラーレン F1は最高出力627PSを絞り出す6.1リッターV型12気筒エンジン、そして軽量なカーボンファイバーの採用により、ライバルを圧倒するパフォーマンスを発揮。カーボンファイバー製モノコックは、当時最先端のコンピューター解析を駆使して設計されており、ロードカーとしては前代未聞のパワーウェイトレシオを達成することになった。
そして、1995年のル・マン24時間レースでは「マクラーレン F1 GTR」が総合優勝を飾る。カーボンファイバーテクノロジーはサーキットから公道へ、そして再びサーキットへと、完全なサイクルを描いたのである。
マクラーレン 12C(2011)

マクラーレン・オートモーティブが、マクラーレン・プロダクション・センター(MPC)で生産した初のロードカーが「マクラーレン 12C」だ。12Cに導入されたシングルピースカーボンファイバー「モノセル(MonoCell)」は、世界初の量産フルカーボンファイバー製タブであり、当時のロードカーとしては前例のない剛性と軽さを実現した。
モノセルは、12Cに採用された多くの革新的な新技術のひとつだが、マクラーレン・オートモーティブにとって、現代的なスーパースポーツのDNAを構築する上で重要な“コア”となった。当時一般的だったアルミニウム製シャシーと比較すると、タブ自体が75kgという驚異的な軽さに加えて、12Cをオープンモデル化する際にもシャシー自体に追加補強を必要としないほど、優れたねじれ剛性を持っていた。
マクラーレン P1(2013)

12Cの発表からわずか2年後、2013年にマクラーレン・オートモーティブは「マクラーレン P1」をワールドプレミア。再びカーボンファイバー製テクノロジーに革命を起こした。
P1はマクラーレン F1に続く、 車名に“1”を掲げたアルティメットシリーズ第2弾として登場。ルーフとロワ構造、ルーフシュノーケル、エンジンエアインテークに加えて、バッテリーとパワーエレクトロニクスハウジングを「モノケージ(MonoCage)」と呼ばれる構造に組み込んだ、フルカーボンファイバー製ボディ構造を採用した。
これにより、ハイブリッド化による重量増に対しても妥協することなく、真の軽量スーパースポーツとして高いパフォーマンスの発揮が可能になった。
マクラーレン 720S(2017)

「マクラーレン 720S」は、現在の「750S」にも採用されるカーボンファイバー製モノコックシャシー「モノケージII(Monocage II )」を導入したモデルだ。モノケージIIでは、剛性レベルのさらなる向上と軽量化が図られた。この軽量構造はパッセンジャーセル全体を構成しており、カーボンファイバー製タブと、カーボンファイバー製アッパーストラクチャーを組み合わせることで、さらなる軽量化を進めている。
モノケージIIの驚くほどスリムなルーフピラーは、ウィンドスクリーンを通して抜群の視界をもたらし、キャブフォワードのコクピット後方に配置されたBピラーと相まって、特別な室内空間を実現した。また、モノケージIIのシルはパッセンジャーの足元に向かって下がっており、ディヘドラルドアの採用と共に乗降性も向上している。
2018年には、英国・シェフィールドに「マクラーレン・コンポジット・テクノロジー・センター(MCTC)」がオープンした。この施設は、マクラーレン・オートモーティブ、シェフィールド大学、シェフィールド市議会のパートナーシップによって設立。複合素材の開発・研究だけでなく、新世代カーボンファイバー製タブの生産において重要な施設となった。
MCTCで開発・製造された最初の量産カーボンファイバー製コンポーネントは、「765LT」用のアクティブリヤウイング、リヤバンパー、フロントフロアだという。
マクラーレン アルトゥーラ(2021)

新世代の高性能ハイブリッドパワートレイン搭載のため、マクラーレンは「アルトゥーラ」にカーボンファイバー製モノコック「マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー(MCLA)」を導入した。従来のシャシーよりも軽量かつ高強度なMCLAは、3.0リッターV型6気筒ツインターボからなるハイブリッドパワートレインをサポートし、高い剛性レベルなど構造上の利点がさらに最適化された。
MCLAは、マクラーレン・コンポジット・テクノロジー・センター(MCTC)で製造。MCLAは、「モノセル」や「モノケージII」が受け継いできた軽量化や高剛性が強化されただけでなく、ハイブリッドシステムのバッテリー用セーフティセルが組み込まれ、衝突や荷重にも耐える機能がタブに統合された。また、MCLAはこれまで以上の大量生産も可能になっている。
マクラーレン W1(2021)

マクラーレン F1、マクラーレン P1に続く、アルティメットシリーズ最新作が「マクラーレン W1」だ。軽量カーボンファイバーDNAの進化を継続し、ロードカー用に設計されたカーボンファイバー製タブ史上、最も技術的に先鋭的な「エアロセル(Aerocell)」が採用された。
サーキット専用の「ソーラス GT」と同様、プリプレグ(炭素繊維に熱硬化性マトリクス樹脂を含浸させた中間材料)カーボンファイバーを使用している。プリプレグカーボンファイバーは金型内で圧力処理が施され、エアロセルは同等のタブよりも高い構造強度を持つ。エアロセル自体が、W1のエアロダイナミクスパッケージの一部として設計されており、効率的にグランドエフェクトを活用することが可能になった。
また、W1には、マクラーレンの次世代カーボンファイバー技術である「マクラーレンART(Automated Rapid Tape)」カーボンファイバーも導入。高速・成膜製造技術の開発により実現したマクラーレンARTカーボンファイバーは、より軽量で剛性レベルが高く、廃棄物も大幅に削減された。従来よりも迅速な製造が可能なこの新技術は、W1のアクティブ・フロントウイングに採用されている。