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VOLKSWAGEN ID. EVERY1
期待通りには売れないBEV

2019年に「ID.3」を発表して以来、VWはラインナップの電動化を強力に推し進めてきた。今ではID.3の他にコンパクトSUVの「ID.4」、クーペSUVの「ID.5」(中国市場専用モデル)、ミッドサイズSUVの「ID.6」(中国市場専用モデル)、アッパーミドルセダン/ステーションワゴンの「ID.7」と、BEV専用モデルを幅広く取り揃えている。
ところが販売は当初の見通しを下回っている。2021年に発表した2030年までの経営戦略「NEW AUTO」では、「2030年までにBEVの新車販売における割合を50%とする」と、当時のVWグループCEOであるヘルベルト・ディース氏は力強く語っていた。しかし充電インフラが未だ十分とは言えない状況で、価格が高く、充電に時間がかかるBEVは、彼らの期待通りには売れていない。
また2023年12月以降は、ドイツやフランスなど欧州各国の購入補助金が終了・縮小となったこともあって、ヨーロッパ市場におけるBEVの販売台数は、前年比5.9%減の144万7934台。VWブランドのBEV販売台数も38万3100台と前年を2.7%下回った。これはVWブランド世界販売479万6900台のわずか8%弱である。
すべての人のためのモビリティ


とはいえVWは、BEVを諦めたわけではない。ICEやPHEVも同時並行で開発を進めて、BEV一辺倒から方針転換はしたものの、自動車のBEV化は今後も避けて通れないと考えている。そのためにも、今後はこれまでのようにアーリーアダプター向け(必ずしもそうとも言えないが)ではなく、あらゆる人に受け入れてもらえるモデルが必要となってくる。
それが今回スタディとしてお披露目された「ID. EVERY1」だ。VWはまず“どうすればBEVは売れるのか?”と、根本に立ち返り、ビートルやゴルフといった、VWブランドの基本的価値である“すべての人のためのモビリティ”を再び生み出す決意を固めた。
そうして生まれたのがID. EVERY1である。全長3880mm、全幅1816mm、全高1490mmととてもコンパクトなID. EVERY1は、日本では2021年春に販売終了となった「up!」(全長3600mm)よりは大きく、現行「ポロ」(同4074mm)よりひと回りコンパクトな“エレクトリック・アーバン・カー”で、ホイールベースは2539mmと、全長に対してかなり長く、4人乗りの室内空間は広々としていて、ラゲッジも305Lを確保している。
4ドアハッチバックであるID. EVERY1のエクステリアは、クラウス・ビショフがデザインを纏めた既存のID.ファミリーとは一線を画し、かなりコンサバティブな印象だが、シンプルで力強さに溢れた、クオリティ感の高いルックスは、なかなかスポーティで親しみやすく、多くの人に受け入れられそうだ。
SDVならぬCDVとして





VWの新しいMEB(モジュラー・エレクトリック・プラットフォーム)を採用するこのコンパクトBEVは、電気モーターはフロントに搭載され、最高出力95PSを発揮する。最高速度は130km/hで速度リミッターが作動。航続距離はWLTPモードで250km以上になるという。バッテリーサイズは非公表だが、おそらく25kWh程度になるだろう。そうであれば、外出先で充電が必要になっても、DC急速充電であれば短時間で済む。
もうひとつ注目すべきは、量産バージョンはSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)ならぬ、「CDV(カスタマー・デファインド・ビークル)」になるという点だ。クルマはOTAを介して、そのライフサイクルを通じて進化し、ユーザーの意見を反映した新しい機能を搭載出来るようになるという。そのためにVWは、次世代の強力なソフトウェアを開発し、ID. EVERY1の量産モデルを皮切りに搭載する計画だという。
量産バージョンは2027年3月に発売予定で、販売価格がたったの2万ユーロ(約320万円)というから驚きである。これほどリーズナブルな価格設定であれば、多くの人が興味をそそられるだろう。コンパクトで低価格なシティコミューターは、まさに日本市場にもピッタリ!なのだが、このクルマは残念ながら現時点ではヨーロッパ市場限定で販売される予定である。是非インポーターに頑張ってもらって、日本市場への導入も期待したいところだ。