究極のクーペ2台「GT 63 S Eパフォーマンス・クーペ」「GT 63 4マティック+クーペ」の比較試乗

好事家を悩ませる2台の「メルセデスAMG GT」を比較テスト「GT 63 S Eパフォーマンス」か「GT 63 4マティック+クーペ」か

メルセデスのスーパースポーツ「GT63クーペ」にトップグレードとなるPHVモデル「GT63 S Eパフォーマンス」が追加された。ノーマルモデルと比較することで見えてきた事実とは?
メルセデスのスーパースポーツ「GT63クーペ」にトップグレードとなるPHVモデル「GT63 S Eパフォーマンス」が追加された。ノーマルモデルと比較することで見えてきた事実とは?
メルセデスAMGのスーパースポーツ「GT 63クーペ」にシリーズ初となるPHVが加わった。それがシステムアウトプット816PS/1420Nmという強烈な心臓部を持つ「GT 63 S Eパフォーマンス・クーペ」だ。純エンジン車の「GT 63 4マティック+クーペ」との比較で見えてきた事実とは!?(GENROQ 2025年6月号より転載・再構成)

Mercedes-AMG GT 63 S E Performance Coupe
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Mercedes-AMG GT 63 4Matic+Coupe

Eパフォーマンスか? ノーマルか!?

816PS/1420Nmという途方もないシステムアウトプットを誇るGT63 S Eパフォーマンスに対し、GT63 4マティック+クーペは585PS/800Nmを発揮する4リッターV8ツインターボエンジンを積む。
816PS/1420Nmという途方もないシステムアウトプットを誇るGT63 S Eパフォーマンスに対し、GT63 4マティック+クーペは585PS/800Nmを発揮する4リッターV8ツインターボエンジンを積む。

昨2024年4月に4.0リッターV8ツインターボを積む「GT 63 4マティック+クーペ(以下、GT 63)」から上陸したAMG GTは、11月に2.0リッター4気筒ターボで後輪駆動の「GT 43 クーペ」、そして今年2月に最上級モデルの「GT 63 S Eパフォーマンスクーペ(以下、GT 63 S)」が上陸して、基本ラインナップが出揃った。本国にはV8の最高出力を612PS、最大トルクを850Nm(素のGT 63は585PS、800Nm)まで引き上げた「GT 63 プロ」もあるが、ハードウェアの基本構成は最初のGT 63と共通だからだ。

現在「Eパフォーマンス(以下、Eパフォ)」を名乗るAMGはこのGT 63 Sに加えて、C 63〜のセダンとワゴン、S 63〜、そしてSL 63 S〜という4機種・5バリエーションがある。このうち、GTとSLのみ末尾に「S」がつくのは、この2機種には同じ63を名乗る純エンジン車も用意されているからで、Eパフォはさらにその上級に位置づけられる。

Eパフォとは、リヤアクスル部に204PS、320Nm(最大10秒間)の駆動モーターと2速AT、電子制御LSDを一体化したエレクトリックドライブユニット(EDU)を搭載して、EV走行、エンジンアシスト、回生などを行うシステムだ。そのEDUを駆動する400Vリチウムイオン電池も、F1のノウハウを駆使してAMGが独自開発したものだ。公式資料には「このバッテリーは航続距離を最大化することより、速やかな放電と充電を重点に設計された」と明記されている。

珠玉のユニットを搭載する2台

リヤのEDUはモーター性能も含めて、今のところすべてのEパフォで共通化されている。ただ、そこに組み合わせるエンジンと電池の総電力量を、クルマごとに変えている。今回のGT 63 Sは、エンジンが4.0リッターV8ツインターボ。その612PS、850Nmという最高出力、最大トルクは前記のGT 63 プロと共通チューンで、816PS、1420Nmというシステム出力、同トルクはSL 63 S〜とならんで、今あるEパフォでは最も高出力となる(最大トルクはS 63〜が10‌Nm大きい)。

総電力量6.1kWhの電池はEパフォでは小さなタイプで、外部充電可能なプラグインハイブリッドだが、EV航続距離はわずか最大13km(WLTCモード)。しかも、アップダウンの多いワインディングでひとっ走りすれば、あっという間に回生でフル充電されるほど小容量だ。

ちなみに、今回のGT 63 Sにはオプションのリヤシートも装着されていたが、キャビン空間は純エンジンのGT 63と選ぶところはない。ただ、荷室フロアには棚のような盛り上がりがあり、容量が削がれている。ご想像のとおり、EDUとリチウムイオン電池が床下にあるからだ。

オプションで後席も装備できる

GT 63 Sは基本となるハイブリッドモードに設定しておけば、発進や低負荷巡航などでエンジン停止することも当然ある。しかし、誤解を恐れずにいえば、そうやって燃料消費やCO2排出を減らすのは、Eパフォの本分ではない。やはりV8ツインターボとモーターがフル稼働してこそ、Eパフォの本領が発揮される。

そんなEパフォでは、まさにラグ皆無(!)の加速レスポンスと、強力なキック力がなにより印象的だ。最も穏やかな味つけのコンフォートモードでも、アクセルを踏んだ瞬間……というより、右足に力を込めようと脳裏によぎった時点で、すでに加速しはじめているのでは……と錯覚するほど。0-100km/h加速はGT 63の3.2秒から2.8秒まで短縮。さすがにこれだけの差があると、体感的にも速い。それはまるで吸い込まれるような加速感だ。

さらには、ワインディングで激しい加減速を繰り返しても、息切れ(=電池切れ)はまるで起こらず、地の底から湧き出るような加速を常に見舞ってくるのは、高い充放電特性のAMG謹製電池の効能か。V8サウンドにしても、純エンジン車のGT 63より濃厚な演出が効いている。

モダンかつラグジュアリーなGT 63 4マティック+クーペ

……と、あくまで怒涛のレスポンスとキック力がEパフォの真骨頂だが、例えば上り勾配を徐行するような、ハイパワースポーツカーが本来は苦手とするシーンでも、まるでギクシャクせずスルスル転がってくれるのも、電動パワートレインならではのEパフォの美点だ。また、ワインディングや高速では特筆するような効率は感じられないが、ゆるい加減速を繰り返す市街地で、一気に燃費が好転するのは素直に嬉しい。

対して、4.0リッターV8ツインターボの純エンジン車となるGT 63は、今でも世界屈指のスピードと機動性を誇るハイエンドスポーツクーペの1台であることに間違いはない。これを単独に乗るかぎり、レスポンスやパワーに不足を覚えることも皆無。しかし、こうしてGT 63 Sと比較してしまうと、アクセル操作と実際の加速Gとの間にタメというか、内燃機関ならではの間が存在することに否応なく気づかされてしまう。

また、スピードシフトMCTの変速は凄まじいキレ味だが、エンジンフィールそのものは良くも悪くも理性的だ。考えてみれば、同じエンジンが供給されるアストンマーティンで700PS超、900Nmまで達しているポテンシャルを考えれば、GT63の585PS、800Nm程度(?)はまだまだ余裕しゃくしゃくだろう。実際に走らせても、トップエンドにはどことなく寸止め感もあり、7000rpmのリミットまで引っ張るより、早めのシフトアップで図太い中速トルクを活かした方が、明らかにスムーズで速い。

わずか13kmのEV走行距離

GT 63 S Eパフォーマンスの給電口はリヤの右側に設置される。
GT 63 S Eパフォーマンスの給電口はリヤの右側に設置される。

GT 63は、そんなV8ツインターボを完全に支配下に置く。ダンピングが最もソフトになるコンフォートモードではしなやかそのもので、そのままワインディングに分け入っても、無駄な上下動もなく軽々とこなす。しかし、そこから明らかに引き締まるスポーツ、そして最も硬質なスポーツ+/レース……とモードを上げても、ステアリングはさらに俊敏となるも、決して暴力的な乗り心地にはならない寸止め感が絶妙。GT 63はエンジンも余裕なら、シャシーも余力たっぷりなのだ。

そんなGTゆえ、瞬間的な最大トルクにして620Nm(!)、重量にして240kg(!!)上乗せとなるEパフォでもアゴを出すはずもない。さすがにアシは明確に引き締まり、路面によっては素直に凹凸を伝えるが、スピードや入力が高まるほどしやなかになるのは、さすがである。

興味深いのはEパフォの構造からも想像できるように、GT 63に対する240kgというGT 63 Sの重量増の大半が、リヤに集中していることだ。結果として、車検証による前後重量配分はGT 63の55対45から49対51へと理想的なものになっている。GT 63 Sの間髪入れない怒涛のキック力も、Eパフォ=電動駆動ならではレスポンスに加えて、リヤタイヤにしっかり乗った荷重の恩恵もありそうだ。また、優秀な四輪操舵のおかげもあってか、GT 63 Sはその重量のわりに、身のこなしは望外に俊敏で軽快なのにも驚く。

スピードのS Eパフォーマンス、軽快さの4マティック+

GT63 S Eパフォーマンスの絶対的な速さにも惹かれるが、GT63 4マティック+の切れ味鋭いコーナリングもこれまた惹かれる。一筋縄でいかない、GT63のチョイスだ⋯⋯。
GT 63 S Eパフォーマンスの絶対的な速さにも惹かれるが、GT 63 4マティック+の切れ味鋭いコーナリングもこれまた惹かれる。一筋縄でいかない、GT63のチョイスだ⋯⋯。

これまで末尾に「S」が付与されるAMGは基本的に同じパワトレのままハイチューン化されたモデルだった。だから、好事家であれば迷うことなく、Sの一択だった。しかし、新しいGTでは63と63 Sでキャラクターも味わいも明らかに違う。絶対的に速いのはもちろんEパフォのGT 63 Sだが、GT 63のしなやかさと、純エンジン車ならではのタメと変速のキレ味も、あらためて捨てがたい。また、GT 63 Sがいかに俊敏といっても、さすがに240kgの重量差は完全には隠せない。この2台は乗れば乗るほど悩みが深まる……。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2025年6月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG GT 63 S Eパフォーマンス・クーペ

ボディサイズ:全長4730 全幅1985 全高1355mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:2180kg
システム最高出力:600kW(816PS)
システム最大トルク:1420Nm(144.8kgm)
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:450kW(612PS)/5750-6500rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2500-4500rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前295/35R20 後305/30ZR21
車両本体価格:3085万円

メルセデスAMG GT 63 4マティック+クーペ


ボディサイズ:全長4730 全幅1985 全高1355mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1940kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585PS)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前295/35R20 後305/30ZR21
車両本体価格:2750万

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

シリーズ初のプラグインハイブリッド搭載トップモデル、「メルセデス AMG GT 63 S E PERFORMANCE クーペ」の日本導入が開始された。

「メルセデス AMG GT 63 S E PERFORMANCE クーペ」が日本導入「F1由来のプラグインハイブリッド技術搭載」

メルセデス・ベンツ日本は、メルセデス AMG GT クーペのトップパフォーマンスモデル「メルセデス AMG GT 63 S E PERFORMANCE クーペ」を追加。全国のメルセデス・ベンツ正規販売店ネットワークを通じて販売を開始した。

メルセデスAMG GTクーペ(左)とアストンマーティン ヴァンテージ。

超硬派スポーツカー2台「アストンマーティン ヴァンテージ」と「メルセデスAMG GTクーペ」を比較試乗

「アストンマーティン ヴァンテージ」と「メルセデスAMG GTクーペ」は、ともにAMG製4.0リッターV8ツインターボエンジンを搭載する、兄弟と言える最新スポーツカーだ。今回その2台をワインディングに連れ出して比較した。それぞれの各論はすでに掲載しているが、それを踏まえてそれぞれの特徴を分析する。

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佐野弘宗 近影

佐野弘宗