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M5(E60)
量産4ドアサルーンとして世界初のV10エンジン

2003年にデビューした5代目E60型「5シリーズ」は、走行シーンに応じてステアリングギヤ比を電子制御で変化させる世界初のアクティブ・フロント・ステアリングを装備して話題を呼んだが、2004年9月のパリ・ショーでヴェールを脱いだ第4世代となる「M5」もそれに劣らぬニュースに溢れていた。
その最大の要因がノーズに詰め込まれた4999cc V型10気筒DOHC“S85B50A“ユニットである。量産4ドアサルーンとして世界初のV10ガソリンエンジンとなった(そして現時点でM5に搭載された唯一のV10エンジン)S85B50Aユニットは、ザウバーBMW F1プログラムとリンクして新規開発されたもので、アルミ製のブロックとシリンダーヘッドを採用。それぞれのシリンダーに4つのバルブとダブルVANOS(可変バルブタイミングシステム)、さらにスロットルバルブを備えており、その単体重量は240kgに抑えられていた。
シーメンス製のMS S65ユニットで制御されるこのV10エンジンは、7750rpmで507PSの最高出力と、6100rpmで520Nmの最大トルクを発生。ギヤボックスは従来から20%変速スピードがアップした7速SMG-Ⅲ セミATで、ローンチコントロール、ヒルホールド、シフトダウン時に短時間クラッチを切るシフトロック回避機構などが盛り込まれていた。また北米仕様のみ、2006年モデルから6速MTも無償オプションとして用意されている。
オーバーフェンダー付きのワイドボディ

シャシーは前後のトレッドをそれぞれ1580mm、1566mmに拡大。フロントダブルジョイント式マクファーソンストラット、リヤマルチリンクのサスペンション形式自体はスタンダードモデルと同一だが、コンフォート、ノーマル、スポーツの3段階に調整可能な電子制御ダンパー(EDC)、そしてスタビリティに優れたノーマルと、コントロールの許容度を増したMダイナミックモードの2種類を選択可能としたダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)といった電子デバイスを積極的に採用。一方でE60のトピックであったアクティブ・フロント・ステアリングはフィーリングの問題から採用されなかった。またタイヤはフロント225/40ZR19、リヤ285/35ZR19のコンチネンタル製スポーツコンタクト2を標準装備とし、BMWが採用を進めていたランフラットタイヤは装着されていない。
これらの変更に伴い、ボディもオーバーフェンダー付きのワイドボディ、大きな冷却口のついたフロントエアダム、リヤのMスポイラーなどM5専用のものが奢られていたが、フロントフェンダーにつくE46型「M3」に似たエアアウトレットはダミーとなっていた。
V10がさまざまなアワードを受賞するも


高性能を推し量る指標としてすっかり定着したニュルブルクリンク・ノルトシュライフェのラップタイムは8分13秒。加えて0-100km/h加速は4.7秒、最高速度305km/h(オプションのMドライバーズパッケージでリミッターを解除した場合)と、当時のスポーツセダンとして圧倒的なパフォーマンスを誇ったE60型M5は、セダンだけでなく、2007年にワゴンボディのツーリング(ヨーロッパ市場のみ)も用意され、2010年までにセダンが1万9564台、ツーリングが1025台製造されている。
こうしてBMW史上他に類をみないスーパーサルーンとして登場したE60型M5であったが、さまざまなアワードを受賞したV10ユニットにロッドベアリング、ダブルVANOS、スロットルアクチュエーターなどのトラブルが頻発。結局、他のBMWプロダクション・モデルではE63/64型「M6」にのみ使用されたに留まり、2010年で製造を終了する短命エンジンとなってしまった。