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Hankook iON Formula E
市販車と同様にトレッドパターンのあるタイヤ


5月17日〜18日、東京・お台場で2024/2025年シーズン(シーズン11)のABB FIAフォーミュラE世界選手権第8戦・第9戦「東京E-Prix」が開催される。土日で1戦ずつ行われるダブルヘッダーだ。
このフォーミュラEに、それまでのミシュランに代わり、2022/23年のシーズン9からワンメイクタイヤを供給しているのがハンコックタイヤである。フォーミュラEのタイヤには、市販車と同様にトレッドパターン(溝)があり、ドライ/ウェットの両コンディションで性能を発揮できるよう設計されている。これはレースでの持続可能性を重視するシリーズの理念を表したものだ。ピットに積まれたレース用タイヤには、ハンコックのEV専用ブランド「iON(アイオン)」のロゴが刻まれ、市販EVタイヤへの技術転用を示唆している。
高速コーナーをスムーズにつなぐこと

5月16日のフリープラクティス前に、昨年の東京E-Prixで優勝を飾ったマキシミリアン・ギュンター選手(DSペンスキー)が、ピット裏のハンコックタイヤ・ガレージでメディア対応を行った。ギュンターは今季第3戦ジェッダで自身通算6勝目を挙げた実力者のひとりだ。
「昨年、東京の初開催で勝てたのは、自分にとって非常に特別な瞬間でした。今年のレースに向けても、しっかり準備を整えてきました。シーズン中盤ですが、調子は良好です。この勢いを保って結果につなげたいですね」
今年の東京E-Prixのコースについてはどうだろう。
「今年もレースもコースも非常にエキサイティングな展開になると思います。昨年ほどのジャンプはなくなったとはいえ、下り坂では依然としてボトミング(底打ち)が起こるでしょう。このサーキットでは高速コーナーをスムーズにつなぐ“流れ”を大切にしながら、同時にエネルギーマネジメントを意識する必要があります。オーバーテイクのチャンスも十分にあります」
「特に重要なのは、ターン9とターン16。いずれもこのコースで最も速いコーナーで、ターン9を安定して高速で抜けることが、続くターン10でのオーバーテイクにつながります。昨年もここが勝負所でした。今年のタイヤはグリップもピーク性能も向上しており、とても楽しく攻めることができています」
適切な作動温度に持っていくことが重要


フォーミュラEのレースは公道で行われることが多く、路面はバンピーでトラクションも限られており、トップスピードも抑えめだ。だからこそ、タイヤの温度管理やセットアップ、ドライビングスタイルがより重要になるという。
「どのサーキットでもタイヤを適温に保つことは重要ですが、ストリートサーキットでは特に難易度が高いですね」
また、ウエットコンディションでの対応についても語った。
「ストリートサーキットでの雨は非常に滑りやすくなります。だからこそ、タイヤを適切な作動温度に持っていくことが、クルマの挙動に対する信頼感や攻める自信につながります。たとえばモナコも、フルスロットルで走れる区間が少なく、バンプやブレーキングポイントが多い。ですが、我々はドライでもウェットでも準備万全です」
限られた本数の中で最大のパフォーマンスを

最後に、タイヤ開発と市販車への技術転用について訊いた。
「フォーミュラEのタイヤは、ドライ・ウェット・中間すべてのコンディションで性能を発揮しなければならない、非常にユニークなタイヤです。しかもタイヤ交換なしで走り切る必要があり、グリップも摩耗もきちんと管理する必要があります。市販車でも雨が降ってきたからタイヤを換えることはありませんよね。フォーミュラEはその意味でも重要な技術開発の場になっています」
使用済みタイヤの35%は再利用され、新しいタイヤへと生まれ変わるという。また、レースで得られたデータは市販車用タイヤの開発にも活用されるそうだ。
タイヤは1レースにつき2セット(ダブルヘッダーの場合3セット)のみが使用できる。予選・決勝で常に新品を使うわけにはいかず、使用タイミングの見極めが戦略のカギとなる。ドライ向けに温存したセットが、突然の雨で最適ではなくなるといった事態もあり得る。限られたタイヤ本数の中で最大限のパフォーマンスを引き出す緻密な戦略こそが、フォーミュラEならではの魅力とも言える。ハンコックはシーズン9から4年間にわたって公式タイヤサプライヤーを務め、2025/26年のシーズン12まで供給を継続する予定だ。その後、2026年からはブリヂストンが新たにその役割を引き継ぐことが決定している。
PHOTO/GENROQ、Formula E