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NEOM McLaren Formula E Team
日本は非常に重要なラウンド


昨年、東京・お台場で初開催され、大きな話題を呼んだ公道レース「ABB FIAフォーミュラE世界選手権 東京E-Prix」が、今年も東京に戻ってきた。東京E-Prixは昨年の好評を受けて、2024/25年シーズンの第8戦&第9戦として5月17〜18日の土日2日間にわたって開催されるダブルヘッダーとなる。
本格的にレースが始まる前日の5月16日、NEOMマクラーレン・エレクトリック・レーシングから、2022年からチームを率いるイアン・ジェームズ氏、フォーミュラE草創期から参戦して通算12勝を誇るサム・バード選手、そして今季フル参戦1年目ながらすでに3度の表彰台を獲得している若干20歳のテイラー・バーナード選手がインタビューに応じた。
まず初めに東京という舞台についての意気込みが語られた。
イアン・ジェームズ(以下ジェームズ) マクラーレンにとって日本は非常に重要な市場です。F1時代のアイルトン・セナとマクラーレン・ホンダの記憶が色濃く残っており、今なお多くのファンがいます。さらに、現在のフォーミュラEでは日産のパワートレインを搭載しており、日本企業のTDKとも技術パートナーシップを結んでいるため、東京E-Prixは極めて重要なラウンドです。
サム・バード(以下バード) 東京のコースは非常に個性的です。狭くバンピーで、舗装も新旧が混在しています。ターン2〜3の間ではクルマが一瞬ジャンプしますし、アタックモードのロスも大きくなったことで、戦略面の重要性も増しました。低速から高速まで幅広いセクターがあり、グリップの変化も大きく、ドライバーとして非常に興味深いコースです。
さらに11シーズンを迎えたフォーミュラEの進化について、ベテランのバード選手が解説してくれた。
バード 私が参戦し始めたシーズン1では、1レース中に2台のマシンを乗り換える必要がありました。しかし今は1台でレースを完走し、出力も150kWから350kWに倍増しました。マシン、チーム、ドライバーの全レベルが上がり、本物のワールドチャンピオンシップになったと実感しています。
ベテランが語る若きチームメイト


シーズン1から参戦するバード選手と今年初のフル参戦となるルーキーのバーナード選手の組み合わせも面白い。
テイラー・バーナード(以下バーナード) 初のフルシーズンで、すべてが新鮮な経験です。東京のコースも、マクラーレン・テクノロジー・センターのシミュレーターで何百周も走り込みました。メンタルトレーナーとも連携し、難易度の高い公道コースに備えてきました。ジュニアフォーミュラと違って、フォーミュラEは常にホイール・トゥ・ホイールの接近戦で、アグレッシブな戦いが魅力です。
バード テイラーは今季のフォーミュラEで最も注目すべき才能のひとりです。スピードもあり、チーム内外での評価も高い。メディア対応はまだ不慣れですが、それもすぐに慣れるでしょう。初勝利は時間の問題です。
インタビュー直後のフリープラクティス1で、テイラー選手はクラッシュに見舞われたものの、大雨で予選が中止された第8戦で見事なリカバリーを見せて3位表彰台を獲得。バード選手は赤旗中断の影響で後方に沈み、14位でフィニッシュした。
そんなNEOMマクラーレン・エレクトリック・レーシングだが、今季限りでフォーミュラEからの撤退を発表している。
ジェームズ F1、インディカー、GTと多くのプログラムを抱える中で、フォーミュラEは現在のマクラーレン・オートモーティブのロードカー事業と直接の関連が薄くなったため、リソースの再配分を決断しました。もちろん、フォーミュラEというシリーズ自体の将来性は大いに信じており、決して軽視しているわけではありません。
新たなミッションとしてのカスタマーレーシング


2024年12月から、ジェームズ氏はマクラーレン・オートモーティブのモータースポーツ・ディレクターとして、GTおよびカスタマーレーシング全体を統括する立場にある。それと同時に、ジェームズ氏自身もジェントルマンドライバーとして、かなり経験を積んでいる。マクラーレンとして、今後そうした“ジェントルマンドライバー”とどのように関わることができるのか、また、速く走ることに情熱を持つ人々に対して、マクラーレンはどんなことを提供できるのだろう?
ジェームズ 私自身もクルマが大好きで、モータースポーツにも情熱を持って育ってきました。多くの人がそうであるように、“レーシングドライバーになりたい”という夢を持っていたわけです。でも私はすぐに、自分の才能では速く走れないと気づきました(笑)。実際にこうしてプロドライバーたちの走りを間近で見ると、我々と彼らの間にはとてつもない差があることがわかります。
とはいえ、すべての人がそのレベルに到達しなければ速く走る楽しさを味わえない、というわけではないという。マクラーレンにはジェントルマンドライバーがモータースポーツを堪能するための仕組みが用意されるという。
ジェームズ マクラーレンはF1、フォーミュラE、インディカー、GTなどのワークス活動に加え、“カスタマーレーシングプログラム”という側面もあります。ここではジェントルマンドライバーが、マクラーレンと共にレースの世界に参加することができます。ワンメイクのマクラーレン・トロフィーからGT4、GT3へとステップアップできる体制が整っています。マクラーレン・トロフィーを将来的にはアジアにも展開したいと考えています。実際に、このルートを通じて成功しているジェントルマンドライバーも多いんです。
そう語るジェームズ氏には、自身の体験も踏まえた上での説得力を持ってこう締め括った。
ジェームズ 最近のレースで印象的だったのは、バードが昨年のサンパウロで優勝したレースでエマーソン・フィッティパルディがチェッカーを振った瞬間、そして今年のモナコでバーナードがポールポジションを取った時です。彼らの活躍ももちろん誇らしいですが、同じくらいジェントルマンドライバーがGT4マシンでデイトナ24時間をクラス優勝した姿にも感動しました。マクラーレンがその夢の架け橋になれることは、私にとっても誇りです。
第8戦東京E-Prixを3位で締めくくったNEOMマクラーレン。翌日の第9戦では、どんなドラマが待っているのか注目したい。
PHOTO/McLaren Automotive、GENROQ、Formula E