BMW 1シリーズの快速2.0リッターターボAWDグレードM135に試乗

「2.0リッターターボの快速AWDハッチ」BMW1シリーズの最高峰M135に試乗して感じた控えめな“M”感

1シリーズ最高峰のM135 xDrive。最高出力300PS、最大トルク400Nmを発生し、0-100km/h加速はわずか4.9秒を誇る。PHOTO=市健治
1シリーズ最高峰のM135 xDrive。最高出力300PS、最大トルク400Nmを発生し、0-100km/h加速はわずか4.9秒を誇る。PHOTO=市健治
5年ぶりにフルモデルチェンジを果たしたBMWの人気コンパクトハッチバック、1シリーズ。今回は、その最上級グレードとなる「M135 xDrive」に試乗した。

BMW M135 xDrive

“M”を名乗るコンパクトの真意

PHOTO=市健治
リヤウインドウには大型のリヤスポイラーも備わる。PHOTO=市健治

新型1シリーズは、プラットフォームこそ先代と同じFWD向けUKL2を採用するが、デザインは大幅に刷新されている。ロングノーズ風のシルエットに加え、キドニーグリルも低く構えた新造形となり、見た目の印象は先代とは完全に別物である。ボディサイズは全長4370mm(先代比+15mm)、全高1450mm(同−15mm)。やや長く低くなったが、全幅1800mm、ホイールベース2670mmは不変。よりスポーティなプロポーションへと進化した。

日本仕様は「120」「120 Mスポーツ」「M135」の3グレードが展開されており、今回試乗したM135はシリーズの頂点に君臨するスポーツグレード。2.0リッター直4ターボにxDrive(AWD)、トランスミッションは7速DCTを採用。最高出力300PS、最大トルク400Nmを発生し、0-100km/h加速はわずか4.9秒を誇る。

“M”と名乗るも牙は小さい

率直に言って、ドライビングフィールは良くも悪くも“普通”だ。誤解を恐れず言えば、Mの称号に期待するようなアグレッシブさや過激さは控えめで、過去にMモデルを乗り継いできたようなドライバーにとっては拍子抜けするかもしれない。シャシーや駆動系の完成度は高いが、全体のキャラクターはあくまでジェントル。価格帯は異なるがメルセデスAMG A 45 S(ファイナルエディション=1185万円)のような“熱さ”は持ち合わせていない。

フロントに横置きされる2.0リッター直4ターボエンジンは低速域(2000rpm)から400Nmという大トルクを発生するが、スポーツエンジンというよりもどちらかといえば実用的だ。7速DCTはスムーズで変速ショックも抑えられているが、もう少しダイレクト感が欲しいというのが正直な印象。とくにスポーツブーストモードに切り替えても、最高出力300PSの割に演出は抑えめで、良く言えば洗練、悪く言えば凡庸だ。

高速道路での直進安定性や巡航性能は高く、100km/hで7速2000rpmという設定も優秀。ただし、120km/h付近で路面の継ぎ目に同期すると、足まわりのハーシュネスが強く現れる。タイヤの特性もあるのか、乗り心地は全体的に引き締まっている。

ドライビングモードは「パーソナル」「スポーツ」「エフィシェント」など全7種類。モードによってスロットルレスポンスやステアリングフィールが変化するが、スポーツサスなどのダンパーの調整は電子制御可変ではなく機械制御の周半数感応型を備える。変速モードをSレンジにすることでパドル操作によるマニュアル変速モードに移行できる。左パドルの長引きでスポーツブースト機能が作動するが、やはり「M」と呼ぶには物足りなさが残る。

一方、ブレーキ性能は特筆に値する。テスト車にはMコンパウンドブレーキが奢られ、制動時の信頼感は高い。ワインディングで追い込むような試乗はしなかったが、その片鱗は十分に感じられた。

操作性は進化と課題が交錯

新設計のカーブドディスプレイが目を引くインテリアは、最新のBMWに乗っている満足感は高い。ただし表示は高精細で美しいが、操作性にはやや難ありと感じた。とくにタコメーター表示やオートホールド設定など、一部機能が設定画面の奥に隠されている印象で、慣れないうちは戸惑うだろう。メディアの多くがトリップメーターもリセットしなかった(できなかった?)ため、テスト車のトリップメーターは3000km(!)を超えていた。ちなみにその累計燃費データは11.8km/Lで、カタログ燃費(WLTC)が12.5km/Lだから、かなりリアルな数値ではなかろうか。このパフォーマンスとしては及第点だが、現代のエコトレンドを考えると平凡ともいえる。

一方でステアリングの物理スイッチはシンプルで好印象。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やオーディオ操作はステアリングスイッチで直感的に行える一方、車間距離の調整はセンター画面に依存するためやや手間だ。

シートは調整幅が広く、ランバーサポートも良好。ドライビングポジションもバッチリ決まる。死角についてはAピラーとドアミラーの隙間が狭いのがやや気になるが、リヤの荷室容量はしっかり確保されており(380L)、スペアタイヤレスによる二重底構造も実用的だ。

結論として、M135 xDriveは悪目立ちしない普段使いできるプレミアムハッチバックとして優秀だが、“M”の称号に過剰な期待は禁物だ。その名に宿る歴史と、現実とのバランス感覚。BMWの新しい提案は、スポーツと実用の狭間で揺れる1台といえるだろう。

PHOTO/市健治(Kenji ICHI)、GENROQ

SPECIFICATIONS

BMW M135 xドライブ

ボディサイズ:全長4370 全幅1800 全高1450mm
ホイールベース:2670mm
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1998cc
最高出力:221kW(300PS)/5750rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000-4500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後225/45R18
燃料消費率:12.5km/L
車両本体価格:714万円

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著者プロフィール

吉岡 卓朗(Takuro Yoshioka) 近影

吉岡 卓朗(Takuro Yoshioka)

大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わりたいと、1999年に…