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Lamborghini Urus SE
ランボルギーニの台数を倍増させたウルス

「ランボルギーニ ウルス」がスーパースポーツカー、そして超ラグジュアリーカーの世界に与えた影響は計り知れない。その存在が発表されたのは今から13年も前の2012年。当時すでにSUVは世界的ブームとなっており、「ポルシェ カイエン」や「BMW X6」などがSUVとスポーツの両立を実現していたが、いわゆるスーパーカーブランドがSUVを手掛けることに対してファンの間ではさまざま意見が飛び交い、その中には懐疑的な声もかなりあったと記憶している。
ランボルギーニとしては、フォルクスワーゲングループのアーキテクチャーを利用することで開発費を抑えられることは大きな理由だっただろう。また、モータースポーツ直系のブランドではないというのも、商品戦略的にはやりやすかったのかもしれない。とはいえ、ウルスのここまでのヒットは、ランボルギーニ自身の想定を超えていたのではないだろうか。16年に年間3457台だった販売台数は、ウルス登場後の2018年にはいきなり5750台となり、翌2019年には8205台となる。
ウルスの発表時に、ランボルギーニは販売台数を倍増させる、と公言していたが、蓋を開ければいきなり倍以上となってしまったのだから、まさにウルスはランボルギーニのゲームチェンジャーとなったわけだ。そしてアストンマーティンやフェラーリが、ウルスの成功に大いに触発されたことは間違いない。
初のマイナーチェンジですっきりとしたビジュアルに
もちろんその成功は、ウルスがランボルギーニのSUVとして素らしい仕上がりだったからだ。SUVなのにどこから見てもランボルギーニにしか見えない、マッシブで美しいボディデザイン、素晴らしいレスポンスとパワーを持つV8ツインターボエンジン、高い剛性を持つボディなど、ウルスは当初懐疑的だった人も文句のつけようがないほどの内容を持つ1台だった。2022年にペルフォルマンテの追加はあったが、発売以来マイナーチェンジと呼べるような改良が行われなかったのも、好調に売れているモデルにあえて手を加える必要はない、という判断だったのだろう。だから今回のマイナーチェンジは、発売以来初めてといえる大掛かりな改良なのだ。
初めてその姿を写真で見た時は正直どこが変わったのか分かりづらかったのだが、実車を目の前にすると明らかに違う。具体的にはボディ前端のパネルが廃止され、ボンネットがそのまま継ぎ目なく前端まで伸ばされた。同時にバンパーとヘッドライトも新しいデザインとなっている。ヘッドライトが細くなったこともあり、先代よりもスマートで洗練された印象だ。リヤもナンバープレートがバンパーの位置まで下げられており、よりすっきりとしたビジュアルとなっている。このフロント周りの処理などはレヴエルトにも通じる雰囲気となり、ラインナップ最古参であることを感じさせない。
トータル800PSはカイエンターボSを上回る

とはいえ、今回のマイナーチェンジにおいてビジュアルの刷新はあくまでも第二義。最大の目的はハイブリッドシステムの導入にある。ご存知のようにランボルギーニはミッドシップの2台もすでにプラグインハイブリッド(PHV)としており、これで2024年末までに全車を電動化するというビジネスプランを達成したことになる。
エンジンは従来通り4.0リッターのV8ツインターボ。これと8速ATの間に永久磁石同期モーターを組み込んである。搭載されるモーターはこれ1基というのがレヴエルトやテメラリオとは異なる点だが、新たに搭載した電動トルクベクタリングシステムによって、EVモードでも前後輪に最適なトルクを配分するAWDとして走行する。
エンジン単体での出力は620PS/800Nmで、これに192PS/483Nmのモーターを組み合わせることでトータル800PSを実現。モーターは「カイエン ターボ Eハイブリッド」のものよりも強力で、トータル出力も61PS上回る。ここはグループ内のパワーヒエラルキーを意識した設定なのだろう。リチウムイオンバッテリーはリヤラゲッジルームの下にあり、こちらはカイエンターボEハイブリッドと同じ25.9kWhの容量を持つ。
しなやかで洗練された乗り心地に驚愕

始動時のデフォルトはEVモードなので、赤いカバーに覆われるスタートボタンを押してもエンジンはかからない。そのままモーターで走り出し、駐車場を出て都内の道を走る。信号を2つか3つ過ぎたあたりで、何だかちょっと不思議な感覚にとらわれた。インパネの雰囲気は紛れもなくウルスだが、まるでランボルギーニではなく高級サルーンを運転しているかのような感じなのだ。
EV走行なので音がしないのは当然だが、それだけではなくその乗り味が驚くほどしなやかで快適。かといってフワフワしたものではなく、しっかりとサスペンションがダンピングしていることも感じられるし、ステアリングには路面の状況が確実に伝わってくる。だが嫌な振動や突き上げはまるでなく、首都高速に入ってもEVのまま滑るように加速していく。
いつまでたってもエンジンがかからないので(EV走行は60km、130km/hまで可能)、ハイブリッドモードにしてアクセルを少し強めに踏んだら、フォン! という軽い音と共にV8が目覚めた。
EV走行でもレスポンスは素晴らしかったが、エンジンが始動するとそこにさらなる力強さが加わる。ステアリングもEV走行時は微妙な反力が感じられたが、エンジンが始動するとそれも気にならなくなった。その上で快適さはそのままだ。今回のマイナーチェンジで、エアサスだけでなくブッシュ類などの設定も見直されたに違いない。パワートレインの進化ばかりが頭にあったのだが、この乗り心地の洗練度には正直驚かされた。
改善された前後重量配分が生む俊敏な走り





かといってウルスSEは決して軟弱なSUVになったわけではない。スポーツモードにするとサスペンションが一段階引き締まり、まさに狙った通りのラインに乗せていける。重量は2505kgとPHV化によって従来のウルスSより300kgほど増えているのだが、まるで重さを感じさせない。むしろバッテリーをリヤに搭載したことで前後重量配分は54対46とほぼ均等となっていることが、この自然なハンドリングを生み出しているのかもしれない。今回は試せなかったが、スポーツモードではオーバーステアのドリフトも楽しめるらしい。
普段の足はEVとして静かで快適さを満喫し、休日はロングドライブやワインディングでランボルギーニならではの走りを楽しむ。ウルスSEはクルマ好きが求めるSUVの理想形のひとつだ。正直ちょっと洗練され過ぎでは、という思いもあるが、それはあまりに勝手すぎるというものだろう。
REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2025年7月号
SPECIFICATIONS
ランボルギーニ・ウルスSE
ボディサイズ:全長5123 全幅2022 全高1638mm
ホイールベース:3003mm
車両重量:2505kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:456kW(620PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2250-4500rpm
モーター最高出力:141kW(192PS)/3200rpm
モーター最大トルク:483Nm(49.3kgm)
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前285/45ZR21(9.5J) 後315/40ZR21(10.5J)
0-100km/h加速:3.4秒
最高速度:312km/h
車両本体価格:3150万円
【問い合わせ】
ランボルギーニ カスタマーセンター
TEL 0120-988-889
https://www.lamborghini.com/jp