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Mercedes-Maybach EQS 680 SUV
電動車によるヒエラルキー作り

メルセデス・ベンツのハイエンドモデルをベースとして、現在3モデルを展開しているメルセデス・マイバッハ。その初フル電動SUVとなる「EQS 680 SUV」に試乗した。ベースはメルセデス・ベンツ EQS SUVだが、内外装、装備そして乗り味の全方位でラグジュアリーを再定義する、ショーファーの似合う1台に仕上がっていた。
車両本体価格は2790万円で、これは「メルセデス・ベンツ EQS 450 4マティックSUV」(1629万円)の約1.7倍にあたるが、後述の室内のしつらえなどはもちろん、パフォーマンス面で大きな差がある。前後アクスルに備えたモーターによるAWDという成り立ちは同じだが、680のシステム最高出力658PS、同最大トルク955Nmに対して、450は360PSと800Nmにとどまる。まあ、これでも十分すぎるスペックではあるのだが。ともあれエンジン(排気量)のない電動車によるヒエラルキー作りは難しい。
威風堂々とした存在感を放つエクステリアは、専用のマイバッハグリルとリヤバンパー、さらに22インチホイールなどを備え、マイバッハらしさを前面に押し出す。さらに試乗車には手塗りのツートーンペイント(285万9000円!)を含む数多くのオプションが装備され、オプション込みの総額は約3450万円にも達していた。
荘厳な雰囲気の中にフレンドリーな一面





この手のラグジュアリーSUVは購入者の年齢が比較的若く、自ら運転することを厭わないという。まずは荘厳な雰囲気で重々しく開閉する電動ドアを開けて運転席に乗り込む。MBUXハイパースクリーンを備えた先進的なインパネと、上質なクリスタルホワイトナッパレザーインテリアが庶民(私)を威圧する。超弩級ボディサイズの割に運転席は囲まれ感が強く意外と狭いのが第一印象。特にセンターコンソール周辺の左膝周りに圧迫感を感じる。この手のラグジュアリーカーの割にコクピット感が強い。ショーファーたるもの忍耐が必要なのだろうか。
全長5125mm、全幅2035mm、全高1720mmというボディサイズだが、走り出すとまた異なる印象を受ける。リヤアクスルステアリングを標準装備することで、最小回転半径は5.1mという意外なまでの取り回しやすさを実現している。狭い駐車場からも一発で出られるフレンドリーな一面は、初対面でコワモテのややこしい人かなと思ったら、実は気配り屋さんのお金持ちだったという人に出会った時のような嬉しい意外性だ。
電動車らしく走行中の静粛性は極めて高い。アクセルペダルはやや重めの感触だが、それがかえってこのクルマのキャラクターにふさわしいとも言える。だが踏み込めば0-100km/h加速4.4秒というだけあって、3t超の巨体をものともしない俊足を誇る。ラグジュアリーの極みでも、電動車的な瞬間的に欲しいだけの加速をしてくれる。
特等席は助手席かもしれない







今度は恐る恐る後席に足を踏み入れる。そこはまさに移動するスイートルーム。ウッドトリム、自動で開閉する電動コンフォートドアなど、乗員をもてなすための装備を完備している。
前述の通り長大なホイールベースは3.2m。試乗車はオプションのファーストクラスパッケージ(123万6000円)を装着しており、後席は2名掛けの独立シート仕様だ。格納式テーブルやクーラーボックスも加わる。リラクゼーション機能付きのシートは、スイッチひとつでほぼフルリクライニングが可能。オットマンやクーラー/ヒーターも完備している。ホットリラクシングやふくらはぎマッサージなど、至れり尽くせりの機能を試乗時間の関係で10秒ずつ小刻みに試した。
一方で、重量級ボディゆえか、肝心の後席では一般道の突き上げを感じやすく、前席のほうが乗り心地は優れているように感じた。このクルマの特等席は助手席かもしれない。なお、唯一気になったのは雨天時の乗降性だ。取材日は雨だったのだが、サイドステップがやや張り出した程度で面積が小さいため滑りやすく、しかも裾を汚すリスクもある。だが、これはショーファーかホテルのベルボーイが踏み台を用意してくれれば問題ないだろう。
10年または25万kmのバッテリー性能保証


正味1時間の試乗でメーターディスプレイに示された平均電費は3.6km/kWhだった。バッテリー残量は60%だったが(最初から少なかった)、それでも走行可能残距離は306kmで、その表示の下に最大で347km、最小207kmと表示されていた。118kWhの大容量リチウムイオンバッテリーを搭載し、航続距離は最大640km(WLTC)を謳うだけのことはある。実燃費は後日、数百kmのロングツーリングを実施したので改めて報告したい。ちなみに日本仕様にはV2HおよびV2L機能が標準装備され、非常時には外部給電も可能だ。
ところで、どのような人にEQS 680 SUVをお勧めすればいいだろう? 現在フル電動車に興味を示すようなアーリーアダプターが一巡して、ウクライナ戦争やトランプ関税など波乱の要素も多く、EV市場の低成長化は避けられない。ユーザーマインド的にも未だ充電の不便が付きまとうEVに二の足を踏む人は多く、買ったとしても大抵1年、長くて2年程度で手放す人が多いという。
メルセデス・ベンツ日本では、EQS SUVに関して10年または25万km(の先に到達した条件)で70%のバッテリー性能を保証しているが、反面そのくらいの距離と時間でそういった状態になるとも言える。刹那的に今を楽しめる人へ、というのが結論だろうか。
PHOTO/平野陽(Akio HIRANO)、GENROQ、メルセデス・ベンツ日本
SPECIFICATIONS
メルセデス・マイバッハ EQS 680 SUV
ボディサイズ:全長5135×全幅2035×全高1725mm
ホイールベース:3210mm
車両重量:3050kg
モーター:交流同期電動機
モーター最高出力:前174kW(237PS)、後310kW(422PS)
モーター最大トルク:前346Nm、後609Nm
システム最高出力:484kW(658PS)
システム最大トルク:955Nm
トランスミッション:1速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前4リンク 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/40R22 後275/40R22
車両本体価格:2790万円