【フォーミュラE】ワンメイクレースタイヤを供給するハンコックの開発の裏側

「1種類のタイヤで“全天候”に挑む」ハンコックが語るフォーミュラE用レースタイヤ開発の裏側

PHOTO/Formura E
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EVレースの最高峰、フォーミュラE。その足もとを支えるのがハンコックのレーシングタイヤ「iON Race」だ。現在3.5世代マシンと言えるGEN3 Evo用に、1年を通じて1スペック、天候もコースも問わない過酷な条件下で性能を発揮するレースタイヤを、彼らはどのような思想と技術で作り上げたのだろうか?

フォーミュラEにおけるタイヤ空気圧と温度管理

ABB FIAフォーミュラE世界選手権において、ワンメイクタイヤを供給するハンコックタイヤは、東京E-Prixで開催されたプレスカンファレンスにて、タイヤ空気圧および温度管理に関する技術の一端を明かした。

登壇したのは、ハンコックのモータースポーツ部門を率いるマンフレッド・ザントビヒラー氏と、TPMSセンサー技術を担うアルミン・ヨース氏。両氏の解説から、フォーミュラEで求められる繊細なタイヤ管理の最前線が垣間見えた。

フォーミュラEではドライ/ウエット兼用の1種類のみしか使えないため、「どんな条件でも性能を発揮するバランス」という難題が技術陣に課されている。これを支えるのが、温度・空気圧・路面状況を読み解く精緻なセンサーネットワークである。

FIA公認センサーが管理する“空気圧レンジ”

ザントビヒラー氏がまず強調したのは、空気圧の厳格な管理体制である。フォーミュラEではFIAによって最小値と最大値が明確に定められており、全車共通のセンサーによって常時モニタリングされているという。

「空気圧の最低・最高値はFIAが管理し、その範囲内であればチームが自由に設定可能です。ドライバーによっては下限ギリギリを好む場合もあれば、上限寄りを選ぶ者もいます」とザントビヒラー氏。空気圧が適正範囲を外れた場合、FIAが警告あるいはペナルティを科す可能性があるという。その判断を支えるのが、ハンコックが全車に提供する高度なTPMS(タイヤ空気圧モニタリングシステム)だ。

一方でヨース氏は以下のようにコメントした。

「センサーは空気圧だけでなく、リム温度や湿度など複数のパラメータを収集しています。FIAは全車両の値をリアルタイムで把握しており、公平性を担保しています」

このセンサーにより、各チームは自車のデータのみを確認できるが、FIAとハンコックは全車両のデータを包括的に監視できる体制だという。

適正温度管理がレースの鍵を握る

タイヤのワーキングウィンドウ、つまり適正温度帯の確保も、パフォーマンスに直結するという。ザントビヒラー氏は、タイヤの温度レンジについて次のように語った。

「F1などのスリックタイヤでは100〜110℃を超えることもありますが、我々の『iON Race』は2桁台の温度に収められています。ただし市販車よりは高温です」

一般的な市販車用タイヤはおおむね40〜50℃が通常運用の範囲だというが、フォーミュラEではそれを上回る温度での性能安定性が求められる。タイヤがこの適正温度に達しなければグリップを発揮できず、逆に過熱しすぎれば早期劣化につながる。

単一仕様で求められる究極の対応力

PHOTO/Formura E
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ザントビヒラー氏はさらに「温度は常に管理の鍵です。ドライバーはタイヤを正しい温度レンジに入れることに非常に敏感です。それが走行ラインやブレーキングにも影響を与えるのです」と語った。

このように、ハンコックのGEN3 Evo用「iON Race」は、高度な空気圧制御技術と温度最適化戦略を備え、FIAとの連携のもとで安全性とパフォーマンスの両立を図っている。空気圧と温度の“目に見えない戦い”こそが、モータースポーツにおける現代タイヤ開発の最前線なのだ。

昨年のチャンピオン、タグ・ホイヤーポルシェフォーミュラEチームのパスカル・ウェーレイン。(PHOTO/Formula E)

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5月17〜18日、東京・お台場で2024/2025年シーズン第8戦&第9戦、ABB FIAフォーミュラE世界選手権「東京E-Prix」が開催された。そのフォーミュラEに2019年のから参戦するタグホイヤー・ポルシェ フォーミュラEチームのピットを訪れて取材した。

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著者プロフィール

吉岡 卓朗(Takuro Yoshioka) 近影

吉岡 卓朗(Takuro Yoshioka)

大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わりたいと、1999年に…