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GT3 RSとターボSの比較試乗は「ランデブー」

GENROQ本誌で「ナンバープレートを付けた一流のレーシングカー」と表現しているポルシェ 911 GT3 RSと「快適な公道用スポーツカー」の911 ターボS。比較試乗の舞台には、ニュルブルクリンクと周辺のアウトバーンおよびワインディングロードが選ばれた。英語では以下のように表現されている。
We invited them to a rendezvous – the Nürburgring welcomes us, and the surrounding Eifel countryside lures us with curves and empty highways.
直訳すると、「我々は彼ら(=2台の911)をランデブーに招いた – ニュルブルクリンクが私たちを歓迎し、アイフェル地方のカントリーサイドではコーナーやクルマ通りのない高速道路が私たちを誘惑する」となる。ニュルブルクリンクと周辺道路が、この2台の試乗にうってつけだということだ。
ここで目についたのが“rendezvous”(ランデブー)という単語。語源はフランス語で、「行く」や「出向く」という意味の動詞“render”(ランドル)の命令形“rendez”(ランデ)と、「あなた(たち)」を表す “vous”(ヴ)を合わせた語で、直訳すると「あなたたちは行きなさい」となる。もともとは軍事用語だったようで、「この場所に集結せよ」といった言葉から、現代では待ち合わせや予約などの意味で日常的に使用されている。ちなみにフランス語ではrendez-vousと綴り、間にハイフンが入る。
この記事にあるように、ランデブーは英語でも外来語として同じような意味に用いられるが、英語では単なるmeetingやappointmentよりも抒情的ニュアンスが込められている。この文脈では、伝説的な911の中でも特に個性的なGT3 RSとターボSという2台が揃ったことを、 “We invited them to a rendezvous” と邂逅的に表現している。そのほか、英語では宇宙空間におけるロケットのドッキングにもランデブーが用いられるなど、オリジナルのフランス語よりも特別感のある言葉として使われているようだ。
オリジナルとはニュアンスが異なる外来語


このほかにも、英語や日本語にフランス語由来の外来語は少なくない。「クーデター」もフランス語の“coup d’État”が語源だ。“coup”(クー)は突然の行動や一撃などを意味し、大文字で始まる“Etat”(エタ)が国家や体制を意味するため、クーデターで「国家/体制への一撃」となる。日本語や英語では暴力的や非合法なニュアンスを含むのが通常だが、フランス語の場合は必ずしもネガティブではなく、やや中立的に “制度の大胆な変化” などにも用いられることがあるようだ。
同じフランス語由来の言葉でも、アバンチュール(aventure)は意味がかなり異なった形で使われている。日本語の場合、ほとんどが恋愛の文脈で用いられるだろう。浮気や一夜限りの関係など、いわゆる「火遊び」を意味するが、フランス語では幅広く、思いがけない出来事や運命的な展開などに使われる。
ちなみに、英語では外来語にはなっておらず、adventure(アドベンチャー)がフランス語のアバンチュールに相当する。アドベンチャーにも恋愛的なニュアンスはあまり含まれず、冒険や探検、わくわくする挑戦などを意味することが多い。また、日本語のアバンチュールとは異なり、基本的にアドベンチャーは肯定的な意味をもつ。
外来語として日本語に定着している言葉に関しても、他の言語においてはニュアンスに違いがあるケースも少なくない。こういったことも意識すると、書き手がクルマに感じた印象を正確に理解することができるだろう。
PHOTO/PORSCHE AG