【世界自動車メディアに学ぶ表現学 vol. 06】ポルシェ 911 GT3 RSと911 ターボS比較試乗に見る英語表現②外来語に注意

ポルシェ911 GT3 RSと911 ターボS比較試乗に見る英語表現②【世界自動車メディアに学ぶ表現学 vol.06】

今回は外来語の使い方について紹介する。
今回は外来語の使い方について紹介する。
ワールドプレミア(世界初公開)の様子や日本未導入の新車試乗など、海外メディアならではの情報に簡単にアクセスできる今日このごろ。外国語による表現の真意が果たしてどこにあるのか迷うことも多い。この連載では、月刊『GENROQ』本誌に掲載された海外ジャーナリストの記事をベースに、その自動車の世界観を紹介する。第6回は前回に続き『GENROQ』2025年7月号から。異なる仕様のポルシェ 911を比較試乗した記事の中から、英語にもある「外来語」を取り上げる。

GT3 RSとターボSの比較試乗は「ランデブー」

GT3 RSとの "ランデブー" にやってきたポルシェ 911 ターボS。
GT3 RSとの “ランデブー” にやってきたポルシェ 911 ターボS。

GENROQ本誌で「ナンバープレートを付けた一流のレーシングカー」と表現しているポルシェ 911 GT3 RSと「快適な公道用スポーツカー」の911 ターボS。比較試乗の舞台には、ニュルブルクリンクと周辺のアウトバーンおよびワインディングロードが選ばれた。英語では以下のように表現されている。

We invited them to a rendezvous – the Nürburgring welcomes us, and the surrounding Eifel countryside lures us with curves and empty highways.

直訳すると、「我々は彼ら(=2台の911)をランデブーに招いた – ニュルブルクリンクが私たちを歓迎し、アイフェル地方のカントリーサイドではコーナーやクルマ通りのない高速道路が私たちを誘惑する」となる。ニュルブルクリンクと周辺道路が、この2台の試乗にうってつけだということだ。

ここで目についたのが“rendezvous”(ランデブー)という単語。語源はフランス語で、「行く」や「出向く」という意味の動詞“render”(ランドル)の命令形“rendez”(ランデ)と、「あなた(たち)」を表す “vous”(ヴ)を合わせた語で、直訳すると「あなたたちは行きなさい」となる。もともとは軍事用語だったようで、「この場所に集結せよ」といった言葉から、現代では待ち合わせや予約などの意味で日常的に使用されている。ちなみにフランス語ではrendez-vousと綴り、間にハイフンが入る。

この記事にあるように、ランデブーは英語でも外来語として同じような意味に用いられるが、英語では単なるmeetingやappointmentよりも抒情的ニュアンスが込められている。この文脈では、伝説的な911の中でも特に個性的なGT3 RSとターボSという2台が揃ったことを、 “We invited them to a rendezvous” と邂逅的に表現している。そのほか、英語では宇宙空間におけるロケットのドッキングにもランデブーが用いられるなど、オリジナルのフランス語よりも特別感のある言葉として使われているようだ。

オリジナルとはニュアンスが異なる外来語

このほかにも、英語や日本語にフランス語由来の外来語は少なくない。「クーデター」もフランス語の“coup d’État”が語源だ。“coup”(クー)は突然の行動や一撃などを意味し、大文字で始まる“Etat”(エタ)が国家や体制を意味するため、クーデターで「国家/体制への一撃」となる。日本語や英語では暴力的や非合法なニュアンスを含むのが通常だが、フランス語の場合は必ずしもネガティブではなく、やや中立的に “制度の大胆な変化” などにも用いられることがあるようだ。

同じフランス語由来の言葉でも、アバンチュール(aventure)は意味がかなり異なった形で使われている。日本語の場合、ほとんどが恋愛の文脈で用いられるだろう。浮気や一夜限りの関係など、いわゆる「火遊び」を意味するが、フランス語では幅広く、思いがけない出来事や運命的な展開などに使われる。

ちなみに、英語では外来語にはなっておらず、adventure(アドベンチャー)がフランス語のアバンチュールに相当する。アドベンチャーにも恋愛的なニュアンスはあまり含まれず、冒険や探検、わくわくする挑戦などを意味することが多い。また、日本語のアバンチュールとは異なり、基本的にアドベンチャーは肯定的な意味をもつ。

外来語として日本語に定着している言葉に関しても、他の言語においてはニュアンスに違いがあるケースも少なくない。こういったことも意識すると、書き手がクルマに感じた印象を正確に理解することができるだろう。

PHOTO/PORSCHE AG

今回の記事は、ポルシェ 911 GT3 RSのエンジンサウンドを音楽とワインに例えて表現している。

ポルシェ 911 GT3 RSと911 ターボS比較試乗の英語表現①「クラシックとヘビメタ?」【世界自動車メディアに学ぶ表現学 vol. 05】

ワールドプレミア(世界初公開)の様子や日本未導入の新車試乗など、海外メディアならではの情報に簡単にアクセスできる今日このごろ。外国語による表現の真意が果たしてどこにあるのか迷うことも多い。この連載では、月刊『GENROQ』本誌に掲載された海外ジャーナリストの記事をベースに、その自動車の世界観を紹介する。第5回は『GENROQ』2025年7月号から。異なる仕様のポルシェ 911を比較試乗した記事の中から、比喩表現を取り上げる。

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石川 徹 近影

石川 徹

PRエージェンシーやエンジニアリング会社、自動車メーカー広報部を経てフリーランスに。”文系目線”でモビ…