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Aston Martin Valhalla
数多くの“スペシャル仕様”決定に立ち会った経験で

スーパーカーの仕様決め、いわゆるコンフィグレーションはいつだって楽しい。たとえ、それが自分のクルマ選びでなかったとしても、だ。もちろん自分で買ったクルマのコンフィグの方がドキドキは大きい。けれども友人のクルマであれ、今回のような体験取材であれ、スーパーカーが徐々に仕上がっていく様を見るのはやっぱりクルマ好きの心をえらく刺激する。
筆者はこれまでフェラーリのテーラーメイドや、ランボルギーニのアドペルソナムに加えて、パガーニやケーニグセグ、ゴードンマレーといったハイパーカーブランドでも本国での特別な仕様決めを手伝ったり経験したりしたことがある。マクラーレンやアストンマーティンなどオンラインも含めると相当な数の“スペシャル仕様”決定に立ち会ってきた。
特注にはクリエイティブな能力が必要



見ていて思うことは特注ってとても“難しい”ということ。「予算さえあれば、なんでもできる」わけだが、メニューからあれこれ選んで組み合わせることはできても、ないものからは選べない。それを考え出すにはクリエイティブな能力が相当に必要だからだ。例えばテーラーメイドでレザーシートをデニムに替えようと最初に思いついた人のように。それ故、実際にはカスタムオーダーのパターンまで用意されている場合が多かったりもする。
もちろん、実現の可能性を高めることもまたメーカーの仕事だ。実際のオーダー現場では他の顧客のオーダーも熟知した特注部門専任のデザイナーが寄り添ってくれる場合が多く、彼らのアドバイスで想像を膨らませながら、おぼろげなアイデアや漠然とした理想像をカタチにすることができる。トンチンカンな仕様にならないよう、全体のバランスを見極めることもまた、ブランドイメージを守ることと共に、彼らの重要な役割だったりする。
前置きが長くなってしまったけれど、何が言いたかったかというと、特注のコンフィグには経験豊富なアドバイザーがいた方が良いということ。で、今回、筆者はアストンマーティンの最新作、ヴァルハラのほぼ生産型(生産直前プロト)を実見するため東京・青山のブティックを訪ねたわけだが、なんとチーフデザイナー(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)のマレク・ライヒマンが直々にヴァルハラのデザインを解説し、その上でコンフィグレーションを手伝ってくれるという贅沢な時間を体験することができた。
Cカーが進化したかのようなシルエット




ヴァルハラの凄さは既報の通りだ。千馬力を超える2シーターのリヤエンジンスーパーカーで、次世代スーパーカーの基本システム(エンジン+電気モーター)を備えたプラグインハイブリッドカーである。「フェラーリ SF90 XX」の好敵手、と言えるだろうか。
ヴァルキリーとは違ってはっきりとロードカー寄りながら、1990年代のグループCカー(レーシングカー)が進化したかのようなシルエットをもつ。「ジャガー XJ220」や「XJ15」あたりを思い出す。それでいてどこからどうみてもアストンマーティンらしい優雅さを湛えるあたり、さすがはマレク率いるデザインチームの仕事である。
そんなヴァルハラを自分好みに仕立てる。テーマは“英国の地味”。ただでさえ派手なクルマだ。白系の人気カラーやF1イメージカラーなどに仕上げると、すぐに飽きてしまいそうだし、オモチャっぽく見えてしまう。電動走行も可能なPHVなのだから、ハイパーカーとはいえ実用域での気分を意識したコンフィグにしてみようと思ったわけだ。
キャリパーの色は〇〇がいい



マレクにそんなイメージを伝えると、即座に落ち着いたグリーン系のカラーパネルを自ら手に取ってみせてくれた。中でも気に入ったのはオリーブのように濃いアーデン・グリーン。シャンパンゴールドやピンクゴールドなども悩んだが、やっぱりグリーン系で進めてみることに。マレクもヴァルハラにはグリーンもよく似合うと太鼓判を押す。
基本カラーが決まるとクリカーボンパートをどうするか。グロス(艶あり)かサテン(艶なし)か。マレクの顔を見ながらサテンと言うと、彼もまた同時にサテンと言った。そもそもカーボン柄はもう飽きたので、というと苦笑い。かといって流行りのマーブル(スタンピング)はなんだか気持ち悪い。目立たないサテンが良い。
ディテールを順に詰めていく。ミラーカバーはボディ同色。耳だけ黒いのは苦手だから。鍛造ホイールはちょっと派手めのデザインに。けれども色はリキッド・チタニウム。ちょっとシャンパンゴールドっぽいけれど落ち着いた色合い。マレクも頷きながら“そうするとブレーキキャリパーはこれかな”とブラックを選んでくれた。さすが、わかっていらっしゃる。そうなのだ、キャリパーの色は基本、黒がよい。ブレーキは縁の下の力持ち、そんなに目立って欲しくないし、最近のキャリパーは大きいので下手に色をつけるとホイールのデザインが死んでしまう。
フロントグリルはアストンらしくアルミ削り出しカラー。縁取りなどグラフィックにはテーマ3を選んでヴァルキリーゴールドに。ここだけ少し派手にしてみる。テールパイプもチタニウム。欲を言えばシュノーケルに同じくゴールドの縁取りを入れてみたいけれど、それはQ(特注)対応になる。
筆者が秘めた強い思い


お次はインテリア。マレクは“タンやブラウン系かな”という。確かにブルーやグリーンの外装色には茶系がよく似合う。けれども筆者には今、強い思いがあって、それはグリーン外装にグリーン内装を選んでみたいという願望だ。内外装のコーディネーションに黒や白以外で同系色を選ぶには勇気が必要だし、場合によっては目も当てられぬ結果になる。ましてやグリーンは難しい色だから、余計に注意が必要で、だからこそマレクが手伝ってくれる今回、試してみたかったコンフィグだった。
グリーン系はどう?と恐る恐るマレクに聞く。“ありだよ!”とマレクの即答にひと安心。インテリアレザーはシート系とダッシュボード系に分けることができるが、どちらもグリーンに。しかもボディ色の同系のアーデン・グリーンがあった。できるだけグリーンで埋め尽くさなければ緑内装を選ぶ意味がない。ステッチはエクステリアのゴールドアクセントに合わせてカッパータンメタリックを選んでくれた。カーボンパートはもちろんサテン。
空想のヴァルハラ・ニシカワ号、完成である。いやぁ、実車でみてみたい! どなたかこの仕様でオーダーしてみてくれませんか?(笑)
PHOTO/Aston Martin Lagonda、西川淳(Jun NISHIKAWA)