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1 Series M Coupe
貴重なコンパクトFRクーペの真打として

E36型「3シリーズ コンパクト」、E46型「3シリーズ ti」に続く、BMWのボトムレンジを担うコンパクトモデルとして2004年にデビューしたE87型「1シリーズ」。ホイールベースを2660mmに短縮したE90型「3シリーズ」のプラットフォームをベースに、全体の約60%のコンポーネンツを共用しており、Cセグメントにおいては珍しい、縦置きFRレイアウトを継承していたこともあり、デビュー直後から走りの質の高さには定評があった。
その期待に応えてBMWは2007年に2ドアクーペ(E82型)、2ドアカブリオレ(E88型)を相次いでリリース。中でも306PSを発生する2979cc直列6気筒DOHCツインターボを搭載した「135iクーペ」は、当時としては貴重なコンパクトFRクーペとして人気を博すこととなる。
そこに真打ちとしてBMW M社から2010年末に登場したのが、2007年の東京モーターショーで公開された「1シリーズ tiiコンセプト」の市販バージョンというべき、「1シリーズ Mクーペ」である。
迫力あるエクステリアへと変貌


ベースとなったのは135iだが、ホイールベースはそのままに前後トレッドを1542mmに拡大し、タイヤサイズもフロント245/35R19、リヤ265/35R19へとサイズアップ。それに伴い前後フェンダーも大胆なブリスターフェンダーを採用し、エアカーテンと呼ぶフロントホイールアーチの整流効果を目的とした大型フロントスポイラーを装着するなどボディもモディファイされ、全長4380mm、全幅1803mm、全高1420mmとベースモデルよりも長く、幅広い迫力あるスタイルへと変貌を遂げた。またボディが若干大型化したにもかからわず、ムーンルーフの廃止などによって、車両重量は135iより35kgほど軽い1495kgに仕立てられている。
サスペンションは形式こそフロントマクファーソンストラット、リヤ5リンクの組み合わせだが、E90型「M3 GTS」用を流用するとともに、前後サブフレームをアルミ製に置き換えるなど大幅にモディファイ。リヤタイヤに適切なトルク配分をおこなう、可変式Mディファレンシャルロックのほか、DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)、ABS、ASC(アンチ・スリップ・コントロール)は、DBC(ダイナミック・ブレーキ・コントロール)、CBC(コーナリング・ブレーキ・コントロール)といったデバイスも装備しており、ブレーキもフロント360×24mm、リヤ350×24mmのドリルドベンチレーテッドディスクが奢られている。
限定販売とアナウンスされるも



ノーズに収まる直列6気筒DOHCツインターボ“N54”エンジンは2979ccの排気量こそ変わらないものの、最高出力340PS/5900rpm、最大トルク450Nm/1500〜4500rpm(オーバーブースト使用時は500Nm)へと大幅にパワーアップ。ギヤボックスは6速MTのみの設定となっていた。
これらの改良によって、1シリーズ Mクーペは135iの5.3秒を大きく上回る0-100km/h加速4.9秒を記録。ハンドリングに関しても定評のある135iをさらに上回る高評価を得たものの、ホモロゲーションの問題もあり、1シリーズ Mクーペがレースに参戦することはなかった(その代わりMOTO GPのオフィシャルセーフティカーに採用されている)。
そのほかインテリアにおいてもスポーツシート、ボストンレザー、アルカンターラのトリム、M仕様のインストゥルメントパネル、スポーツステアリングなど専用装備で仕立てられていた1シリーズ Mクーペは当初、2700台の限定販売とアナウンスされていたが、5万500ユーロ(当時のレートで約560万円)という価格も相まって世界中からオーダーが殺到。残念ながら日本市場への正規輸入は行われていないが、最終的に生産台数は6309台へと引き上げられている。