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Audi Q6 e-tron quattro
随所に見られるPPE(プレミアムプラットフォームエレクトリック)の恩恵

しっとりとしたステアフィール、意固地なほどに徹底された直進安定性……品川のアウディジャパンから借り出した「Q6 e-tron」(以下、Q6)に乗った瞬間「懐かしいなぁ、この感覚」と独り言ちている自分がいた。
実は昨年6月スペイン・バスク州で開催された国際試乗会で2日間に渡り、ワインディングからハイウェイにいたる様々なシチュエーションでQ6を体感させていただいた。美食の街として有名なサンセバスチャンの石畳、箱根ターンパイクような超高速ワインディング、あらゆるシーンでQ6は卓越した乗り心地と、アウディらしい路面からの潤沢なフィードバックに満ちたステアフィールを味わわせてくれた。また立体的なシングルフレームやシャープでエッジの効いた、もはやSUVとは思えない未来的でモダンなデザインが、スペインの街並みに静かに溶け込んでいたのを今でも鮮やかに思い出す。
あれから約1年、ようやく3月に日本発表されたQ6に私は今乗っている。
ここでQ6の概要にについて改めて触れておこう。Q6はアウディとポルシェが共同開発したBEV専用のPPE(プレミアムプラットフォームエレクトリック)を採用したアウディ初の市販モデルである(ちなみにポルシェは新型マカンにPPEを採用)。生産はアウディ本社のあるインゴルシュタット工場で行われ、モーターのみハンガリーのジェール工場で生産される。いわばアウディ濃度100%のプレミアム電動SUVというわけだ。
高度に洗練された最新インフォテインメントシステム


実はQ6はアウディのEV戦略の根幹を成す重要なモデルである。今までのアウディ電動SUVは、コンパクトSUV「Q4 e-tron」とラージSUV「Q8 e-tron」の2モデルのラインナップ構成であった。その間を埋めるミドルサイズSUV「Q6」はアウディにとって(アウディジャパンにとっても)喉から手が出るほど欲しかった存在なのだ。
Q6のラインナップはRWDの「Q6 e-tron」、AWDの「Q6 e-tronクワトロ」、スポーティな「SQ6 e-tron」の3モデルが用意される。Q6クワトロとSQ6はフロントアクスルにASM(非同期モーター)、リヤアクスルに新開発のPSM(永久磁石同期モーター)を搭載することで最高出力285kW、最大トルク580Nm(SQ6は360kW/580Nm)というアウトプットを達成している。ちなみに低負荷走行時はフロントのASMは作動せず、PSMのみの後輪駆動となる。
フロア下には12モジュールと180のプリズムセルで構成された総容量100kWh(総電力94.9kWh)のバッテリーが敷き詰められる。このバッテリーは800Vテクノロジーを採用しているので、日本仕様は最大135kWのCHAdeMO急速充電に対応し(欧州仕様は最大270kW出力に対応!)、約35分で10%から80%まで充電容量が回復するという。ちなみに一充電走行距離はQ6 e-tronクワトロが644km、SQ6が672kmという足の長さを実現している。
ゆったりと寛げる後席空間


実際の走りはBEVとはいえ、紛う方なき“アウディ”そのものだ。先述したとおり、ドライバーはその鬼のように安定した直進安定性に驚愕し、路面をまるで掌で触れているかのような潤沢な路面からのフィードバックを伝えるステアフィールに心を打たれるだろう。その純度はPPEを新採用したQ6で、さらに増したように思える。
試乗した人は驚くと思うが、Q6は従来のBEVのイメージを覆す走りの持ち主だ。BEVといえばアクセルを踏んだ刹那、有り余るトルクを武器にヘッドレストに頭を打ち付けるほどの加速力を味わえるモデルが多いが、そのような不躾な振る舞いはこのクルマにはない。アクセルを踏んだぶんだけリニアに加速が伸び、ドライバーとの一体感をいかに重視しているのかがわかる。洗練された大人のためのBEVなのだ。
回生ブレーキは前車に近づくと自動で減速を行う「AUTO」、「ワンペダル」、任意で回生の強さをコントロールできる「マニュアル」を選択できる。驚いたのが日常の制動の約95%は回生ブレーキで賄えるという事実だ。フルブレーキでもしない限り、ブレーキパッドの出番はないだろう。
広大なラゲッジ空間は実に魅力的だ

試乗車は20インチのPゼロを履くSラインパッケージ付きのQ6 e-tronクワトロ(エアサス仕様)だった。5つの走行モードが用意されるが、筆者がおすすめするのは「バランスド」だ。適度なステアリングの重み、しっとりしたライドフィール、ワインディングでの気持ちの良いロール感、すべてにおいて名称のとおりバランスがよい。
Q6のもうひとつの魅力は洗練を極めた未来的な最新インフォテインメントシステムだろう。2枚のディスプレイを繋ぎ合わせたカーブドOLEDスクリーンは高精細でタッチするたびに喜びさえ覚えた。助手席にはユニークなアクティブプライバシーモードを備えた10.9インチのMMIパッセンジャーディスプレイを備える。助手席の乗員が移動中に映画やストリーミング再生を楽しめるので、家族やパートナーも喜ぶこと請け合いだろう。
極上のステアフィールに昇天すること間違いなし!

国際試乗会の時にも感じたが、乗るたび、触れるたびに、Q6の際立つ洗練性や美しさに心を奪われる。他のBEVでは決して味わえない体験をもたらす稀有なSUV。それが私の結論だ。
REPORT/石川亮平(Ryohei ISHIKAWA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2025年8月号
SPECIFICATIONS
アウディQ6 e-tron クワトロ
ボディサイズ:全長4770 全幅1940 全高1670mm
ホイールベース:2895mm
車両重量:2420kg
モーター
システム最高出力:285kW(381PS)
システム最大トルク:580Nm(59.1kgm)
トランスミッション:1速固定
駆動方式:AWD
EV航続距離(WLTP):644km
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/65R18 後255/60R19
車両本体価格:998万円
【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/