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Ferrari Amalfi
モンテビアンコ作戦

情熱の国イタリア。ゆえにイタリアンブランドというと“熱い想い”の面ばかりが強調されて、緻密な計算や戦略性といった冷静さに少々欠けていると思われがちではないだろうか。自動車ブランドでいえばフェラーリやランボルギーニのように成功したブランドがある一方で、歴史はあるけれどどうも上手くいかないブランドも目立っているから、余計そう見えてしまうのかもしれない。
裏を返せば“上手くやっているブランド”は我々には思いもよらない綿密な戦略性を持って事業を進めている可能性が高い、とも想像できる。ランボルギーニ社はフォルクスワーゲン/アウディ傘下にあって“然もありなん”。そしてピュアなイタリア企業(登記上は企業向けに優遇税制を敷くオランダに本社フェラーリN.V.を置く)であるフェラーリ社だって実はなかなか強かにやっているのではないか、と思う。
私は密かにフェラーリの戦略を“モンテビアンコ(仏語でモンブラン)作戦”と呼んでいる。自動車業界における巨峰といえばもちろん我らがトヨタで、エベレストに相当する。台数、売上、企業価値、全てが世界の自動車界においてトップなのだから。
登山に例えるなら4合目以降


一方のフェラーリはというと当然ながら生産台数ではトヨタの約1000分の1だし、売上でも約50分の1だ。けれども企業価値では5分の1にまで迫っている。これがかのモンテビアンコに似ている。モンブランという山は絶対的な高さで“世界高い山ランキング”の100位以内どころか500位くらいに位置すると思われるのだが、その大陸における“突出度”(プロミネンス)で一躍世界の11位に躍り出る。
そして今もなおその界隈で突出した高い山を目指し日々戦略的に成長を続けている。F1を頂点とし裾野(=ファン層)を広げることに余念がない。高い山の裾野は広い。つまり裾野が広ければ山は高くなるのだった。
1000円のステッカーから10億円のF1マシンまで。“跳ね馬”を手に入れる方法は五万とあれど、登山に例えるなら4合目以降あたりから現代のリアルな跳ね馬乗りになるだろうか。
各階層をきちんと走破するほかない


実は“フェラーリ山”の標高がまだ今ほど高くはなかった頃、頂上はもちろんF1だったけれど、すぐ下の9合目にレーシングカーシリーズがあって、8合目がすでにロードカーだった。
けれども今は違う。7合目から上はチャレンジからXXプログラム、F1クリエンテなどサーキット一色。その下のロードカーも4合目の認定中古車やGTカー(新車)のカスタマーから、5合目のミドシップカーやV12モデルカスタマー、クラシックモデルコレクター、そして6合目以上の限定モデルカスタマー(多くは今や7合目と被る)へ至る、といった階層になっており、さらに同じ層であってもアトリエやテーラーメードといったオーダーの仕方で位をつけるなど、見事に細分化されているのだ。
カスタマーになれば各階層をきちんと走破して登山するほかない(F1ドライバーは別だけれど)。要するにマラネッロからみれば、広い裾野を利用して各層を事細かに積み重ねていくことで富士山のように美しく聳え立つ山型を保っているのだ。上へ上へと成長するために……。
ファーストフェラーリの横にふさわしい実用モデル


そう考えると、このたびデビューした「アマルフィ」は4合目の中でも非常に重要な役割を担っていることが分かる。2+のGTクーペというカテゴリーは「カリフォルニア」に始まった。当時、新車で買える最廉価のフェラーリといえばV8ミドシップモデルで、多くのカスタマーは普段乗りにドイツ産やイギリス産の高級GTカーをチョイスしていた。またフェラーリに興味があっても2シーターのミドシップでは実用性がなさすぎて購入へのハードルが高いという調査結果もあった。
そこで当時のマラネッロ首脳陣は考えた。カスタマーのガレージに置かれたファーストフェラーリの横にふさわしい実用モデル(GT)を開発しようじゃないか。そうして生まれたのがカリフォルニアであり、その戦略は見事に的中した。「ベントレー コンチネンタルGT」や「メルセデスAMG SL」の代わりになり、また多くの新規ユーザーを取り込むことに成功した。つまり、それまでエントリーだった6合目あたりが膨らんで4合目、5合目を作り出したのだ。裾野がさらに、そして形を崩すことなく広がったというわけだった。
認定中古車から新車の感動というステップ

アマルフィはそれゆえ、マラネッロにとって最も重要なモデルのひとつと今やなっている。「ポルトフィーノ」や「ローマ」といった歴代GTモデルの認定中古車でフェラーリファミリーの一員となった“新人カスタマー”に、もう一度、フェラーリを買って良かったという“感動”を新車で与えるという大きな使命を担っているからだ。
マーケティング担当のトップであるエンリコ・ガリエラは「フェラーリらしいパフォーマンスを感じさせる一方で、ライフスタイル的な楽しみ方にも十分に使えるモデルとして進化させることができた」と胸を張る。要するに認定中古車で入門希望者が購入できる歴代モデルはもちろん、直近のローマオーナーがアマルフィに乗り換えても「乗った瞬間に感動できる」クルマになっているということだろう。
カリフォルニアからポルトフィーノへ。ローマからアマルフィへ。スタイリングの系統は2世代ずつで代わる、という流れもまたマラネッロの伝統に則しているといっていい。