【フェラーリ名鑑:20】大ヒットを記録した348/355シリーズの誕生

人気のV8ミッドシップフェラーリの発端「348&355」はなぜ好評だったのか(1989-1997)【フェラーリ名鑑:20】

【フェラーリ名鑑:20】大ヒットを記録した348/355シリーズの誕生
308/328シリーズで成功を収めたフェラーリは、満を持して348/355シリーズをリリースする。
コンパクトなV8エンジンをミッドシップし軽快なパフォーマンスを発揮した308/328シリーズは、フェラーリを大きく成長させる契機となった。同シリーズの後継としてフェラーリが選んだのはV8エンジンの縦置き化であり、現在も絶大な支持を得ている348/355シリーズをリリースする。

Ferrari 348 / 355 Series

1989年、主力モデル「348 tb」&「348 ts」デビュー

1989年にデビューを飾ったフェラーリの新型ミッドシップV8搭載モデル「348 tb」。

フェラーリの8気筒ミッドシップ、308/328シリーズは、より身近なフェラーリとしてセールス面では大きな成功を収めたモデルとなった。フェラーリにマス・プロダクション、すなわち大量生産という意識が生まれたのも、おそらくは308/328シリーズを通じてのことで、そこには親会社であるフィアットの意思が強く反映されていたことは間違いない。

最終進化型の328 GTB/GTSの生産は、それまでのフェラーリとしてはきわめて短く、約4年という短期間で終了している。それはこれ以上の量産を行うには、328に使用される鋼管スペースフレームやボディの製作工程が複雑なことと、品質管理が難しいことが直接の理由だった。結局フェラーリは、フィアットの意を受けて328シリーズに続く新世代のV型8気筒ミッドシップモデルを開発。それが1989年のIAA(フランクフルト・モーターショー)で発表された「348 tb」と「348 ts」の両モデルだった。

テスタロッサにも通じるデザイン

テスタロッサで先鞭をつけたボディサイドの大型ルーバーを踏襲。デザインは引き続きピニンファリーナが担当している。

この両モデルは、ボディがクーペの「b(ベルリネッタ)」、タルガトップの「s(スパイダー)」であるかの違いがあるのみで、基本的にそのメカニズムは共通だ。

まず大きな話題となったのは、伝統の鋼管スペースフレーム構造を採用せずに、当時のスポーツカーでも主流となりつつあったモノコック構造を採用したこと。リヤには鋼管スペースフレームが残るが、サービス時にはリヤサブフレームと一体でエンジンを着脱できるため、整備性は大きく向上した。

ボディデザインはもちろんピニンファリーナによるもので、ボディサイドやリヤグリルなどにはテスタロッサにも共通する美しいルーバーが与えられ、エクステリアデザインのアイキャッチとなっている。

縦置きエンジン+横置きトランスミッション

車名に付された「tb」とは、横置き搭載されたトランスミッションと、クーペを示すベルリネッタから採られている。

ミッドに搭載されるエンジンは、排気量が3404ccに設定された90度V型8気筒。308/328シリーズとは異なり縦置きマウントされ、組み合わせられるトランスミッションは車名の「t(transverse)」が示すとおり横置きにマウントされる。

348シリーズはデビュー後にも、さまざまなマイナーチェンジが実施されていく。いくつかの例を記すと、1990年の途中からはシャシー強化とエンジンマネージメントシステムを変更。翌1991年から1992年にかけて、ダンパーやスプリングのセッティング変更が行われたともいう。

320PSに強化されたマイナーチェンジ版

写真上から348 GTS、348スパイダー、348 GTB。スパイダーのデビューに合わせてクーペとタルガトップはマイナーチェンジを行い車名も改められた。

そして1993年2月には、待望のフルオープン「348スパイダー」が誕生。同年11月にはクーペとタルガトップもスパイダーに合わせたマイナーチェンジを行い、ネーミングも「348 GTB」、「348 GTS」、そして「348スパイダー」と統一された。

エンジンはそれまでの300PSから320PSへと強化。レブリミットも7500rpmから7750rpmへとアップしている。

圧倒的な人気を誇る、F355シリーズ誕生

ビッグマイナーチェンジを行って1994年に発表されたF355シリーズ。ルーバーを廃してすっきりしたスポーティなアピアランスは今なお人気が高い。

348スパイダーは1995年まで生産が続くが、ほかのクーペとタルガトップ(GTBとGTS)は、1994年秋にビッグマイナーチェンジを受け、現在でも多くのフェラリスタから圧倒的な人気を集める「F355」シリーズへとモデルチェンジを果たす。

ボディのシルエットは348シリーズに共通したものだが、サイドのルーバーなどは廃され、よりスポーツ感覚に富んだエクステリアに改められた。

V8エンジンは5バルブ仕様に。後には6速セミATも追加

348のV8エンジンは大きく手が加えられ、5バルブ化や軽量パーツの投入、さらに1997年には2ペダルのF1マチックもラインナップされる。

348で採用されたモノコック構造はそのまま継承されているが、やはりここでも改良の手は入り、さらにミッドのV型8気筒エンジンも3495ccの5バルブ仕様となった。348では1本のコッグドベルトで駆動していたカムシャフトは、F355では各バンクに1本となり、耐久性や信頼性の向上を図っている。

高回転化に対応して鍛造アルミニウム製ピストンやチタン製コンロッドなどの軽量部品を贅沢に使用したのも、当時としては大きな話題となった。トランスミッションはデビュー当初こそ6速MTのみだったが、1997年には今に続く2ペダル仕様の6速F1マチック(セミAT)が追加設定されている。

大ヒットを記録した355シリーズ。フェラーリが本格的にマス・プロダクション化したことを示す象徴的なモデルだ。

最高出力で380PSを達成した355シリーズの人気は高く、GTB、GTS、スパイダーともに販売は非常に好調だった。振り返ってみれば、それは現在にまで続くフェラーリの成功劇、その第一幕といってもよい場面だったのかもしれない。

SPECIFICATION

フェラーリ 348 tb/348 ts

年式:1989年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(4バルブ)
排気量:3404cc
最高出力:221kW(300hp)/7200rpm
乾燥重量:1393kg
最高速度:275km/h

フェラーリ 348 GTB/348 GTS/348スパイダー

年式:1993年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(4バルブ)
排気量:3404cc
最高出力:235kW(320hp)/7200rpm
乾燥重量:1370kg
最高速度:280km/h

フェラーリ F355 GTB/F355 GTS/F355スパイダー

年式:1994年(スパイダーのみ1995年)
エンジン:90度V型8気筒DOHC(5バルブ)
排気量:3495cc
最高出力:279kW(380hp)/8250rpm
乾燥重量:1350kg
最高速度:295km/h

フェラーリ 355 F1 GTB/355 F1 GTS/355 F1スパイダー

年式:1997年
エンジン:90度V型8気筒DOHC(5バルブ)
排気量:3495cc
最高出力:279kW(380hp)/8250rpm
乾燥重量:1350kg
最高速度:295km/h
トランスミッション:6速セミAT(F1マチック搭載車)

※すべてメーカー公表値

解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

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著者プロフィール

山崎元裕 近影

山崎元裕

中学生の時にスーパーカーブームの洗礼を受け、青山学院大学在学中から独自の取材活動を開始。その後、フ…