1967 Porsche 911 Targa 【ポルシェ図鑑:19】

【ポルシェ図鑑】「ポルシェ 911タルガ(1967)」911的オープンエアモータリングの解釈。

ポルシェ 911 タルガのフロントスタイル
911シリーズのバリエーションモデルとしてデビューしたオープントップボディを採用する911 タルガ。その車名はポルシェが活躍したレース、タルガ・フローリオに由来する。
現代の911シリーズにもラインナップされるタルガボディは初代911から登場し、オープンボディでありながら確かな安全性能を備えつつ独特のアピアランスで高い人気を誇る。その出自は北米マーケットからの要望であり、ロールオーバーバーを備えたオープンモデルの代名詞になった「タルガ」の名称は、ポルシェ 904 GTSが歴史的な勝利を獲得したレース「タルガ・フローリオ」から採られている。

1967 Porsche 911 Targa

北米市場からの要望で誕生した「911タルガ」

ポルシェ・ミュージアムが所蔵する最も古いタルガとなる1967年式の911 タルガ。ショートホイールベースのナローボディに、ジッパーで開閉可能なビニール製リヤウインドウをもつ。

ポルシェ 911初のボディバリエーションとして1965年9月に発表、1967年モデルからラインナップに加わった「911 タルガ」。北米市場からの要望に応えて誕生したモデルであったが、横転時の乗員保護を目的としたロールオーバーバー「タルガバー」を装着したスタイルは、他社のデザインにも大きな影響を与えることとなる。

北米市場はポルシェにとって最大のマーケットであり、その商品開発にも大きな影響を及ぼす存在であったことは356の項でも説明してきた通りだ。

中でもオープンモデルの需要は多く、356の時代にはカブリオレからスピードスターまで、様々なオープンモデルが用意されることとなった。当然、それは911の時代になっても変わらず、北米市場からは早い段階でオープンモデルの追加が求められてきた。

911がモノコック構造ゆえの策

ポルシェ 911 タルガのクレイモデルとフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ
911 タルガのクレイモデルと写る、若き日のフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ。

ところが、356のシャシーはそれ単体で走行ができるほど強固なもの(実際カブリオレを製作した際も、特にボディの補強は必要としなかったという)だったのに対し、911はルーフが応力外皮となったポルシェ初のモノコック構造を採用していたため、356のように屋根を切ればオープン・・・というわけにはいかなかった(事実ポルシェは901〈c/n:13360〉を使い、カルマンの工房でフルオープンの試作車を製作しているが、ボディに補強を加えても満足いく結果は得られずお蔵入りになった経緯がある)。

しかも間の悪いことにアメリカでラルフ・ネーダーの「Unsafe at Any Speed」が出版され、自動車の安全性が声高に叫ばれる(本の中でオープンカーの安全性には触れられてはいない)ようになった。そこで新たなアイデアを思いついたのが、911のデザイナーである“ブッツィ”ことフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェだった。彼はボディの補強を兼ねたステンレス製のロールオーバーバーを車体中央に据え、デタッチャブル式のハードトップをフロントフード内に格納できるデザインしてみせたのである。

シリーズの4割を占めるほどの人気に

ポルシェ 911 タルガのフロントスタイル
ポルシェの最大マーケットである北米はオープンモデルの需要が高く、911シリーズの販売は実にその4割をタルガが占めたという。

ちょうど1964年のタルガ・フローリオで904 GTSが1-2フィニッシュを飾ったこともあり、タルガと名付けられた911のオープン・バージョンは、1965年9月に発表。スタンダード911の生産遅延の影響で生産開始は1966年12月までにずれ込んだが、高い安全性と脱着が簡単かつ、耐候性の高いルーフは大いに受け、911の販売の4割を占めるほどの人気モデル(発売と同時に912にもタルガが追加されている)となった。

当初、タルガのリヤウインドウはジッパーで開閉可能なビニールタイプのものが使用されていたが、1968年モデルからオプションでガラス製のラウンドウインドウ(固定式)が用意されるようになり、1972年モデルからは標準装備となっている。

ナローシリーズの変遷

発売当初の広報写真。リヤフードの“PORSCHE”エンブレムが間隔の空いた配置になるのは、1967年モデル以降の識別点でもある。

ここで簡単に“ナロー時代”の911シリーズの変遷にも触れておくことにしよう。

1965年モデルから一般に向け「0シリーズ」と呼ばれる911の本格デリバリーがスタートしたが、まだ生産台数は少なくプリプロダクション的な意味合いも強かった。続く1966年モデルでキャブレターをソレックスからウェーバーに変更したことでエンジンの始動性、レスポンスが向上。生産台数も飛躍的に伸びるようになる。

その後、1967年モデルからエンジンを160hpにチューンした「911 S」と「タルガ」のデリバリーを開始。8月には2ペダル・セミATのスポルトマティック、110hpにディチューンしコストを抑えた「911 T」がデビュー。それに伴い130hpのスタンダードは「911 L」と呼ばれるようになった。

初のビッグマイナーチェンジで「Bシリーズ」へ移行

ホイールベースを延長し、6Jホイールの採用でフェンダー幅が広くなった1969年モデル(Bシリーズ)。EとSに機械式フューエルインジェクションが採用されたのも大きな特徴である。ちなみにタルガバーにエアアウトレットのスリットが入るのも、このBシリーズからとなる。

911に初めてのビッグマイナーチェンジが施されるのは1969年のこと。Bシリーズ(1967年モデルはAシリーズと呼ばれる)に進化した911最大の特徴は、操縦安定性向上のためホイールベースが57mm延長されて2268mmとなったことだ。またエンジンに関しては、スタンダードの「911 E」と「911 S」にボッシュ製の機械式フューエルインジェクションが標準装備となり、それぞれ最高出力が140hpと170hpに向上した。あわせて911 Eにはボーゲ製のハイドロニューマティック・サスペンションが標準装備となった(911 Tと911 Sはオプション。911 Eもオプションでノーマルサスをセレクト可能)のも特筆に値する。

そして1970年モデルで各モデルの排気量を一斉に2195ccへと拡大(Cシリーズ)。1971年モデル(Dシリーズ)では大きな変化はなかったが、アンダーボディに防錆処理が施されるようになった。

通称“ナロー”はFシリーズで幕を閉じる

フラット6の排気量を2.2リッターに拡大した1970年の911 S タルガ(Cシリーズ)。180hp /6500rpmの最高出力と199Nm/5200rpmの最大トルクを誇る。

最初の開発段階から911のフラット6は無理なく2.7リッターまで排気量を拡大できる余裕のある設計が採られていたが、ライバルの進化にあわせて1972年モデルの「Eシリーズ」で排気量を2341ccへと拡大する。またギヤボックスをより容量の大きな915型5速MTへと変更。フロントのエアダムの追加、サスペンションの改良、さらに慣性モーメントの低減を狙いオイルタンクを右Bピラー付近に移すなど走行安定性の向上が図られていた。

しかしながら右リヤフェンダーに新設されたオイル給油口がガソリン給油口と間違えられるトラブルが多発したため、1973年モデル(Fシリーズ)では再びオイルタンクをリヤオーバーハングに移動。この「Fシリーズ」をもって、いわゆる“ナロー”と呼ばれる911(Bシリーズからボディ幅が拡大しているので、厳密にはAシリーズまでがナローボディといえる)の時代は幕を閉じることとなる。

【SPECIFICATIONS】
ポルシェ 911タルガ
年式:1970年
エンジン形式:空冷水平対向6気筒SOHC
排気量:2195cc
最高出力:180hp
最高速度:230km/h

TEXT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
COOPERATION/ポルシェ ジャパン(Porsche Japan KK)

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